活字に携わる人が多いことと、大衆的な中華食堂が多いことは関連しているのでしようか。神保町は、出版関係者が腹ごしらえに愛用してきた安・旨な町中華から、出版記念パーティーに使うような店まで、歴史ある中華料理店が多数あります。
今回はそんな本の街・神保町と隣接する竹橋から、活字に携わる人達御用達の、半世紀以上続いてきた中華屋さんをご紹介します。
もちろん、お昼から飲めるお店ばかりです。
1,『三幸園 白山通り店』
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1956年(昭和31年)創業の三幸園は、神保町で学生時代を過ごした人や、この街で働いてきた方なら知らない人はいない超有名店です。
お昼から通しでやっているので、明るいうちから瓶ビールを傾けつつ餃子を頬張る自由人も多数。夜になれば、近隣大学のOB・OG会や、出版社などが飲み会に使う定番の一軒ですが、もちろんメインは一人・二人での利用です。
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ここの餃子は、特長ある具材が入っているとか、焼き方が特殊だとか、そんな派手な要素はありません。町中華の餃子のお手本ともいえる、レーダーチャートなら正五角形を描けるものです。
これにキンキンに冷えたスーパードライをぐっと飲めば、頭の中にモヤモヤとする活字の詰まりがすっと胃袋へ流れていきます。
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具材たっぷりのチャーハンもファン多し!メニューは100品以上あるのに、結局はチャーハンと餃子に戻ってきてしまいます。
深夜2時すぎまでやっていますから、缶詰でがんばる人も深夜のご褒美にぜひ。カロリーに気をつけて。
住所 | 東京都千代田区神田神保町1-13 |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 11:00~翌2:30(L.O.翌2:00) [日・祝] 11:00~22:30(L.O.22:00) 日曜営業 定休日 土曜日 |
創業した年 | 1956年 |
2,『中華 成光』
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三幸園から100m西へ。集英社のビル群に囲まれたさくら通りと雉子橋通りの角に構える、コンパクトな町中華『中華 成光』も、この界隈の有名店です。現在は3代目店を守っています。
壁にずらりと張られた短冊に食欲がわきますが、一段上に目を向ければ、緑枠でたくさんのお酒のメニューに気づきます。
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お酒はお昼から注文可能と聞けば、1本貰わない訳にはいかないでしょう。
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カラコロと心地よいリズムを聞きつつ、キリンを飲んでいたらあっという間に出来上がりました。どうですか、この黄金のチャーハン。美味しそうでしょう。
優しくラードを纏ったパラパラの米粒に、黒胡椒が適度についています。
ビールが進むチャーハンとはこれのこと。
住所 | 東京都千代田区神田神保町2-23 |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 11:15~15:00 17:00~21:30 [土] 11:15~15:00 定休日 日曜日・祝日 |
創業した年 | 1977年 ※中華業態になった年 |
3,『萬楽飯店』
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次にご紹介する中華は、駿河台下の路地にある、それほど目立たないお店。ですが、こちらが今回掲載する中華料理店の中では最古の店で、創業はなんと明治45年です。
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通年で麻婆豆腐定食が人気で、夏限定の冷やし中華も評判。ですが、私のおすすめは断然五目焼きそば・軟(1,200円)です。
ちょっと値段が高いと思った方はいらっしゃると思いますが、このボリュームと具材の内容をみれば納得するはずです。
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一般的な街の中華屋さんの1.5倍から2倍はある、大変な大盛りです。分厚いチャーシューは、それだけで単品おつまみとして成立しますし、海老やイカもゴロゴロと入っています。
特徴的な超肉厚の椎茸煮は、本場の中華と日式の丁度中間くらいの味付けで、インパクトがあっても食べやすいです。
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具材をかき分けていき、やっと焼きそばに到達しました。まだらに揚がった麺は、食感にコントラストがあって、これが実に楽しいです。
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複雑な味わいの旨味をまとって、麺だって十分なおつまみになります。卵の半熟具合もさすが!
