2025年12月2日放送のTBS『マツコの知らない世界』をご覧いただき、ありがとうございます。「立ち飲みの世界」の案内人を務めました、Syupo運営者の塩見なゆです。

今回のテーマは「冬こそ立ち飲み」。ひと昔前は「おじさんの聖地」というイメージが強かった立ち飲みですが、今やその姿は劇的に進化しています。食べログが2025年に「立ち飲み百名店」を新設したことからも分かる通り、立ち飲みは単に「安く酔う場所」から、「食と文化を楽しむ場所」として市民権を得つつあります。

番組では、フレンチや中華のシェフが腕を振るう「ネオ立ち飲み」から、酒飲みの聖地・常磐線、そして本場・大阪のディープな名店まで、厳選した19軒をご紹介しました。
放送内では語りきれなかった「常磐線がなぜ聖地なのか?」という地域的な背景や、マツコ・デラックスさんも唸った絶品おつまみの詳細、そして番組のラストを飾った「東西酎ハイ飲み比べ」の模様を、Syupo撮り下ろしの写真とともに徹底解説します。
プロフィール:案内人・塩見なゆとは?

私はこれまでに、北は稚内から南は沖縄、海外まで1万2,000軒以上の飲食店を飲み歩いてきました。元々は大手メーカーで製品開発や、その後、広報などをしていましたが、酒場への愛が高じて独立。「TVチャンピオン極 大衆酒場・せんべろ選手権」での優勝を経て、現在は酒場案内人として活動しています。
今回、マツコさんにお伝えしたかったのは、立ち飲みこそが「街のエネルギーをダイレクトに感じられる場所」だということ。それでは、番組でご紹介した愛すべきお店たちをご覧ください。
若者・女性殺到!料理が凄すぎる「ネオ立ち飲み」

近年、座って食べるレストラン以上とも呼べるクオリティ料理を、リーズナブルに楽しむスタイルが増加中。外食が一層エンタメ化している時代ですから、立ち飲みとはいえ、たまの外食、目一杯ご馳走が食べたいという気持ち、よくわかります!
こうしたお店は、広く「ネオ立ち飲み」と呼ばれています。
渋谷・神泉「セウフ(C’est ouf)」

渋谷の奥座敷・神泉にある、フレンチシェフが手掛ける立ち飲みビストロ。渋谷エリアで人気店を展開する砂田兄弟が手掛けたお店で、内装デザインもお兄さんが担当されたというスタイリッシュな空間です。

コンセプトは「立ち飲み×フレンチ」という違和感を楽しむこと。シェフは渋谷にある高級ホテル出身で、調理師学校からのフレンチ一筋の方。
放送で紹介したメニュー
- ハンバーグ・アン・クルート
- マリネサーモンパイ

お寿司のように手でつまめるパイ料理は、グラスワインを片手に楽しむのに最適。本格的なフレンチの技法で作られたソースの味わいは、まさに立ち飲みのレベルを超えています。※基本的には椅子中心の店です。
15時からオープンしていますので、渋谷のゼロ軒目にも最適。
自由が丘「起率礼(きりつれい)」

自由が丘の通称「L字が丘」にある立ち飲み中華。

こちらの料理長・井上さんは、「ザ・リッツ・カールトン大阪」の中国料理店出身。さらに「ウェスティンホテル東京」でも腕を磨いたという経歴の持ち主です。ホテル仕込みの本格中華を、小皿で数百円から楽しめます。

放送で紹介したメニュー
- 高級 台湾茶割り(キンモクセイ、ジャスミン、ピーチウーロンなど)
- 麻婆豆腐

店内で8時間かけて抽出したお茶割りは香りが段違い。茶葉の深みを感じられる一杯です。週末は店内が満員になるほどの人気ぶり。
月島「つねまつ久蔵商店」

月島駅徒歩1分。島根・鳥取の地酒を中心に、和酒に特化した名店です。創業者の常松治郎さんは、灘の酒造メーカー「白鹿」で長年活躍された元営業マン(私も大変お世話になりました)。その後、「お世話になった業界へ恩返しがしたい」と独立し開業。現在の店長・町田さんは「島根地酒マイスター」の資格を持ち、常時60種類ほどの日本酒から最適な一杯を選んでくれます。

