大阪の酒場の話をするとき、必ず誰かが口にする「くわ焼のクラスノ」。それは、大正で69年目を迎えた老舗の店名です。古いお店には珍しいカタカナの名前は、クラスノヤルスクというシベリアの地名が由来です。モスクワから4,100km離れたこの地で、初代は抑留されていたのだと聞きます。
長く続く酒場には一軒一軒に年輪の厚みがあります。その中で、ふらりと訪れた私も酒場の景色の一つになれる、これって実に素晴らしいことだと思っています。
大正駅から少しの場所。表通りではなく、近隣にも酒場は少ないですが、クラスノは毎夜、常連さんや店の雰囲気を味わいに来る人で賑わっています。
ビールはアサヒスーパードライ。アサヒ創業の地・大阪の老舗に銀色のビールがしっくりきます。瓶も生もアサヒです。
さて、関西の酒場といえば串カツやおでんなどが定番ですが、こちらは鉄板を厨房の中心に配した鉄板料理のお店です。この鉄板に向いてL字のカウンターが配され、お店の方との距離の近さも特長です。
最初に「ごまめ(田作)」と「えんどう豆煮」がサービスでやってきます。これをチビリとつまみつつ、注文した料理を飲みながら待ちます。
湯豆腐(120円)、きずし(320円)やたこ酢(320円)といったちょっとした小鉢でつまむもよし。そうこうしているうちにやってきました、名物の出し巻き(270円)。
3代目が手際よく焼き上げたほくほくの出し巻きは、脳裏に刻まれる味。メインを引き立てる副菜としてではなく、主役になる逸品です。関西出汁をたっぷり含み、そのまま頬張ればビールや日本酒を猛烈に誘う素敵な”アテ”です。
くわ焼とは、鉄板焼のことでこの出し巻もそのひとつ。そして、牛肉たれ焼き、焼鳥、ピーマン肉詰めなど串打ちしたものが揃っています。初めてならば、生野菜もついてくわ焼6本のおまかせコース(松・680円)がおすすめです。
ピーマン肉詰め(220円)はこのとろっとした甘味噌が味の決め手。しっかりコクある濃い味でビールを進ませ、スーパードライの大びんは2本目を頼むことになるはず。
分厚いきずし、お作り盛り合わせ、イカフライなどあれもこれもと食べたくなりますが、大衆酒場はちょいと引っ掛けるくらいというのもイイものです。
さて、この後は京セラドーム?私は難波へ梯子かな。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
クラスノ
06-6551-2395
大阪府大阪市大正区三軒家東1-3-11
16:00~22:00(土日祝定休)
予算1,800円