旅の醍醐味は、街の空気にふれること。観光名所もいいけれど、人々の息遣いが聞こえてくるのは、やはり地元に愛されている酒場でしょう。
一日の締めくくりに、古くからやっている居酒屋にふらりと入って、常連さんたちに混ざって傾ける徳利は最高に幸せです。
郡山では、「炉ばた三代」はいかがでしょうか。JR郡山駅前の繁華街から離れた静かな場所でのれんを掲げて40余年。地元で人気の海鮮居酒屋です。
仙台、いわきについで東北地方で三番目となる人口33万人の街・郡山。西は会津、東はいわき、そして南北に東北道・東北新幹線と十字路のようになっており、内陸工業、商業、情報の中心として機能しています。県庁所在地ではないものの、駅周辺の賑わいはかなりのもの。デパートはありますし、夜を楽しむオーセンティックバーも充実しています。
平屋の一軒家。赤い提灯に函館港の暖簾が目印です。こんな佇まいのお店は、やはり地方都市ならでは。電球傘に照らされた引き戸に手をかける瞬間、温泉のドアを開けような楽しさがあるものです。
建物のつくりだけでなく、内装もレトロな調度品にあふれていて、そこに筆文字で品書きが様々書かれています。うなぎに、えびちり?まぐろ餃子?この幅広い品揃えは、まさに居酒屋です。
右にカウンター、左に小上がり。石油ストーブがこれからくるお客さんのために畳を暖めています。こういうところで、燗酒の徳利を傾けるのがしみじみしていいものです。
会津をはじめ各地の日本酒を揃えていますが、一杯目はドラフトビールで喉を整えて。白いヱビスのロゴがはいったビールサーバーから注がれた状態よしの一杯は、東京で飲むそれとは違った輝きに感じます。では乾杯!
炉ばたを看板にしていますが、料理の種類は幅広く、焼鳥や炒めもの、揚げ物と様々。ただ、最初は2,000円のコースから始まるのが「炉ばた三代」流。ちょい飲みならば、このコースだけでも満足できますし、ここで店の味を知ったあとならば、主菜を頼むのも期待高まるというもの。
海のない郡山。ただ、東北の十字路というだけあって、各方面から食材が集まり、豊かな食文化が長く根付いています。刺身も東北地方の各地から集まっています。中トロ、ひらめに赤海老です。
定番酒は郡山の地酒・雪小町。ぬる燗ほどに燗をつけてもらって、トトトと一杯。きゅっと口に含んでいい気分。風土を味わうとはまさにこのこと。
刺身に続き、タラの煮付けを。塩鱈など保存を効かせたタラを甘く煮付けて食べるのものが、東北郷土料理のひとつ。ぷりぷりのエビとじゃがいもを添えて、ハレの日の煮物になっています。この味の濃さが、またお酒を進ませます。
2,000円コースでは、ここに茶碗蒸しが加わります。カニ、アサリなどを載せた贅沢なもの。注文を受けてから蒸し上げています。この流れでだいぶお酒が進むもので、一人酒ならばこれで十分に郡山の地場を楽しめるはず。人数がいれば、ここからおでんや鰻を頼んでみてください。
優しいご夫婦のぬくもりにも癒やされて、東北の夜はゆっくりと深まっていきます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
炉ばた三代
024-922-6274
福島県郡山市堂前町31-10
17:00~23:00(日定休)
予算3,000円