放送で紹介したメニュー
- 大人のたまごどうふ(ウニ乗せ 1,650円)
- ゴルゴンゾーラのポテサラ(キャビア乗せ 770円)

ポテサラにキャビアが乗って770円という価格設定は、立ち飲みならではの企業努力といえます。新酒の季節から冬季限定で登場する「酒粕おでん」も冬の名物です。
激渋立ち飲みの聖地「常磐線」沿線ハシゴ酒
私が番組で最も熱く語ったのが、上野から千葉・茨城方面へ伸びる「常磐線」エリアです。正午に上野駅広小路口にテレビクルーと待ち合わせて、そこからアメ横方面へと飲みに行きました。
なぜ常磐線は「酒飲みの聖地」なのか?

常磐線の沿線には、合同酒精(鍛高譚、ビックマンなど)、宝酒造(焼酎ハイボール、松竹梅豪快など)、アサヒビール(スーパードライ、ハイリキなど)、キリンビール(一番搾り、ハートランドなど)といった、日本を代表する大手酒類メーカーの工場が集結しているのです。
JR東日本も公式に「8月1日は常磐線チューハイの日」(8・1=ハイ)というキャンペーンを展開しているほど、この路線とお酒の縁は切っても切れません。
また、並行して新幹線が敷設されておらず、いまも長距離移動を在来線が担っていることも、お酒との親和性が高い理由かと思います。沿線には、色付きの謎の酎ハイ、焼酎ハイボールや元祖ハイと呼ばれるローカルドリンクを提供する老舗酒場が密集していることもポイントです。
上野「魚草(うおくさ)」

一軒目はお昼から飲めるアメ横の海鮮専門の店へ。

アメ横の喧騒のまん真ん中。ここは酒屋ではなく、「魚屋さん」が営む立ち飲みです。三陸などの漁師さんから直送される新鮮な魚介を手頃な価格で楽しめます。合わせるのはもちろん日本酒。同じ銘柄を複数用意しているのではなく、売り切れ次第入れ替わっていくスタイルなので、毎日通っても違うお酒が楽しめます。

アメ横特有の魚屋さん風情の中、「魚屋風の軒先でお昼から飲む」という背徳感も美味しさのポイント。

番組ではカニを頬張っていましたが、ホヤも牡蠣もなめろうもどれも太鼓判の美味しさ。瓶ビール(サッポロヱビス)は小瓶をそのままボトルごと持ち上げていただきます。
日暮里「荒川スタンド」

二軒目は日暮里駅へ移動して荒川スタンドへ。
世田谷スタンドの姉妹店的な存在。かなりおしゃれな空間の立ち飲みバル。それでも、ここはやっぱり下町。親しみやすい接客もあって、老若男女幅広く居心地がいいと評判です。デミグラスもつ煮込みはあと引く美味しさ!

お酒は口から迎えに行きたくなるなみなみに注がれたグラスワインがイチオシ。生ビールも提供品質完璧。

お店オリジナルの漬け込みシロップをつかった酎ハイなど、あれもこれも頼みたくなります。立ち飲み入門にもぴったり。
北千住「天七(てんしち)」

だいぶほろ酔いになりつつ、お次は北千住。
常磐線立ち飲み文化の象徴とも言える、関西風串カツの老舗。東京で最古の関西風串カツ店です。(塩見調べ)
揚げ場を囲むカウンターで、職人さんが次々と串を揚げるライブ感。もちろんソースは「二度づけ禁止」です。揚げたて熱々の串カツを頬張り、キンキンに冷えたビールで流し込む瞬間、日頃の疲れが吹き飛びます。

