徹底取材『銀座ライオンビル』現存する最古のビヤホールの全フロア

徹底取材『銀座ライオンビル』現存する最古のビヤホールの全フロア

2021年4月8日

銀座通りにある歴史あるビヤホール、銀座ライオンビヤホール。

ビールファンに限らず、銀座を訪れる人々の間で知らない人はいないでしょう。今日・4月8日は同ビヤホールが竣工した日です。これを記念して、Syupoでは建物の全フロアを取材してまいりました。

東京都中央区銀座。誰もが知っている日本を代表する繁華街です。目抜き通りである銀座通りには、資生堂や和光、海外のブランドショップが立ち並びます。その中に一棟まるごとビヤホールのビルがあります。当たり前のように利用していますが、よく考えたらスゴイ場所にあります。

(写真:株式会社サッポロライオン)

大日本麦酒(現在のサッポロビール)が本社ビルとして建設したもので、竣工は1934年(昭和9年)。建築家・菅原栄蔵氏の設計による鉄筋コンクリート造りの6階建て。完成時、「銀座ビル」(現在は銀座ライオンビル)と名付けられました。それまで目黒区三田(現在の恵比寿ガーデンプレイス付近)にあった本社が同ビルの完成で銀座に移ります。

1階には大日本麦酒直営のビヤホールがつくられ、4月26日より営業を開始。ハイカラな銀座を代表する飲食店として、脈々と飲み手・注ぎ手たちによって受け継がれてきました。現在も営業を続けているビヤホールとしては最古と言われています。

(写真:サッポロビール株式会社所蔵)

銀座のビヤホールは、銀座ビルのビヤホールが最初ではありません。大日本麦酒設立以前の1899年に、ヱビスビールを製造する日本麦酒(大日本麦酒を経て現在のサッポロビール)のアンテナショップ的な位置づけとして、約40坪の麦酒専売居酒屋「恵比寿ビヤホール」がつくられます。これが、日本で初めての常設型ビヤホールであり、銀座ライオンの原点になります。

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朝のビヤホールへ向かいました

銀座ライオンはお昼から夜まで通しで営業するお店。お昼から飲める場所として明るい時間から賑わいますが、今日はそれより早く、いっときの静けさを取り戻した午前中に伺いました。

取材協力:株式会社サッポロライオン

大勢の人々が日々笑いながらジョッキを掲げてきた場所。静かな時間が流れていることが不思議です。

1階のビヤホールは創業当時の面影をとどめている

「天下一の建物に。後世まで残る日本を代表するビヤホールに」という建築家の想いが込められた空間は、サッポログループだけでなく、日本のビールファンにとっても宝物と言えるでしょう。

ビヤホールのデザインテーマは「豊穣と収穫」。大小12のガラスモザイクが配置され、これらのデザインも建築家・菅原氏によるもの。正面大壁画はとくに印象的なもので、縦2.75m、横幅8.75mと巨大で、完成まで3年もかかったとされています。ビールの原料である大麦の収穫の様子が描かれています。アカンサスの花やブドウなども描かれ、古代ギリシャ絵テイストです。

銀座6丁目側(GINZA SIX側)は交詢社通りに向けた窓が配置されていますが、銀座8丁目側(ZARA側)には窓がありません。それを補うかのように、窓がない壁面にもモザイクアートがデザインされています。

デザインの特徴のひとつとして、窓をイメージしたすべての壁画で、花瓶から伸びる花のさらに上に昆虫が描かれています。同行の広報担当さんに言われるまで、今まで一度も気がついていませんでした。

いずれも発色がよい美しいガラスばかりで、とても80年以上前のものには思えません。洋行帰りのガラス職人・大塚喜蔵氏がガラスを用意し、その色数はなんと46,000色。そこから菅原氏によって250色が選ばれ、いずれも明るい印象があります。

床も特徴的なタイル張り。初の日本人のみで設計・制作されたモザイクアートを含む巨大建築物。当時の技術と財力をつぎ込んだ存在です。ここでいまも飲めることがとても嬉しいです。

