福島は、他の地方都市のようにJR駅と街の中心部が離れておらず、街を構成する3要素たる駅、繁華街、行政がコンパクトにまとまっています。駅から繁華街を抜けて県庁へ。街の主たる福島稲荷神社を中心に、徒歩で移動できる範囲に密集しており、梯子酒も容易です。
とはいえ、地方の中心地区衰退の流れはこの街にも容赦なく到来し、祝前日の夜でも街は寂しい。これは、飲み屋も厳しいのでは…。そう思って、近くの店の暖簾の隙間から中を覗いてみると、どっこい賑わっているのです。そう、東北の飲み屋街は、なぜか街に人が居なくても酒場は盛り上がっていることが多いのです。
目当てのお店は、「え、あ、いっぱい?困ったなー、じゃあ明日のお昼に。」
福島の街を代表する老舗酒場「鳥政」。名物料理は「ホルモン焼き」です。地元の人に半世紀以上愛される酒場で、ある意味、ここのホルモンは福島の郷土料理といっても過言ではありません。
昨晩は地元のスーツ姿のお父さんたちで満員だったので、改めてお昼時にやってきました。カウンターと小上がりのつくり、タイル張りの床や座布団がいかにも昭和酒場の雰囲気。いいでしょうー。
ランチ時もメニューは変わりません。そもそも品数はかなり絞られているのです。看板料理のホルモン焼と、地元の郷土料理である餃子、湯豆腐にラーメンで以上。
街を代表する酒場は、本当にホルモン一択なのです。
ビールはキリン、日本酒は福島・会津の地酒、榮川酒造です。酎ハイとウィスキー角が加わり、以上。酒類もまたバリエーションは少ない。ひたすらホルモンにビールや日本酒というニーズが続くのです。
同じく福島の飲み屋街には、餃子専門の酒場も人気店がいくつかあり、特化型の酒場がずっと人気のようです。
生ビールの用意はなく、瓶ビールオンリー。バブル以前に使われていた重厚で巨大なキリンの栓抜きが現役です。これを使って、女将さんが手慣れた手つきでシュポっと抜栓してもってきます。
真冬の東北だって、寒い外からポカポカの温かい店内に入ったら一杯目はビールが惜しくなる。乾燥でカラカラの喉に、仙台工場(14)で製造された東北の一番搾りをくいっと流したい。それでは乾杯!
さて、気になるホルモン焼(450円)は、東京の焼鳥風でも、関西のホルモンとも違うビジュアルです。
もやし、きゃべつ、にらといった野菜の上に甘辛い味噌に付け込まれた国産豚もつを鉄板でガシカジと炒めて食べるものなんです。
どのテーブル、カウンターにも鉄板がセットされており、注文を受けたらここに具を盛ってくれます。あとはビールや日本酒をちびちびと飲みながら自分たちで炒めるのです。
濃厚なモツの味噌を全体に満遍なく伸ばしていきます。野菜の水分を軽く飛ばしつつ手際よく。味噌やモツの肉汁が焦げる香りがたまりません。炒めながら大びん(590円)は一本飲み干しちゃうかも。
はい、完成。ここまで仕上げるとホルモン炒めそのものですが、味は都会のそれと違い、実に素朴で優しい。辛味成分の唐辛子がわずかに入っていますが、辛くはなく、とにかく味噌とホルモンそのものの旨味が最高に美味なのです。
カウンターで一人、ホルモン焼をつまみにもくもくとビールや日本酒を進める地元のご隠居さん。後ろの小上がりでは、地元の仲間風の人たちが変わらぬ味を楽しんでいます。ホルモンを食べ終えて餃子を楽しんでいる女性グループの姿も。
県庁を始め、行政機関が集中している場所に隣接している福島の飲み屋街は、場所柄スーツ姿の人が多く、とくに鳥政は、そんなお父さんたちのたまり場となっています。
榮川を片手に、きゅっと飲みつついい気分。ホルモンの味に日本酒が驚くほどよく合うのです。もう一本お変わりしちゃおうかな。
福島市街は素朴な街ながら、古くから食べられている料理は安くて心満たされるものばかり。質素な料理にこそ、街の人の息遣いが感じられる。旅先を楽しむならば、やっぱり街の酒場の暖簾をくぐるのが一番です。
笑顔が素敵で、ほっこりとした気分にしてくれたご主人や女将さん。料理の美味しさ、店の雰囲気、なにより暖簾を守る人たちも含めて、鳥政はやっぱり最高の酒場です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
鳥政
024-522-5554
福島県福島市新町1-17
17:30~22:30(日祝定休)
予算2,000円