月島を代表する老舗酒場『岸田屋』を訪ねます。酒場に興味がある人ならば一度は耳にしたことがある有名店で、牛にこみで有名になりました。以前は長い行列をつくる店でしたが、昨今は『岸田屋』であっても並ばず入れることが多いです。今一度、名店の暖簾をくぐり、改めて老舗の底力を体感しませんか。
目次
月島で最古の酒場
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岸田屋の創業はいまから120年前の1900年。昭和41年から酒場に業態を変えて現在に至る、中央区臨海地域で最古の大衆酒場です。
もんじゃストリートとして観光地化が進められた西仲通り商店街に面しており、もんじゃ・鉄板料理一色の街の中にあります。酒場に興味がない人はノスタルジックな店構えの岸田屋は見えていないように素通りしていきますが、酒場好きにしてみたら、岸田屋はえも言われぬオーラが感じられます。
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藍色の大暖簾に“酒”の一文字。昔ながらの木枠をつかったくもりガラスの扉に軽く手をかけて、店内の様子を覗きます。店はコの字カウンターだけの26席。女将さんとお姉さんたちが忙しく切り盛りされていますが、お客さんに気づくと明るく席へと案内してくれます。
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長年使い続けている無垢のカウンターは、数多の飲兵衛が夜な夜な酒器や手を置いてきたのに白さを維持しています。年季が感じられるところといえば、手前の角がかなり丸くなっていることくらい。
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電球色の照明がぼんやり照らす店内は、いつも「夢の中の酒場に迷い込んだ気分」だと筆者は感じています。
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見上げれば、たくさんの魚拓が掲げられています。かなり煤けています。10年以上前に一度店を改装していますが、それ以前からこの魚拓はありました。
品書き
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お酒
ビールは、大樽生ビール(キリン一番搾り):小650円、大950円、瓶ビール(キリンラガー)小瓶:500円、大瓶:750円。
割り物系は、チューハイ:500円、レモンハイ:500円、ウーロン割:500円、緑茶割:500円、ハイボール:500円など。
日本酒は定番に菊正宗(神戸) 上撰生酛本醸造:1合450円、菊正宗大吟醸:750円、宝酒造(京都)松竹梅:460円。地酒類も豊富で、小澤酒造(青梅)澤乃井大辛口:650円、石本酒造(新潟)越乃寒梅:750円、ハクレイ酒造(宮津)酒呑童子:750円など。
料理
牛にこみ:600円、肉どうふ:800円、いわしつみれ吸物:400円、鮭ハラス焼:480円、さば塩焼き:600円、いわし煮付:650円、子持ちカレイ煮付:700円、銀だら煮付:800円、きんめ煮付:750円、ポテトサラダ:380円、ぬた:550円、北海道ほや塩辛:600円など。
煮魚が多いのが特徴です。
名物だけじゃない、絶品揃いの岸田屋の肴
キリンラガー大瓶(750円)
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岸田屋は長年キリンを扱う店。飴色の岸田屋に茜色のキリンラガーがよく似合います。トクトクとビアタンを満たして、それでは乾杯!
牛にこみ(600円)
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牛にこみの材料は、牛のモツである腸や灰、胃袋など。スパイスや根菜でごまかすことはなく、時間をかけて何度も煮こぼしているそうです。味付けは味噌と醤油がメイン。ほんのりと甘く、豊かなコクと旨味が感じられます。
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クサミは皆無でただただ旨味でいっぱい。部位ごとに味わいが異なり、どれを食べようかと悩むのも楽しいです。そして、牛特有の力強い余韻には、グっとくる旨さのキリンラガーが実によく合います。
ぬた(550円)
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鮮度の良いとり貝、青柳にタコ、まぐろの脂ののった部位を主役に、わけぎ、わかめを添えて、味のいいぬた味噌をかけたもの。なにより貝類、まぐろなどのモノがとてもよいです。
菊正宗 上撰生酛本醸造(450円)
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美味しいぬたを一口食べると、欲しくなるのが日本酒です。生酛造りの菊正宗本醸造をぬる燗程度につけてもらって、きゅっと一口。魚介と味噌と酒――。当然美味しい組み合わせです。
さば塩焼き(600円)
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岸田屋は牛にこみが話題になりましたが、築地市場が近かったこともあり、もともと魚料理が安くて質がいいと評判だった酒場です。いまもカレイやイワシ、金目の煮付けなどの煮魚が豊富で、牛にこみではなく、魚のつまみを目指してくる常連さんもたくさん居ます。
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いまは夏ですが、この日のサバの塩焼きもなかなかの美味しさです。
レモンハイ(500円)
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クラッシュドアイスが浮かぶレモンハイ。
肉どうふ(800円)
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筆者のイチオシは肉どうふです。「佃島の老舗豆腐店のとうふを使用している」と以前聞いたことがあります。
その上にクタクタになったネギと、赤身と脂肪の層がマーブル状になったすき焼きに使えるような牛肉がたっぷりと盛られてきます。
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濃いめ、甘めの黒い汁は肉やネギの旨味がぎゅっと詰まっています。一般的な肉豆腐に使うような肉よりもだいぶ厚いですが、柔らかく口の中で優しく広がります。
緑茶割(500円)
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日本酒、ビールも合いそうですが、特製の緑茶割(500円)も相性ぴったり。
変化の時代に「変わらない」というこだわり
時代が進み働き方やお酒の飲み方が変わっても、変わらずあり続けてきた老舗の大衆酒場。今こそ名酒場を訪ねて、お酒と肴の魅力を見つめ直してみるのも良いのではないでしょうか。なにか気づくことがあるかもしれません。
料理に手を抜かず、みんなが心地よく過ごせるように細かな気配りをした接客。そして「変わらない」を守り続ける姿勢。岸田屋はやはり素晴らしい酒場です。
口開けよりも二巡目が入りやすいです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 岸田屋 |
住所 | 東京都中央区月島3-15-12 |
営業時間 | 16:00~21:00(日月定休) |
開業年 | 1966年から酒場(1900年に別業態として創業) |