仙台湾から鹿島灘にかけた太平洋沿岸、阿武隈高地で隔たれた相馬や磐城は、はるか昔から漁業がおこなわれてきた地域です。
また、奈良時代には相馬で製鉄所がつくられ、近代は磐城平で常磐炭田が稼働するなど、長い年月で時代を反映した産業が設けられてきました。
歴史ある街には飲み屋街あり。今回は福島県浜通りから、茨城県太平洋沿岸の酒場・居酒屋を訪ねるおすすめのコースをご紹介します。
目次
今回のルート
2020年に全線で運転を再開した常磐線に乗って、仙台から相馬、いわき、日立、水戸と太平洋沿いを南下し、千葉県銚子を目指します。
かつては、陸前浜街道(浜街道・岩城相馬街道)と呼ばれていた国道6号に沿うルートですが、やはり飲む旅ならば自家用車よりも公共交通のほうが断然おすすめ。上野と仙台を太平洋まわりで結ぶJR常磐線の特急ひたち号に乗って飲みに出掛けませんか。
1,仙台
出発は東北最大の都市、仙台。
文化横丁にいろは横丁、東一市場と、仙台は細い路地に小箱の酒場が連なる魅力的な飲み屋街がいくつも残されています。この街の夜は、国分町のような派手でにぎやかな場所だけではありません。
仙台・東一市場「菊水」の地魚刺身盛り合わせ
東一市場でまもなく30年になる居酒屋「菊水」。
特長はなんといっても、ご主人が繰り出す郷土料理やご当地食材の数々。どれも秀逸で、県外から飲みに訪れる人も多かった人気店です。
おすすめは色々ありますが、まずは仙台湾などで水揚げされる、地魚の刺身盛り合わせを食べてみてください。写真は、近海ののどぐろ、〆鯖、さんま刺し。
関連する記事:
仙台「菊水」 陸前の海幸・山幸に舌鼓。親方のもてなしもお酒を引き立てます。
仙台・国分町「郷土酒亭 元祖 炉ばた」のホヤ
70年以上続く老舗居酒屋「郷土酒亭 炉ばた」。
2020年に老舗の襷が飲食事業会社に繋がれ、これまでの雰囲気そのままに再始動。地酒天賞を昔からの銅壺でお燗をつけます。このお燗酒が夜は初夏でも寒くなる仙台の夜にぴったり。地物のホヤをつまみに、国分町に中にあるいっときの静寂を楽しみます。
関連する記事:
仙台「元祖炉ばた」 仙台の名店の歴史を紡ぐ、三代目のタスキ。
2,相馬
相馬中村藩の城下町、相馬。仙台からはJR常磐線の普通列車でも約1時間ほどと、それほど離れていません。
駅周辺は城下町ゆえの古くから飲食店街も小さいながら存在します。路線バスを利用すれば、日本百景のひとつ松川浦の絶景を見に行くことも可能。松川浦近くは人気の海鮮食堂があります。
相馬「かつ吉」のとんかつ
相馬市内の飲食店でも特に歴史がある、築100年以上の木造2階建ての店。
とんかつ店としては、40余年で、ご兄弟と女将さんで切り盛りする家族経営の店です。時間が良ければ、相馬駅で列車を途中下車して、かつ綴じでランチビールなんていう楽しみ方はいかがですか。
関連する記事:
相馬「とんかつ かつ吉」 100年建築で食べる街の味。家族経営の良いお店。
3,いわき
旧常磐炭田で知られる磐城・平。
実は福島県の県庁所在地の福島市を抜いて、県内最大の人口を誇る街です。働く人々が多いエネルギー産業があることなどから駅前の歓楽街も立派。居酒屋では、メヒカリに代表される地魚をはじめ、遠洋の魚介類も多数水揚げされる小名浜港の新鮮な魚介類が楽しめます。
いわき「のんべえ」の近海イワシなめろう
1980年創業の「のんべえ」。いわし料理を得意とする居酒屋で、板前さんが立つ調理場を囲む大きな変形L字カウンターが特長的。
近海物の抜群に鮮度の良いイワシを、注文を受けてから手際よく仕上げていく「いわしなめろう」が絶品。なめろうは千葉だけでなく、太平洋側は磐城まで広く食べられてきた郷土料理です。
関連する記事:
いわき「のんべえ」 港町の酒場で、魚介料理と地酒又兵衛を愉しむ
湯本(いわき)「おかめ」 のメヒカリ
いわき市の魚にも指定されているメヒカリは、食卓の大定番。
市内の温泉街、いわき湯本にある食堂「おかめ」で、地酒と一緒に、トロフワ食感の甘いメヒカリに舌鼓を打つひとときをぜひ。駅前にあってお昼から通し営業しているので、途中下車して飲みに行くにも便利です。
関連する記事:
湯本(いわき)「おかめ」 名物女将が待っている、土地の味に舌鼓をうつ。
4,日立
日立グループのお膝元、鉱山の街としてはじまった茨城県北部の日立市。鉱山や工業がある街に、酒場はセットです。日立駅周辺や常陸多賀には古くからの飲み屋街が広がります。
