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「郷土酒亭 元祖炉ばた」は、仙台出身の郷土史家・天江富弥氏が1950年に開いた酒場です。同氏の交友の広さから、店には永六輔さん岡本太郎さんなど多くの文化人が通ったことで知られています。
その後、元祖炉ばたの支店で働いていた加藤潔さん、和子さん夫妻が店を継ぐことになり、1992年に現在の飲食ビルの1階に店舗を移転させました。
全国からファンが集まる仙台の名店と言われた「元祖炉ばた」ですが、感染症拡大により、国分町にある同店は客足が激減。創業70年目にして、2020年6月30日、店の歴史にピリオドが打たれることになりました。全国紙で取り上げられ話題になったことは記憶に新しいです。
この「元祖炉ばた」を継ぐ人が現れ、2020年8月1日、なんと驚きの復活を遂げました。
タスキを繋ぎ、雰囲気を守り続ける
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再開を聞きつけて訪れる人は多数。「Syupo」でも、その様子を取材しました。
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「おばんです」で迎えてくれるのは昔のまま。くり材の囲炉裏を囲むカウンター席に腰掛ければ、静寂の空間に自然と背筋が伸びる気がします。
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10席ほどのカウンターと奥には個室あり。醍醐味はやはりカウンターの臨場感でしょう。
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自在鉤に吊るされた茶釜と、遠火で燗をつける銅壺がセットされています。燗にする日本酒は、仙台で200年の歴史ある銘柄「天賞」。天江富弥氏の実家が天賞酒造(後年はまるや天賞)だったことが由来です。
同酒造は、2011年、震災被害などにより廃業することになり、銘柄としての「天賞」は中勇酒造店(宮城県加美町)に受け継がれました。
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1950年、なんとビリヤード場を古民家風に改装してつくられたそうですが、東北各地から集められた調度品の数々や店そのものの歴史から、いまではすっかり「文化財」級の雰囲気。
短冊の献立には東北の料理を中心に、庶民的なものが並んでいます。
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一杯目はビールから。歴史ある空間には飴色の瓶ビール(中びん680円)が似合います。それでは乾杯。
清酒天賞に加えサワーがメニューに加わった
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樽生ビールの取り扱いはなく、中瓶でサントリー、アサヒ、キリン、サッポロの4社揃え。多くの人が天賞の本醸造をおかわりしますが、同銘柄のにごりなども置いています。若い人にも来てほしいということから、新たにサワー類が追加されています。
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料理は500円台から。差し込みには、旬の魚介類も並びます。取材時はホヤ(880円)が献立の筆頭です。
先付でお刺身などが一通り列ぶ
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先付がでまして、これがお酒好きの心をくすぐる内容です。宮城で水揚げされたカツオと、山形の郷土料理・だし奴。
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主役はこの空間であり、おつまみはわずかに摘む程度がちょうどいい。カツオ刺しなどを少しずつ摘んではビヤタンを乾かします。
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喉が潤ったところで、日本酒を。甕(かめ)にいれた日本酒を一合の枡柄杓で掬い、じょうごをつかって二合徳利にいれます。これを銅壺にいれて待つこと数分。
大きなしゃもじでお燗酒は渡される
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元祖炉ばたの文字の通り、伝統として大きなしゃもじに載せてお渡しします(三代目・松村康夫氏)。
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甕による影響か、天賞本醸造の原料と添加の腕のよさか、はたまたその両方か。元祖炉ばたの天賞本醸造(580円)のお燗は非常にバランスが良く心地よい味わいです。
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先付の3品目、鰰(はたはた)が、滴るほどにぷっくりと焼き上がりました。脂がのり、旨味たっぷり。その余韻をぬる燗のお酒がより華やかにします。
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単品の追加でホヤ刺し(880円)。東北の食材を、お酒のつまみ程でちょっとずつ摘める、遠方から訪れた人には嬉しい内容です。お酒はおかわりするごとに、少しずつ温度が上がっていきます。
いつもの言葉で見送られる
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二代目加藤夫妻から店を受け継いだのは、なんと東京の居酒屋を展開する株式会社絶好調という企業。同社の社長の吉田将紀さんはサントリー系の飲食企業・ダイナック出身で、その後、居酒屋「てっぺん」の創業メンバーを経て、独立後に「絶好調てっぺん」を開業した方。そして、元祖炉ばたの十年来の常連さんだそう。
店の引き継ぎを相談され、店主に同社の松村さんが就くことで今に至るそうです。加藤夫妻との交流はもちろんあるとのこと。東京の居酒屋グループが経営することで変わってしまうのではないかと心配しましたが、「真摯に歴史・文化に向き合い、変化することなく、ずっとこれまでの『元祖炉ばた』を守り続けていきたい」と話す松村さんの言葉に安心しました。
「お明日、お静かに」
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 郷土酒亭 元祖 炉ばた |
住所 | 宮城県仙台市青葉区国分町2-10-28 YSビックビル 1F-B |
営業時間 | 営業時間 ※現在は金・土・日のみ営業中 17時〜23時 日曜営業 定休日 月〜木 |
開業年 | 1950年(2020年新経営体制に移行) |