そのまま天井に目を向けると、そこには印象的な球体照明がいくつか異なるサイズでさがっています。これも建築当時のもの(一部付け替えられたものがあります)で、ビールの泡をイメージしたと言われています。

また、その後ろにある天井は少し煤で黒くなっているように見えますが、これにも理由があります。

銀座ビルは太平洋戦争の空襲被害が少なく、終戦後は進駐軍専用のビヤホールと使用されていた頃があります。このとき、店内でバーベキューをしたことが原因だとか。天井は耐震工事により一部補強され、そこは色が明るく差がわかります。

麦を彷彿させる装飾を施した高い屋根はまるで神殿のよう。かつては入口側に中二階の展望席があり、店内を高い位置から見下ろしながら飲むこともできたようです。

正面のカウンターの両サイドにもモニュメントのようなものがあります。実はこれは噴水だったもの。今は残念ながら常時使用できないそうですが、大変贅沢なつくりだったことがわかります。

※創建祭の4月8日は噴水が復活しています。

(写真:株式会社サッポロライオン)

開業当初の写真にも現在と同じように噴水、大壁画、球体照明が写っています。

憧れのカウンターの内側へ

特別にカウンターの内側へ入れてもらいました。中央に立つ鈍く輝く真鍮のカランが、銀座ライオンビヤホールの美味しさの原点。ここから定番の銘柄・サッポロ生ビール黒ラベルが注がれます。

ビールグラスはすべて氷で冷やしています。カウンターの内側はこうして準備されたグラスや、ヱビスやエーデルピルスなどのサーバーが随所に並べられ、大人2名がやっと入れるほどのスペースしかありません。外から見ているよりもだいぶ狭いのです。

サッポロビール千葉工場から運ばれるできたてのビールが地階のタンクに一時的に冷温貯蔵され、ビールの回路はそのまま1階のカウンターにあるこのカランに繋がっています。地下から1階のカウンターまで、建物そのものがひとつのビールサーバーになっています。

スウィングカランと呼ばれる昔から使われて続けてきたビールサーバーの抽出口は約3秒でグラスを満たすほどの勢いがあり、扱いが難しいです。

サッポロライオン社の中でも扱える社員は多くなく、熟練した技を持つ専任のビヤマイスター(カウンタースタッフ)が代々受け継いでいます。

カウンタースタッフ、佐々木さんにこの日の一杯目を特別に注いでもらいました。

グラスの内側を抽出口ぎりぎりに近づけ、いっきに流し込んでいきます。左回りの渦を描くとビールは白く濁り、グラスを台に置いたのと同時に、泡と液は1:3の完璧な比率となり、グラスの星の肩の位置に境目ができます。

同じ黒ラベルでも、やはり銀座ライオンビヤホールで飲む黒ラベルの美味しさは格別です。

朝、ビール工場を出発し、10時頃に銀座へ届けられる

銀座ライオンビヤホールのビールの美味しさは、注ぎ手の巧みな技と、流速がはやいビールサーバーにあり。そして、それを支える特別な物流も美味しさの理由のひとつです。

通常の飲食店の生ビールは10Lや20Lの樽に詰め、ビール工場から酒類卸売業や酒販店を経由し届けられています。それが、ビヤホールライオン銀座7丁目店では、サッポロビール千葉工場から専用のトラックで直送されています。

提携する物流会社のトラックは、朝7時頃に千葉県船橋市にあるサッポロビールの工場でビールを積み込み、まっすぐ銀座7丁目を目指します。トラック1台で1店舗分です。午前10時頃、銀座ライオンビルの裏に珍しいタンクをつんだトラックが止まります。