写真の塙山キャバレーは、とくに渋いな雰囲気が漂っています。ディープな雰囲気とは真逆に、どのお店も飲み物の価格は同じで、安くて安心して飲めるスポットです。
日立「味どころ あかま」の海鮮丼
駅前の元鮮魚店が営む海鮮食堂兼大衆居酒屋。浜通りで水揚げさられた魚介類などを手頃な価格で食べさせてくれます。刺身と天ぷら料理が人気です。
写真の海鮮丼天ぷら定食は、こんなに豪華で2,000円です。
関連する記事:
日立「味どころ あかま」 地元の人が通う大衆割烹で、小名浜港の鮮魚を楽しむ
5,勝田
ひたち海浜公園があるひたちなか市。県庁所在地・水戸のベッドタウンでもある、同市の玄関口・勝田駅まで常磐線を上ってきました。勝田駅前にも立派な飲み屋街があり、はしご酒が楽しい場所です。
勝田「山甚道場」の岩牡蠣
三陸が真牡蠣で、鹿島灘は岩牡蠣。
茨城県は、カツオやシマアジなどに代表される海産物の宝庫。特に暖かい季節の岩牡蠣は絶品です。手のひらサイズはある巨大な岩牡蠣は、4等分にしても、それでも食べきれないほど。ふんわり香る磯の香りと甘さが絶品です。
関連する記事:
勝田「山甚道場」 黒帯ノンベエ御用達。地魚地酒を楽しむ大衆酒場
6,水戸
ご存知、水戸黄門でおなじみ、茨城県の県庁所在地・水戸市。水戸東照宮の参道をはじめ、かつて花街があったエリアには巨大な飲み屋街が広がっています。とても数日では遊びきれないほど、飲み屋の数が豊富です。
ここまで来ると、東京までは特急列車で1時間10分ほどなので、ついつい日帰り圏として考えてしまいがちですが、絶対一泊したほうがいいです。いつも、最終の特急ときわで帰途に就きながら「泊まればよかった」と後悔しています…。
水戸「てんまさ」のカツオ銀づくり
茨城の郷土料理、かつお銀づくり。脂ののったカツオの腹の部分は皮が薄くそのまま食べることができることから、とくに好んで皮ごと食べられてきました。藁焼きやタタキとはまた違った、濃厚な旨さと酸味が味わえます。
関連する記事:
水戸「てんまさ」この街の大衆酒場の代名詞。昼から郷土料理で一献傾けよう
7,大洗
茨城を代表する港、大洗港(現在の茨城港)がある港町「大洗」。カジキ釣りの聖地として知られ、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の大洗駅前にはカジキのシンボルが飾られています。近年は有名アニメの舞台となったことから、アニメの聖地としても多くの人が訪れるようになりました。
大洗「土びん」のナメタガレイ煮付け
大洗も水戸同様にカツオや冬のあんこう料理が有名ですが、地元のノンベエさんが日常的に食べている魚は「カレイ」など砂地の魚や根魚たち。土びんは、カレイだけでもサメガレイなど数種類を用意し、魚種が選べるようになっています。
ナメタガレイ(ババガレイ)は溶けるように柔らかく、上品な甘味が実に美味しいです。
関連する記事:
大洗「土びん」 美味しいものを食べに行こう!海岸の港町は海の幸いっぱい
8,銚子
ほぼ一直線に南北に伸びる鹿島灘の南端、銚子半島。ここからは南は九十九里浜にかわり、房総半島、東京湾へと続くのは御存知の通り。銚子は日本有数の水揚げを誇る港町であり、江戸・東京に向け古くから醤油づくりが盛んに行われてきた街です。
銚子「魚料理常陸」のあんこう酢味噌
鮮魚問屋が直営する大衆割烹「魚料理常陸」。秋から春にかけてのあんこうの季節限定で食べさせてくれる「あんこう酢味噌」が絶品。銚子では昔から食べられてきた漁師家庭料理のひとつだそう。
素朴な料理ですが、あんこうそのものの旨味が素晴らしく、あん肝を溶かした酢味噌は、何杯でも日本酒を進ませてくれるような美味しさです。
ゴール
仙台から銚子まで、太平洋沿岸を約350キロメートルにわたる旅。最後は犬吠埼の絶景を眺めて帰るのもいいですね。
常磐線の全線再開や、各港町の再整備が進み、再び飲み歩き、酒旅が楽しめるようになりつつあります。酒場は空間そのものが最大の魅力です。地元の皆さんと一緒に、土地のグルメに舌鼓を打つ旅はいかがでしょう。
関連記事・仙台以北はこちら:
【2021年】三陸海岸の居酒屋でご当地グルメ!「三陸酒場」7エリア
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)