ニンニクががっつり聞いた元気玉というメンチがあったり、千住葱があったりとオリジナルな串もありますが、やっぱり基本は豚と紅生姜でしょう。
亀有「江戸っ子」

地元・亀有で愛され続けるもつ焼きの名店。通称「亀有の関所」!
ここの名物は、店主オリジナルレシピの「特製ハイボール」。通称「ボール」と呼ばれる、謎の黄色い液体です。中身は企業秘密ですが、氷なしで提供され、炭酸のキレともつ焼きの脂を流すドライな味わいが特徴。下町ならではの「濃いめ」の配合が、酒飲みの心を掴んで離しません。
アルコール度数が10%近いオリジナルの特製ハイボール、実際にマツコさんにも飲んで頂きました。とっても気に入られたようで、もつ焼きとあわせて、なんとお代わりされていました。私も、せっかくですから一緒に二杯目を作って頂き、一夜限りの「江戸っ子赤坂店」となりました。
焼き担当の三代目がスタジオに来ることになったため、なんと亀有の店舗は臨時休業となったそう。常連の皆さま、どうもご迷惑をおかけしました。ご協力ありがとうございます。
日暮里「泥亀(どろがめ)」

出汁の染みた「天つゆおでん」が絶品。〆の一杯に最適です。
最後にもう一軒と立ち寄りましたが、本来こちらははしご酒で利用するお店ではありません。店主さんが、銭湯帰りの家族連れに、おでん屋台の思い出をつくってほしいという想いではじめられたお店です。おでんを食べてお酒1杯静かに飲むのが流儀。
個性が爆発!「激レア」な立ち飲み
「そこで飲むの!?」と思わず言いたくなる、店主のこだわりが詰まったお店たちです。
東大前「魚安(森川水産)」

一見すると普通の魚屋さんですが、一角にビールケースのテーブルが置かれています。お店で買った魚をその場で捌いてもらい、刺身をつまみにお酒が楽しめる「魚屋直営」のスタイル。日中は近所の方が夕飯の買い物に来る横で飲む、という日常に溶け込んだ風景が魅力です。

蒲田「うなぎ家」
高級食材うなぎを、立ち飲み価格で提供するお店。うなぎ串を肴に、焼酎に唐辛子と大葉を入れた「金魚ハイ」を飲むのがこちらの流儀。金魚鉢に見立てた見た目が美しく、ピリッとした辛さがうなぎの脂と合います。
日本橋「川口商店」
お酒のスペックをあえて非公開にしている日本酒専門立ち飲み。ご主人はとなりの穴子専門店から独立された方で、さらに前職は寿司職人だった方。アナゴずしと日本酒の組み合わせは最高ですよ!
そのほか紹介した激レア店
上野「カドクラ」:焼肉店が経営する立ち飲み。上等な肉を手頃な価格で楽しめる。

大井町「肉のまえかわ」:精肉店直営。ショーケースの焼き鳥やメンチカツをアテに飲む伝説の店。
中野「麦酒大学(ビールだいがく)」
スタジオにご登場いただいた山本学長のお店。実は山本さんは「お酒が一滴も飲めない」体質。しかし、注いでいる泡の音と見た目だけで味がわかるという特殊能力の持ち主です。注ぎ方ひとつでビールの味が激変することをスタジオで実演してくださいました。
【伝授】自宅でできる美味しい缶ビールの注ぎ方(3度注ぎ)
- 高い位置からドボドボと注ぎ、泡だらけにする(炭酸を適度に抜く)。
- 泡が落ち着いたら、優しく注ぎ足す。
- 最後に泡を盛り上げ、コップの縁から泡を持ち上げる。
こうすることで、苦味成分が泡に吸着され、液体には麦の甘みが残る「マイルドなビール」になります。マツコさんも「これならビール苦手な人でも飲める!」と驚愕していました。
飲み倒れの街!大阪環状線ハシゴ酒
最後は、私のホームグラウンドであり、立ち飲みの本場・大阪。大阪は「食い倒れ」ならぬ「飲み倒れ」の街。安くて旨くて濃い、独自の文化が根付いています。
京橋「岡室酒店直売所」