こうなれば紹興酒をもらってじっくり向き合いたくなるのですが、お酒はビールしかありません。ですが、この五目焼きそばは食べにいく価値ある逸品だと思いますので、空腹状態でぜひ!
住所 | 東京都千代田区神田小川町3-5-1 古室ビル 1F |
営業時間 | 営業時間 11:00~20:00 定休日 土日祭日 |
創業した年 | 1912年 |
4,『新世界菜館』
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お店の方向性はかわって、神保町で最も贅沢な老舗中華料理店『新世界菜館』へ。創業は終戦直後の1946年(昭和21年)。記念パーティーなどで利用されることが多いお店で、千代田区で上海蟹といえばココ!という人は多いでしょう。
ただし、本稿は一人で気軽に行けるお店に絞りたいので、今回は同店のランチをご紹介します。夜は飲んで食べて1万円ですが、お昼は料理と瓶ビール1本で2,000円ほど。それでも、高級店ならではのスマートな接客を受けつつ、高級店らしい落ち着いた料理が食べられるのですからオトクです。
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鶏ガラスープでつくる中華風カレーライスが名物。ほかにもジャージャー麺や排骨丼、定番の焼売や餃子、ちまきなどがお昼から注文できます。そんな中で、私のおすすめは五目やきそばです。
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こちらの五目焼きそばは、実に標準的。といっても、ネガティブな意味ではありません。具材それぞれの火の通り方が絶妙で、すべてが計算されて作られているように思います。尖ってない料理、つまり最後まで飽きることなく「美味しい、美味しい」と、ヱビスビール片手にぺろりと完食してしまう逸品です。
住所 | 東京都千代田区神田神保町2丁目2 新世界ビル |
営業時間 | 営業時間 ランチ 11:00~15:00 (L.O 14:40) ディナー17:00~22:00 (L.O 21:20) 日曜営業 定休日 年末年始 |
創業した年 | 1946年 |
5,『赤坂飯店 パレスサイドビル店』
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「担々麺が名物!」と、毎日新聞やマイナビが何十回紹介してきたことでしょう。
毎日新聞や系列各社が入る「パレスサイドビルディング」(運営も毎日系不動産会社)の地階に入る、50年以上の歴史を持つ昭和の中華料理店です。だれでも入れる飲食店フロアにありますが、毎日新聞の社員食堂的な雰囲気を感じます。
1966年竣工と半世紀の歴史があるビルの中にあり、ビルの竣工と同時に開店しました。全体的に昭和から平成初期の残り香が漂っていて、その時代で育った筆者には懐かしく感じますといっても店内は非常に清潔ですし、お店の皆さんの接客もスマートです。
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神保町から徒歩圏ですが、地下鉄東西線の竹橋駅からは地下で直結しているのが嬉しい。改札を抜けてすぐビールにたどり着けます。
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ラー油たっぷりの担々麺(1,200円)もよいのですが、それだとすぐに満腹になって飲めなくなるので、まずは腸詰めなどでちびちびと。
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エンジンがかかってきたので、老酒もいただきましょう。ポットがかわいいですね。
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全中国調理大会優勝 特級麵点師という肩書を持つ方が勤めているそうですが、それはそれとして、餃子(700円)が食べたいと注文。餡が詰まっていて皮は薄め。焼き目は揚げるように仕上げています。街の中華屋さんとは違うスタイルもいいものです。
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締めは五目炒飯(1,000円)。
赤坂飯店の本店である赤坂店はなくなってしまいましたが、一時代を築いた昭和の本格中華の味は懐かしくてしみじみ美味しいです。
パレスサイドビルや、お隣の丸紅本社で働く方が多いのでしょう。お客さんは皆さん常連さんのようです。都心で働く人のオアシスとは、こういうお店を言うのでしょうね。
住所 | 東京都千代田区一ツ橋1-1-1 パレスサイドビル B1F |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 11:00~22:00 [土] 11:00~20:00 定休日 日曜日、祝日 |
創業した年 | 1966年 |
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)