明治から続く老舗の蕎麦屋には、独特の魅力があります。東京の下町、とくに江戸の頃から栄えてきた町には、100年級の店が今も点在しています。人形町の『東嶋屋』もそうした一軒。1887年(明治20年)に浅草で創業し、この地に移ってきたのは1935年(昭和10年)という、歴史あるお店です。
人形町の「いつもの場所」

東京メトロ日比谷線・人形町駅から歩いてすぐ。甘酒横丁に店を構えています。

店内に足を踏み入れると、そこは老舗の緊張感というより、日常の温かさに満ちた空間。客層はベテランの会社員の方が多く、スマートフォンを眺める人よりも、新聞を広げたり、店内のテレビで流れるニュースに目をやったりする姿が目立ちます。

場所柄、参拝帰りと思われる家族連れの姿もあり、どこか平成初期に家族で訪れた蕎麦屋のような懐かしい風景がありました。お店を切り盛りする店員さんたちの「ほんわかとした雰囲気」も居心地の良さに繋がっています。
割り下が決め手の蕎麦屋の「かつ煮」

そんな雰囲気の中で、まずは「キリンクラシックラガービール」をいただきます。かつて親がやっていたことを、今、自分がやっている。そんな感慨に浸りながら、瓶ビールをグラスに注ぎます。

あわせるつまみは「かつ煮」。蕎麦屋のつまみといえば天ぷらが筆頭ですが、こうした町に密着した大衆的な店では、私は決まって「かつ煮」や「かつ綴じ」を選びます。

なにより、この「割り下」が美味しい。蕎麦屋の命である出汁の風味がしっかりと効いています。玉ねぎの甘さも相まってまろやかな味わい。居酒屋のかつ煮とは一線を画す、奥深い味わいです。

つゆをしっかり吸わせるために長めに煮ているそうですが、それでいて衣がカツから剥がれないのは、長年培われたベテランの技なのだと思います。脂身の少ない豚ロース肉に、旨味たっぷりのつゆが染み込み、ふんわりとした卵が全体を優しくまとめています。
これがキリンラガーと合わないはずがありません。
〆は白く細い蕎麦を、江戸の濃いつゆで

ビールとかつ煮でゆっくりと「蕎麦前」を楽しんだ後は、〆の「もり」をお願いします。昭和10年の移転開業時の品書きが保存されていて、当時は9銭だったようです。いまも700円と、歴史と立地を考えたらとても良心的。

運ばれてきたのは、白く細い、見るからに喉越しの良さそうな蕎麦。しっかりとしたコシがあり、蕎麦の風味が口に広がります。

あわせるつゆは、しっかり黒い東京らしい辛口のもの。濃く、少し甘め、だがパンチがあると評される、江戸前らしい輪郭のある味です。
この濃いつゆに、蕎麦の先をちょんとつけて一気に啜り込む。これぞ町蕎麦の醍醐味です。
人形町で受け継がれる、日常に寄り添う老舗の味
お昼の営業は15時過ぎまでと、通し営業ではないものの、遅い昼食や「昼飲み」にも対応できるのが嬉しいところ。
人形町駅からすぐという便利な場所で、気軽に立ち寄れる百年越えの老舗蕎麦屋『東嶋屋』。町蕎麦好き、そして江戸東京の老舗の空気が好きな方なら、きっと気に入るはずです。
お近くにお越しの際は、立ち寄られてみてはいかがでしょう。
店舗詳細


| 店名 | そば 東嶋屋 |
| 住所 | 東京都中央区日本橋人形町2丁目4−9 |
| 営業時間 | 11時30分~15時30分 18時00分~21時30分 土は昼のみ営業 日定休 |
| 創業 | 1887年 |
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