福島「岩瀧酒蔵」創業から60年、地元に根付くいい酒場

福島「岩瀧酒蔵」創業から60年、地元に根付くいい酒場

2017年6月8日

全国、どこの県庁所在地の街でも県庁周辺にはいい酒場があります。地方都市では、役所のまわりで飲めとよく言われたものですが、その通り。

今回は、福島の県庁酒場をご紹介しましょう。

福島県の県庁所在地、西は吾妻連峰、東は阿武隈高地に囲まれた盆地に広がる街。阿武隈川が街の中央を南北に流れ、自然と人々の暮らしがやさしく混ざる街並みです。

JR福島駅は街の中心部からやや西寄りにありますが、繁華街と駅の間は散歩がてら歩くのにちょうどいい距離です。

万世大路と奥州街道の2本の大通りが街の幹線ですが、この街は商店街がおもしろい。文化通り、新町ビル街、北裡(きたうら)商店街と大きく分けて3つあり、日中はさほどの賑わいはないものの、夜になると魅惑の暖簾があちこちに掲げられるのです。

昭和の中頃に建てられた商店がほとんどで、今風で言えばアジアンテイスト。お世辞にもキレイな街とはいえませんが、それがとても魅力的なんです。

福島の繁華街は江戸時代に欧州街道沿いの旅籠で栄えたところ。松尾芭蕉も「おくの細道」で城下の北南町に泊まったと書いています。

人が集う場所に遊郭あり。現在の北裡商店街は昔は北裡花街であり、遊郭移転以降に飲食店や映画館などが立ち並び現在の姿となります。福島稲荷神社の狛犬のひとつが福島三業組合の寄贈と書かれていて、そうとうな賑わいだったものと推測できます。

そんな北裡商店街にあり、福島県庁と福島市役所に挟まれた場所に名酒場「岩瀧酒蔵」があります。半世紀を越えて愛される、福島の外飲みになくてはならない存在です。

土蔵をつかった建物で、重厚な佇まい。岩瀧の二文字が揺れる暖簾とあいまって、実に魅力的な雰囲気です。

はいってすぐに分厚い一枚板でつくったテーブルがいくつか並び、奥には一直線のカウンターが厨房方向へ伸びています。店の作りはゆとりがあり、天井も高い。ぽくぽくと湯気をあげる湯どうふやおでん鍋のぬくもりで、入った瞬間から心が安らぎます。

生樽はサッポロ黒ラベル、瓶ビールで2社を取扱。福島はアサヒビールの工場があるので、アサヒ色が強いですが、キリン・サッポロも老舗を中心に根強い人気です。

日本酒は末広・奥の松という顔ぶれで、品書きだけで旅情を感じます。

2世代前のジョッキが現役です。樽冷サーバーから勢い良く注がれ、泡を後乗せしない一度注ぎスタイルで提供される生ビール黒ラベル。乾杯!

岩瀧は刺身から白もつ煮込みまでなんでもござれの大衆酒場ですが、地元ではおでんの岩瀧と言われていると聞きます。店の中央に鎮座するおでん鍋をみたら、それも納得です。

ひとつ150円からで、常連さんに人気はニラ玉です。本当に、皆さんがご想像されるニラの卵とじがおでん種として入ります。

東北のおでん屋に多い「ささかま」。出汁が染み込んで柔らかくなっていて、ジューシーで美味。出汁は旨味が強くしっかりとした味。ビールもよいですが、これは冷酒を誘います。

旬の食材をいれかえていくので、グランドメニューはなし。これからの季節、三陸のホヤできゅっと飲みたい。お客さんは役所や地元企業で働くお父さんたちで、菜花のおひたしをつまみに、楽しそう。冷奴80円、刺身以外は概ね500円以下と普段使いの価格です。

湯どうふ380円と店の名を冠した日本酒「岩瀧」。

しっかり硬く濃厚な豆腐をレンゲで救い、軽く醤油を吸った鰹節を上に乗せて頬張る。そしてすかさず、お酒をすっとあてていく。

聞こえてくる会話は福島弁。古くても清潔感のある店内で、女将さんたち女性陣で切り盛りするフロアの優しい雰囲気。派手さはなくとも心から美味しいと感じる酒と肴。酒旅の魅力はここにあり。

とくに大きな目的もつくらずに、なんとなく地方都市で飲みたくなったら福島という選択肢は十分にあり。旅は温泉や史跡巡りだけではありません。素敵な酒場を覗いてみませんか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

岩滝酒蔵
024-522-5256
福島県福島市宮町6-15
17:00~22:30(日祝定休)
予算2,500円