福島県いわき市は、東北では仙台市に次ぐ2番目の人口規模となる約34万人(いわき市発表令和元年10月1日現在)が暮らす街。市内には200軒以上の居酒屋があり、東北らしい風情を感じる飲み屋小路が駅前に広がっています。
御存知の通り、かつては炭鉱で栄えた地域であり、いまも重工業やエネルギー事業、港湾関係が主要な産業であり、飲み屋街は働く人々の姿が多く見られます。
今日はそんないわき市から、街に根付いた老舗の食堂兼酒場の「おかめ」をご紹介します。
上野駅から常磐線の特急ひたち号で2時間10分。軽快に常陸平野を走り抜け、太平洋沿いを日立市などを経由しながら到着です。いわき市の中心駅は平(たいら)にある「いわき駅」。特急列車でひとつ手前となる湯本駅は、有馬、道後と共に日本三古泉のひとつと言われる「いわき湯本温泉」の最寄り駅です。
快晴の湯本駅。アクアマリンふくしまへ向かう路線バスが停車中。映画「フラガール」の舞台となった街で、物語の中心となったスパリゾートハワイアンズ(旧常磐ハワイアンセンター)へは、無料送迎バスで15分です。
昭和の観光地によくある看板。最近立てられたもののようですが、こういうイラストはほっこりします。
駅から徒歩1分ほど。レトロな駅前商店街に「おかめ」はあります。11時から夜まで通しで営業しており、旅先の昼酒を求める人にもおすすめです。
もとはとんかつ屋として始まったという「おかめ」。20年前に女将の伏見さんが食堂兼居酒屋の業態として店を引き継いだそう。
調理場を囲む大きなコの字カウンターを配置した、よき酒場の雰囲気。テーブル席はなく、お客さん同士は女将さんを中心に程よい距離感で「おかめ」の空間を共有します。
ビールは樽生キリンラガー(648円)。冷凍庫でキンキンに冷やしたジョッキにぐーっと注がれた生。大変に美味しそう。それでは乾杯。
瓶ビール(648円)、本格焼酎、そしてお酒(540円)はもちろん土地の銘柄、内郷の四家(しけ)酒造店がつくる又兵衛。地元消費の比率がかなり高いお酒ですので、ぜひいわきに来たのだから飲んでみたいお酒です。そして、福島の有名銘柄「栄川」。
壁一面に掲げられた短冊。創業時からのとんかつもありますし、地元の魚介類を中心に揃えた海鮮定食などもあります。
人気メニューは会津の馬刺し(1,200円)、冬季はカキフライなど。
かつお刺し(880円)はボリューム満点。
6月から9月にかけてが旬、小名浜などで水揚げされるかつおは夏の大定番。福島県でもっと年間の水揚げ額が高い魚(全漁連情報)です。北上するかつおは餌をたくさん食べてぷっくり。優しい酸味としっとりとしたコクが格別です。「生姜、にんにく、みょうがなど別々にせず混ぜて食べるとより美味しい」と女将さん。
目光唐揚げ(980円)。10尾ほどあり、これまた食べごたえがありそう。
“市の花”が制定されていることはよくありますが、”市の魚”というのは珍しいです。いわき市の魚「めひかり」。三陸以南で広く生息する海底の魚。とくに常磐沖は昔からの漁場で底曳網漁業により水揚げされるそうです。
サクサクで香ばしい表面と、しっとりとして口の中で溶けていくような脂がのった身のコントラストが非常に心地よいです。骨は柔らかくそのままあたまから食べられます。
チリチリの身からにじむ脂の甘味とハラの苦味が混ざり、どうしようもないほどにお酒を誘います。
かつおと目光。お昼から完全に本気モード。
あわせるお酒は「又兵衛いわき郷」(純米酒・日本酒度+4)。するすると染み込むような甘さと旨味。余韻はほんのり酸味があり、かつお刺しに寄り添うよいお酒。
名物女将は、時間があるときは地元の観光話などを丁寧に話してくれます。とても熱心な美空ひばりファンで、店の奥にある宴会の広間は美空ひばりグッズでいっぱい。いわき市の塩屋埼灯台を舞台にした楽曲「みだれ髪」(1987年・美空ひばり/コロムビア)のお話などを伺いながら、優しい時間を過ごさせてもらいました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
食事処 おかめ
0246-43-3338
福島県いわき市常磐湯本町天王崎84−1
11:00〜23:00(日定休)
予算3,000円