この道30年以上、千葉にビール工場が完成した頃から担当しているというベテランドライバーによって、消火ホースほどあるような管が引き込まれていきます。

6基のタンクで静かに冷やされる

ここがビヤホールの心臓部ともいえる、地階のビール貯蔵室。普段、メディアもほとんど入れない場所。

タンク銘板には、昭和のサッポロのフォントが残っていました。

内部には6基の1,000Lタンクが並び、夏季にはすべてのタンクが稼働するといいます。ほかにもエーデルピルスの20L樽などが積み上げられています。1,000Lタンクは1階のライオンビヤホール7丁目店の黒ラベルのみで使用されており、他の銘柄や2階以上のフロアは樽詰めが接続されています。それでも、注ぎ方はライオン式に変わりはありません。

空間の中はビールの飲み頃の温度で保たれており、内部での作業は苦労がありそうです。

地上のトラック側と貯蔵庫内の2名体制で連携し、タンクから溢れないようにやり取りを行っています。トラック側を止めても回路が長いため、そこに残るビールが流れ込むことなどからベテランの技が必要な作業です。電波が入らない環境のため、建物に常設された昔ながらの有線ヘッドセットが使用されています。

2階、ビヤ&ワイングリル銀座ライオン 銀座七丁目店

銀座ライオンビルの2階は、洋食レストランです。1階はビールを飲むことがメインですが、2階は落ち着いて食事が楽しめます。

タイルの色の違いに歴史あり

1階のビヤホール内や、階段などに使用されているタイルも竣工当時のものです。水回りの修繕や耐震工事、バリアフリー化などで一部手直しした際に、改めてこのタイルが必要になったそうですが、なんと社内に保管されているものが発見されたのだそう。

長く使われてきたものと比べ色が濃いので見分けが付きます。新たに日の目を見た80年以上前のタイルと、長く使われてきたもの、その違いは、2階へ登る階段の壁面でわかりやすく見つけることができます。手前が新たに使用されたタイル。

2階以上は、竣工時は大日本麦酒のオフィスフロアだった場所。大日本麦酒は戦後、アサヒビールとサッポロビール(当時は日本麦酒)に分社され、引き続き銀座ビルはサッポロビールの本社として使用されてきました。1978年に銀座ビルの木挽町側に新社屋(現在はサッポロ不動産開発:ストラータ銀座)ができると、銀座ビルは「銀座ライオンビル」となり、2階以上も飲食店へと姿を変えていきます。

ランチを落ち着いて食べたいときは、2階のビヤ&ワイングリル銀座ライオンがおすすめ。個室があるため、大切な人と静かにビールを飲みたいときにも使い勝手が良いです。一人飲みでも個室を利用できるため、昨今の時節柄の状況でも比較的安心して美味しいビールが楽しめます。

いくつも個室がありますが、「あたり」の部屋をご紹介します。卓番77は銀座通りに面した角の4人個室です。予約時、卓番を指名することも可能です。

銀座通りを見下ろす絶好のローケーションに、1階のビヤホールとはまた違った銀座ロマンを感じることができます。銀座4丁目交差点の和光の時計台まで見通せるこの席は、夜景を楽しむのにも良さそうです。

3階はろばた焼きのかこいや 銀座七丁目店

銀座ライオンはサッポログループの飲食事業会社。ビヤホールからはじまりましたが、ほかにもいくつか業態があり、銀座ライオンビルの3階にも、同社の居酒屋業態「かこいや」が入っています。

炭火ろばた焼きを看板に掲げるお店で、日本酒や焼酎などを揃えています。

かこいやにも、特別な席があります。店内の奥へ進んだ突き当り、こちらも銀座通り側の席で、カウンターとソファを置いたゆったりとした席です。

窓側を向いたカウンター席ですから、眺望はなおよしです。

平日は11:30~14:00、土日祝日は12時から通しで営業しており、平日は税込み1,000円からのランチが食べられます。銀座通り沿いとは思えない落ち着いた空間です。

わたしは本日の魚御膳(取材時はぶり照り焼き・税込1,480円)とサッポロ生ビール黒ラベルの金口グラスを。昼食を兼ねたランチビールを銀座ライオンで楽しむ、お手頃価格で贅沢気分が味わえます。

