言わずと知れた酒場街、新宿思い出横丁。世界一の利用者数を誇る巨大ターミナル・新宿駅に隣接してこの空間が残っていることは、まさに奇跡です。
「カブト」はそんな思い出横丁の中心で、昼間から芳ばしい香りでノンベエを集めている鰻串の専門店です。1948年(昭和23年)、闇市の造りをそのまま使用していますが、これは大変貴重なこと。何度かあった火事でも焼けることはありませんでした。
そんなカブトも、店主は世代交代。現在は息子さんとお母さんのお二人で切り盛りしています。

お酒は白鶴上撰、ビールはキリン(CL)と黒ヱビス、焼酎はキンミヤ、そして地酒がいくつかというシンプルかつ、典型的な酒場の顔ぶれ。
13時オープンとスタートは早く、明るいうちからここの縄のれんをくぐる瞬間、気分は間違いなく高揚します。「瓶ビールとひととおり」と、着席と同時に伝えれば、あとは楽しむだけ。

昭和の味を今に伝えるキリンの加熱処理ビール「クラシックラガー」(大びん700円)をトトトと注いで、では乾杯!
鰻といえば、一般的に蒲焼で正肉を食べるものですが、カブトは鰻の頭からしっぽまでを食べる店。部位ごとに焼鳥のように串打ちされていて、キモやヒレ、蒲焼も含めて全7種を用意しています。

一通り(1,600円ほど)と頼めば7種類がコースのようにやってきます。焼けた順に「はい、キモね」と前に出されるので、これをそのまま串をつまんで頬張ります。焼鳥、もつ焼きは数あれど、このスタイルで鰻専門というのは、なかなかの個性です。

焼酎は人気の甲類、キンミヤ焼酎。三重で作られるお酒で、ピュアな甲類に鈴鹿水系の甘みをほのかに感じます。そのまま飲むもよし、東京の下町でお馴染みの梅エキス(メーカーは天羽飲料に変わりました)をぽちょんと垂らして、梅割りでいただくのもオススメです。
キッコーマンの醤油さしに梅エキスが入っていますが、醤油ではないのでご用心。

半分屋外のような店で、ちょいと鰻でビールや焼酎を飲んでささっと次へはしごする。そんなお店なのでひっきりなしにお客さんがやってきます。これに応えるべく、若きご主人は炭火を相手にもくもくと鰻を焼いています。

新宿は様々な酒場がありますが、その奥行を感じさせる老舗カブト。東京の酒場を巡るならば、ぜひ一度はつまんでいただきたい、土地の味です。
最後は蒲焼を食べて大満足。
今年、もともとのカブトの店舗の隣にカブトの新店舗がオープン。そちらは女将さんが立たれています。昔からの雰囲気を楽しむもよし、新しい店舗でのんびり過ごすもよし。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
カブト
03-3342-7671
東京都新宿区西新宿1-2-11 思い出横丁
13:00~20:00(日祝定休)
予算2,200円