4代目が守る老舗暖簾『丸愛酒場』。三河産をはじめ旬の魚介類を揃える、海のまちの大衆酒場です。蒲郡最古の居酒屋で90年近い歴史があります。老舗のカウンターには地元のお酒好きが集い、街の豊かな表情がみえてきました。
目次
海と温泉のまち、蒲郡
蒲郡駅
三河湾に面した人口約7万9千人の街、蒲郡。景勝地・竹島をはじめとした、海を中心にした保養地として栄えてきました。
東海道新幹線は素通りしていますが、豊橋と名古屋を結ぶJR東海道線の沿線では蒲郡は比較的大きな街で、通勤時間帯は名古屋や豊橋への通勤・通学で賑わいます。また、休日になると温泉街や大型リゾート施設「ラグーナテンボス」、竹島水族館を目指す観光客も多いです。
蒲郡港
海に接するような場所に駅があり、南口から5分もかからず三河湾を眺めることができます。蒲郡港(三河港)は主に自動車の輸出入に使用されているほか、漁港も点在しています。水深20mほどの三河湾内ではワタリガニやタコ、アイナメなどがとれるほか、渥美外海ではメヒカリ、ニギス、ホウボウなどがあがり、魚種が豊富で水産物が美味しい街としても知られています。
南口は港、北口は街道筋の商店街
JR・名鉄蒲郡駅が港地区と市街の境界線になる立地にあり、南と北で駅前の風景は大きく異なります。
北口側の元町地区は、歴史ある平坂街道と1888年に開業した蒲郡駅を囲むように古くからの商店街が形成されています。落ち着いた雰囲気はあるものの、飲食店は賑わっている店も多い印象です。
風向き次第で時折漂う潮の香りと、飲食店からたつ料理の香りが入り混じります。
昭和8年創業、丸愛酒場
外観
店の歴史は古く、昭和8年から続く界隈きっての老舗です。縄のれんを掲げた正統派の酒場の店構えは、人によっては入りにくいと感じるかもしれません。老舗酒場好きならば、むしろこの外観に誘われるのではないでしょうか。
内観
3代目と4代目が厨房に立つ家族で続けてきた丸愛酒場。親子の料理を眺めながら楽しそうに飲んでいるお客さんは、皆さん地元に暮らす常連さんです。
ベテランの方が多いですが、意外と若い世代も飲みに来るようで、地域で幅広く親しまれている様子がうかがい知れます。
厨房に向いたL字のカウンターは、こういう世の中でなければ、各所に敷居や柱がなく、老舗酒場特有のお客さんと店の人同士で空間を共有する楽しさがありそうです。
乾杯は大樽のキリンラガーで
店の看板の通り、半世紀以上キリンビールを提供し続けてきた酒場。一番搾りではなく、ラガーの大樽というのにもこだわりが伝わってきます。それでは乾杯!
品書き
生ビールはキリンラガー<中>:500円、瓶ビールはキリンラガー(RL)大ビン:600円、アサヒスーパードライ大ビン:600円、サッポロラガー大ビン:600円。
チューハイは440円~。愛知県では珍しいホッピーもメニューにあります。
常連さんが飲むお酒はボトルの焼酎(白水2,750円など)か日本酒。日本酒は西尾の造り酒屋・山崎がつくる尊皇(そんのう)です。
本日のおすすめ
蒲郡をはじめ、三河や静岡であがる魚介を中心にした品揃え。
取材時は4代目が力をいれている定番の刺身でバチマグロ:750円、カツオ造り:750円、赤ハタ造り:820円、本キスの梅しそ巻き天ぷら:850円、カキフライ:850円など。
旬や水揚げ次第で、三河湾の本皮はぎ、キンメ造り、とり貝造り、ニギスフライ、太刀魚、自家製しめ鯖なども加わるそうです。
定番メニュー
愛知の食文化圏にあり、鍋ではぐつぐつと、牛スジみそ煮込み:600円と、豚ホルモンみそどて煮:520円が準備中。おでんも美味しそうです。
串焼きは、ハツ、ホルモンなど120円から。炒めものはピリ辛ホルモン炒め:660円ほか。揚げ物は目ヒカリ唐揚げ:660円、まぐろチーズ串カツ:220円なども。
割烹修行を終え、店を継いだ4代目の料理
アオウメ造り(820円)
アオウメとは、この界隈でのアオハタの呼び名。鮮度が落ちやすい魚だそうで、刺身で食べるのは鮮度がよい証。身は甘く、余韻は深い。濃い地元の醤油とあわせるとより滋味深く、お酒を誘います。
ご主人がこだわる、バチマグロ。数切れを試食させていただきました。本マグロとはまた違った風味や旨味があり、見た目以上に脂ののりがいい魚です。
カウンター席の端には、尊皇の菰樽が積み重なっています。蒲郡には酒蔵がないものの、尊皇がこの街では長年親しまれているお酒だとご主人。地元の定番酒を自信を持って当たり前にだしている、そういう酒場はいいお店だと思います。
2合徳利で尊皇を。清酒朱盃尊皇が正式名称で、大正9年から続くお酒で、丸愛酒場は創業時から取り扱っているそうです。飲み飽きがこない、魚の味を引き立てる良いお酒です。
目ヒカリ唐揚げ(660円)
三河産のメヒカリ。冷凍ものではなく、鮮度がよい生のものをパリッと唐揚げにしています。サクっとした皮の中は、驚くほど柔らかく旨味たっぷりの汁が染み出してきます。
おでん
出汁の香りに誘われて、おでんを。
4代目は酒場の家庭にうまれ、自然と料理人の道を選んだそう。有名な和食店で研鑽をつみ、そうした中で家業をつぐ強い気持ちが生まれ、いまこうして店に立っていると話してくれました。料理の腕の良さは、写真からも伝わりますでしょうか。包丁も出汁も盛り付けも、和食修業をした人の仕事を感じます。
まぐろチーズ串かつ(220円)
揚げ物も、定番の串カツではなく、魚が美味しい店ですからマグロを頼んでみました。さくっとつまみつつ、お燗酒をもう一本。楽しい時間が続きます。
名古屋や豊橋からJR東海道線の新快速で簡単アクセスの蒲郡。新幹線ならば瞬きしている間に蒲郡駅前を通過してしまいますが、こうしてじっくり酒場のカウンターでお酒を楽しむと、たくさんの表情が見えてきます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 丸愛酒場 |
住所 | 愛知県蒲郡市元町8-4 |
営業時間 | 営業時間 16:00~22:00 日曜営業 定休日 月曜日 |
開業年 | 1933年 |