4階は完全個室の入母屋 銀座七丁目店

会席料理をだす入母屋は、銀座ライオンの中でも特別な業態。接待や記念日向きのお店で、全室個室席。ハイクラスなお店はあまりご縁がない筆者ですが、取材ということで特別に中を見させてもらいました。

クラシックホテルを思わせるような絨毯敷きの廊下がつづきます。

すべて個室で、木材を多用したシックな内装です。黒毛和牛のすき焼きコース8000円(税込/サ別円)などがあります。

5階はサッポロライオン本社

銀座ビル(現在の銀座ライオンビル)の1階で大日本麦酒が直営でビヤホールをはじめた1934年。その2年後、大日本麦酒の外食部門が独立し、共栄株式会社となります。これがビール会社系列の飲食事業会社のはじまり。その後、サッポロ共栄などを経て、1979年にサッポロライオンになりました。

銀座ライオンビルの5階がサッポロライオンの本社です。2021年3月までは渋谷区恵比寿の「恵比寿スクエア」(サッポロ不動産開発)にありましたが、移転しました。

オフィスが少し狭くなったそうですが、リモートワーク対応も進んだことから適切な規模なのだそう。ビル内に厨房があり、料理などの試作もいまは銀座ライオンビル内で行われています。

広報担当さんも、創業の地・銀座に事務所が移転したことで取材対応の移動距離がなくなり楽になりそうですね(笑)

6階はビヤガーデンになる予定だった!?

最上階、6階はクラシックホール。アールデコ風のつくりで、整然とした幾何学的なデザインはどこか教会をイメージさせます。

設計当初、銀座ビルは5階建てを予定し、屋上にはビヤガーデンを設ける計画だったとのこと。大日本麦酒株式会社の講堂をつくる必要がありビヤガーデン部分に増築されました。それでも戦前に建てられたもので、レトロな雰囲気が漂っています。

50人以上入る宴会場として一般の人も利用可能とのこと。世の中が落ち着いたら、銀座ライオンの最上階でビールパーティーでお祝いしてみてはいかがでしょうか。

サッポロライオンの入社式などでも使用されているそう。読者のみなさまには「中の人」もいらっしゃるかと思います。銀座の特別な場所で社会人を迎える、とても素敵な経験ではないでしょうか。

ステンドグラスが、少し内側に歪んでいることがおわかりになりますか。これは銀座空襲の爆風をうけた跡と言われています。様々な歴史が眠る建物です。

講堂の先は、銀座通り側に部分的にある屋上にでます。ここには日枝神社の神様を祀る社が設置されています。歴史ある企業は、企業内神社やお稲荷さんを祀っていることがありますが、銀座ライオンもそうした一社です。

毎朝、かかさず支配人らがビールをもって祈願しています。

お社の横から眺める銀座の街。絶景です。もし、ここがビヤガーデンのスペースになっていたら、さぞかし開放感があって気持ちよかったことでしょう。

以上、1階から心臓部の地階の貯蔵室、6階までをめぐりました。

隅々まで設計者やビール関係者の想いが丁寧に詰め込まれた銀座ライオンビル。いまも多くの職人の仕事によって、いつものビールを特別なビールに磨き上げ、提供し続けています。商売としての飲食事業ではあるものの、サッポロライオンはその長い歴史を大切に紡ぎ、守り続けていこうという強い決意も感じました。

大箱で宴会向けの業態が多い同社。厳しい世の中ですが、ビール好きの心をくすぐる、ライオンならではのサービスを広げていってほしいものです。

隅々まで、レトロでかわいいビル、それが銀座ライオンビルで感じる私のイメージ。再び、ビヤホールが笑いで包まれることを切に願います。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/株式会社サッポロライオン SpecialThanks/サッポロビール株式会社)

4月8日は創建祭として、人気メニューが特別価格になっています。