浅草で160年以上続く老舗蕎麦屋『尾張屋』。名物はせいろの幅いっぱいに長い巨大な海老天です。文豪・永井荷風をはじめ、多くの文化人や地元の人々に愛されてきたその味は、観光地の店と侮れません。香ばしい胡麻油の香り漂う名店で、地元・浅草の食いしん坊と一緒に蕎麦屋飲みを楽しみませんか。
浅草の活気と歴史に育まれた老舗
日本を代表する観光地、浅草。老舗の飲食店が軒を連ね、鮨、鰻、そして蕎麦は、どこで食べようか迷うほど選択肢が豊富です。長年、観光客をもてなしてきた店だからと侮ってはいけません。地元の人々が今も通い続ける店にこそ、本物の味があります。

雷門通りに堂々と店を構える『尾張屋』もそんな一軒。創業は江戸時代末期の万延元年(1860年)。屋号から初代が尾張名古屋出身かと思いきや、実は違います。
浅草寺の門番も務めた町火消しの頭領・新門辰五郎が「海老の尾が張るように繁盛するように」と名付けたという逸話が残ります。いまでは、巨大な海老天が店の看板メニューとなっているのですから、江戸時代の願いがかなったわけですね。歴史はおもしろい。

関東大震災や東京大空襲で二度も店を失いながら、そのたびに見事再起を果たしてきた力強さは、数世紀にわたり栄えた浅草という街の姿と重なります。
店内には、文豪・永井荷風や角界の巨人たちの逸話が残り、この店が単なる飲食店ではなく、浅草文化の交差点であったことを物語っています。地元に暮らす人々、観光業に携わる人々、そして噺家まで、様々な人がこの店の味を求めて暖簾をくぐります。
天ぷらをつまみに、まずは一献

地元っ子に観光の人、インバウンド客も加わり活気ある店内。テーブル席が並び、一人でもグループでも気兼ねなく過ごせる雰囲気です。品書きを眺め、まずはお酒を。お酒は福島の「笹の川」を選びました。

すっきりとした飲み口の日本酒が、ビアタンならぬ酒タンに満たされます。それでは乾杯!
天せいろ:1,300円

注文からほどなくして、お待ちかねの「天せいろ」が運ばれてきました。せいろの幅と同じくらいある海老天の大きさに、思わず心が躍ります。

店の前に立つだけで漂ってくる香ばしい匂いの正体は、この天ぷらを揚げる特注の純胡ま油。サクッとしていてなかはプリプリ。驚くほど軽やかです。これだけの大きさなのに、少しも胃にもたれる感じがありません。

食べやすいようにと、絶妙な加減で包丁が入っている心遣いがまた嬉しいものです。この天ぷらをひと口かじり、笹の川をきゅっとあわせる。これぞ蕎麦屋飲みの醍醐味です。

天ぷらを主役とすれば、蕎麦とつゆは名脇役。蕎麦は喉ごしの良い、つるりとした細打ちの二八蕎麦。
つゆは、昆布を使わず、枕崎産の本枯節だけで出汁をとった、雑味のないキレのある味わいがたまらない。この潔いつゆが、胡麻油の豊かな風味と蕎麦の繊細な味わいを引き立てます。
ごちそうさま

30分ほどの滞在でしたが満足感の高いひととき。今風に言えばタイパのいいお店。派手な海老天に負けない、蕎麦とつゆ。そしてちゃきちゃきのっ客。きっと、忘れられない思い出になるはずです。
店舗詳細
店名 | 尾張屋 本店 |
住所 | 東京都台東区浅草1-7-1 |
営業時間 | 11:30 – 20:00 金定休 |
創業 | 1860年 |