「立ち飲みの聖地」と呼ばれる京橋エリアでも、ひときわ異彩を放つ名店。とにかく「安すぎる」のが最大の特徴。おでんや串カツ、お造りなど、豊富なメニューが驚きの価格で並びます。店員さんの活気も凄まじく、常に満員電車のような熱気。これぞ大阪のパワーを感じる一軒です。
- 放送で紹介したメニュー: 串カツ、おでん盛り合わせ、各種お造り
- 店舗情報: [Syupo記事リンク]
新今宮・西成「ホルモン マルフク」

朝から労働者や地元の方で賑わう、西成エリアのホルモンの聖地。

こちらの特徴は、なんといっても**「プラスチックのトレー」**で提供されるスタイル。飾らないその見た目が、かえって旅情を誘います。甘辛いタレが絡んだホルモンは中毒性が高く、朝の日差しを浴びながらビールで流し込む瞬間は、背徳的かつ至福の時間です。
新今宮・新世界「のんきや」
新世界エリアにある、どて焼きとおでんの名店。朝からお父さんたちが集まってくる朝型のお店。安くてコテコテ、そしてなにより料理が美味しい。淡路島の玉ねぎをつかった丸ごと玉ねぎのおでんは秀逸。
こちらも、わざわざ500km離れた東京まで送って頂きました。シミシミで甘くとろける丸ごと玉ねぎは、マツコさんも私も思わず唸ってトークが止まるほど。ぷりっぷりの煮卵もいい味なんです。
放送で紹介したメニュー:
- おでん(丸ごと玉ねぎ、大根、煮卵、厚揚げ)
- どて焼き
野田「赤垣屋 本店(野田阪神)」

大阪市内で展開する立ち飲みチェーン「赤垣屋」の本店格。その歴史は古く、なんと大正12年(1923年)創業。100年以上の歴史を持つ、まさに大阪立ち飲み文化のレジェンドです。安くて美味しいのは当たり前。「安心感」と「清潔感」があり、老若男女問わず愛され続ける、立ち飲みのお手本のようなお店です。
梅田「串カツ ヨネヤ」

大阪駅の地下に広がる飲み屋街の名店。ここの名物「純ハイ」は、宝焼酎の「純」をベースに開発された元祖チューハイ。ドライな飲み口が串カツの油を流してくれます。
こちらは生ビールも美味しいですが、やはり宝酒造と共同開発したという。
放送後記
今回ご紹介したお店は、どこも店主さんの個性が光り、その街の文化が色濃く反映された場所ばかり。立っているからこそ、隣の人との距離も近く、街の熱気を感じられる。それが立ち飲みの最大の魅力です。
昨今の情勢もあり、個人経営の酒場は減少傾向にあります。しかし、今回の放送がきっかけとなり、一軒でも多くのお店に注目が集まり、長く暖簾が守られていくことを願ってやみません。
立ち飲みは、単に安く酔うためだけの場所ではありません。その土地の風土に浸り、椅子がない分だけ少し近くなる人と人との距離。そこから生まれる、何気ない優しさこそが本当の魅力だと私は考えています。
収録中は終始ほろ酔い気分でしたが、エンターテインメントとしてだけでなく、商店街や路地裏で街を照らし続ける「地域に密着した酒場」の役割が、少しでも皆さまに伝わりましたら幸いです。
私のWebメディア「Syupo」では、今回紹介しきれなかった全国の酒場情報を3,000記事以上掲載しています。
テレビを見て気になったお店があれば、ぜひ暖簾をくぐってみてください。
![Syupo [シュポ]](https://syupo.com/wp-content/uploads/2022/01/syupo-logo.png)


