昨年に続き、外食に携わる人も、飲食に行く人にも厳しい1年となった2021年。酒類提供の自粛などの要請があけても、ライフスタイルの変化から昔のような賑わいはまだ戻ってきていません。そのような状況下でも、「明けない夜はない」と、一部の老舗が既存の店舗からの移転・建て替えをし、複数展開する居酒屋企業は、新店舗・新業態を開業する動きも多く見られました。
今年1年間、「Syupo」が取材した東京の酒場から、2021年中に新規開店や店舗移転を振り返り、その特徴をご紹介します。
目次
1.老舗の移転
長く続いてきたお店には、建物の老朽化や再開発などの可能性が常にあります。駅前の居酒屋は、その立地ゆえ、とくに再開発の話しがあり、これまでも多くの店が移転や、残念ながら閉店を選ぶということもありました。また、昨今の状況下で運営母体がきっかけとなって一時閉業するパターンも相次ぎました。
どの店も共通する、移転しても続ける理由のひとつは『ファンがついている』ということだと考えます。
馬喰町『びっくりうどん本舗 りばいばる』
八丁堀・宝町にあった人気店「びっくりうどん本舗」は、2020年に運営母体の関係で惜しまれながらも閉業してしまいました。
ファンが多かったお店でしたが、同店で働いていたご主人が中心となって新たに『びっくりうどん本舗りばいるばる』として7月1日、東日本橋に復活しました。お昼はうどん、夜は立ち飲みメインの居酒屋として、名物のシャシュリークなど昔からの料理が揃っています。
新橋『酒処かっぱ2nd』
新橋西口商店街の先、いくつか昔からの居酒屋が集まるエリアで1979年から続いていた「酒蔵かっぱ」。物件の関係から閉店してしまいましたが、こ同じ新橋内で移転、店名を『酒処かっぱ2nd』として営業を再開しました。市場で仕入れるマグロをはじめとした魚介類が変わらず看板メニュー。名物はカレーコンビーフ炒めです。
神田『徳兵衛』
御茶ノ水駅前にあった老舗酒場『徳兵衛』は、建物の老朽化などにより、こちらも惜しまれつつも閉店。閉店直後から、移転の話しがSNSで発信され、多くのファンが待ちわびていました。移転しても、マスターやお店の皆さん笑顔は同じで安心します。料理も絶品の煮込みなど、あの頃とほとんど同じです。
御徒町『中華 大興』
ヤミ市の屋台からはじまった、御徒町の人気中華『大興』は、緊急事態宣言下の中、閉店、建物の取り壊しが始まりました。建て替えが目的とのことで待つこと、半年以上、無事に再開しました。リーズナブルな価格設定はそのまま、本格中華が楽しめます。
東武練馬『大衆酒場食堂ななつぼし』
2020年、神田駅近くで「間借り営業」で創業した『大衆酒場食堂ななつぼし』。間借り営業は、もともと主体となっている店の営業に影響を受けやすいこともあり、同形態から卒業。多くのファンができた同店は、東武練馬に移転し、本格的な営業をはじめました。
2,厳しい今だからこそ、支店出店
これまでと違った層に向けた出店が続きました。
南浦和『初恋屋 南浦和店』
田端駅前にある人気の魚介酒場『初恋屋』が、なんと京浜東北線沿いの南浦和に支店を出店。田端の常連さんは京浜東北線利用者が多かったことも南浦和を選んだきっかけだそう。ボリューム満点、リーズナブルな魚介料理は支店でもかわりません。
立川『串焼き たまがわ』
立川駅前でお昼から飲める老舗酒場『玉河』のグループ店が誕生。玉河グループは立川で複数の居酒屋やレストランを展開していますが、『串焼きたまがわ』は、大箱でお昼から営業、誰でも使いやすい明るく開放的な大衆酒場です。
本家玉河がディープ過ぎると感じる方は、こちらがライトな印象もありおすすめです。
御徒町『もつ焼でん アメ横店』
水道橋を1号店に蒲田、中目黒などに支店をだしてきた『もつ焼でん』が7店舗目を御徒町のJR高架下に出店。これまでにない立ち飲みスタイルです。都心立地も、オフィス街と飲み屋街では客層が異なりますし、御徒町店は同社では初となる、吸引力が高い酒場エリアでの出店です。
3,大手居酒屋チェーンの業態変更
駅前に大きな店を構え、会社員の飲み会や宴会をメインにしていた企業が多い大手居酒屋チェーンは、昨今、相当な向かい風が吹き荒れています。宴会の禁止、リモートワークによるオフィス街の空洞化により、大箱居酒屋のニーズは蒸発してしまいました。
また、宴会向きの内装や料理、サービス体制も、少人数の個人客を受け入れるにはハードルとなっていました。
待ったなしの状況下で、各社様々な新ブランドでテコ入れをしています。
大庄『まる大』・『手ごね屋』・『オートロキッチン』
