創業から90年以上。美食の街・人形町で天丼といえば、まずはここ。継ぎ足し続けた秘伝のタレをまとった真っ黒な天ぷらは、インパクト大。ですが、見た目ほど辛くはなく、油のしつこさもない。奥深い江戸の味が魅力です。お昼は行列ができるので、おすすめは夜。今回は、天丼・天ぷらでお酒が進む、夜の『天ぷら中山』をご紹介します。
カウンター越しに眺める家族の阿吽の呼吸

東京メトロ人形町駅から歩いてすぐ。近代的なビル群に混ざって戦前から続く名店が点在するこのエリア。『中山』からは天ぷらの香りが漂っています。

その歴史は昭和5年(1930年)、天ぷら専門店ではなくお惣菜屋さんとして始まりました。数ある惣菜のなかでも特に天ぷらが評判を呼び、今のスタイルになったそうです。名だたる老舗がひしめく人形町にあって、ここはいつまでも変わらず庶民派なのが嬉しい。

暖簾をくぐると、ごま油の香りに包まれます。店内はカウンター数席と小上がりの座敷からなるこぢんまりとした空間。店主夫婦が黙々と天ぷらを揚げる小気味よい音が響き、女将さんと息子さんが息の合った連携で店を切り盛りしています。これぞ家族経営の良さ、カウンター席から皆さんの仕事を拝見するだけでお酒が進みます。
真っ黒!秘伝のタレが染み渡る絶品天丼

ランチタイムは行列ができますので、ゆっくり楽しみたい方は20時30分まで営業している夜の訪問がおすすめです。まずはアサヒ生ビールをもらって、喉を潤しましょう。それでは乾杯!
お通しに出してくれる甘めの卵焼きと、箸休めにぴったりな女将さん自家製のお新香をつまみながら、お願いした天丼が出来上がるのを待ちます。

香りだけでビールを飲みきってしまったので、お銚子(賀茂鶴など)を1本。ご主人が鍋に向き合う様子を眺めつつきゅっとお猪口で一口。鰻も天ぷらも、この時間が一番楽しい。
天丼

いよいよ、主役の登場です。

青い漆塗りの丼の蓋からはみ出さんばかりの天ぷら。蓋を取ると、湯気とともに現れるのは、真っ黒に染まった天ぷらです。

焦げているわけでは決してなく、これは創業以来、継ぎ足し火入れを繰り返してきた秘伝のタレの色。醤油と出汁、ごま油からくる、深く香ばしい香りがお酒を誘います。食事メインの方なら夏バテしていても食欲が湧くこと間違いなし。

温めたタレにくぐらせることで、サクサクではなく、しっとりとした仕上がりに。この衣が、タレの旨味を余すところなく吸い込み、ご飯を茶色く染めています。

ぐっと頬張れば、甘じょっぱいタレが染みた衣と、海老やキス、穴子といったネタの旨味が口いっぱいに広がります。見た目の濃厚さとは裏腹に、後味は決してくどくありません。

必ず添えられるしじみの味噌汁も名脇役。日々お酒を飲んでいる体がしじみを欲しているのか、滋味深い味わいにほっこり。
お好み天ぷら

この天丼の余韻を追いかけるように、追加した瓶ビールのアサヒ生ビールマルエフをきゅっと飲むのもたまりません。

夜ならば、壁の木札から好きな天ぷらを単品で頼む「お好み」も楽しめます。気になるものをいくつか追加してみました。当たり前ですが、タレは天丼とは違う出汁の効いた透き通ったもので、この味を知ってしまうと、単品の天ぷらも毎回注文したくなります。
江戸前天ぷらの発祥の地、日本橋エリアらしい粋な晩酌になりました。煮魚、刺身などもあるので、何度か通って顔なじみになれたら、より本格的に居酒屋使いにも挑戦してみたいです。

ごちそうさま

煮物も蕎麦つゆも黒く染める江戸の味。『中山』の真っ黒な天丼もまた、東京を代表する味のひとつでしょう。人形町を訪れた際には、ぜひこの衝撃的な見た目と、世代を超えて守られてきたた深い味わいを体験してみてください。
店舗詳細
品書き


店名 | 天ぷら 中山 |
住所 | 東京都中央区日本橋人形町1-10-8 |
営業時間 | 11:15 – 13:00 17:30 – 20:30 土日祝定休 |
創業 | 1930年 |