庄やをはじめ、やるき茶屋、馬肉酒場三村などを展開する大庄。同社がコロナ禍にはじめた新業態は、時間を問わず利用できる大衆食堂兼酒場や、専門性の高さが特徴です。
飯田橋『まる大』
飯田橋に一号店を出店した『まる大』は、これまで長く大庄として営業していた店舗を、内装は大きく変えずにコンセプトを「大衆食堂」としたのが特徴です。大学生も多い場所ということもあり、ボリューム満点の定食がウリです。また、来店客は全員、ソフトクリーム食べ放題というサービスを提供し、大きな話題になりました。
渋谷『手ごね屋』
どちらかといえば、硬派な酒場を得意とするイメージがある大庄が、思いっきりPOPカルチャーに寄せた「カワイイ」がコンセプトのつくね居酒屋。
サーバーを取り付けたテーブル席で、時間内なら好きなだけ自分でおかわりできるレモンサワーなど、トレンドが詰め込まれた業態です。
新橋『オートロキッチン新橋店』
渋谷のつくね居酒屋「手ごね屋」は20代から30代向けのように思いますが、新橋にできた『オートロキッチン』は、より食に興味を持つ人に向けたお店。専門性や同社の強みを活かしつつ、映える要素も取り入れた店舗です。
大庄は飲食事業だけでなく、食品の卸も得意としており、同社の傘下にある豊洲の老舗マグロ卸の仕入れ力を活かした業態です。
テンアライド『てんぐ大ホール』、『神田屋』、二毛作業態3ブランド
旬鮮酒場天狗でおなじみ、テンアライド。同社は、池袋西口の天狗1号店も業態変更するなど、積極的な新ブランドへの転換をおこなっています。天狗は、自社で輸入するワインや、こだわりの生ハムプロシュート、肉豆腐など、多くのアイテムをもっています。2021年は、それらを活かして天狗ブランドにとどまらない、食堂業態、低価格(センベロ)業態、二毛作ブンドの開店が続きました。
船橋『てんぐ大ホール』
食堂としても酒場としても使える「大衆スタンド」がコンセプトのてんぐ大ホール。ダサ・エモ的な背伸びしない感が魅力です。お酒を飲む場所としてだけではなく、食事場所として幅広い層が利用しやすい雰囲気です。
ファミレス飲みが席巻する昨今ですが、居酒屋チェーンが逆にファミレス化したという印象を受けます。
池袋『神田屋』
池袋西口にあった天狗は、全国に100軒以上を展開するテンアライドの1号店です。同社は、神田からはじめた低価格業態の「神田屋」への転換を都心立地で進めており、ついに1号店まで「神田屋」化しました。低価格業態になっても、半世紀以上続く歴史あるチェーンとして、ノウハウや底力を感じさせる料理や接客が魅力です。
二毛作ブランド『大衆とんかつ かんだ』
10月に入り、立て続けに既存の居酒屋業態のランチ営業を、新規開発した食事をメインにしたブランドに変更し、昼夜で異なる看板を掲げる店舗が誕生しました。
総合居酒屋を運営する同社は、様々な強み・食材をもっており、それらをひとつずつ専門店化したものです。
とんかつかんだ。1,000円未満で本格的なとんかつ定食が楽しめます。
4,関西から東京進出、エモい店
大阪で話題になっている、ネオン系とも呼ばれる「エモ系酒場」。写真映えするだけでなく、しっかり美味しく誰かに教えたくなる個性的な料理の数々。お昼から通しで営業する飲んでも食べてもいいという自由さが人気の理由でしょう。台湾や東南アジアテイストを古くからの食堂メニューとミックスしたようなお店も登場しました。
五反田『そのだ 五反田店』
関西で人気の「そのだ」が東京進出。タイル張りの空間で、明るく開放的。メンチカツやナポリタン、ラーメンなど、食堂の定番料理を楽しむ店です。平成初期に流行った、人気アニメのキャラクターが描かれたグラスでバイスを飲めば、子供時代の夢に迷い込んだような気分です。
5,人気センベロチェーン、姉妹店誕生
成城学園前『さんたろう』
東京を中心に店舗数を増やしている低価格居酒屋『ほていちゃん』。『ほていちゃん』は都心のターミナル立地向けの業態ですが、同社も時代の変化から、住宅街駅前向けの新業態を開発。それが『さんたろう』です。ただ、同ブランドは12月29日に上野に出店を予定しており、今後、ブランドが変化する可能性はありそうです。
全体的な特徴
都心、駅前が1等立地―― そうした立地条件が崩れ、ベッドタウンの店が利用され、オフィス街は集客できない状況に悩まされた飲食店が多かったです。また、お酒に頼ったビジネスモデルからの転換を図るため、食事利用や、エスニックなどの専門店色をだしたブランドの開発が相次ぎました。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)