神田『蛇の目鮨本店』高級店でも大衆店でもない、私たちが求めていた町寿司がここにある

神田『蛇の目鮨本店』高級店でも大衆店でもない、私たちが求めていた町寿司がここにある

煌びやかな高級店でも、安さを競う大衆店でもない。けれど、そこには確かな仕事と長年通う常連客との温かい時間が流れている。そんな「町寿司」こそ、街の大衆食文化が感じられる場所。今回はJR神田駅のすぐそば、戦後の復興期から続く『蛇の目鮨本店 神田駅東口一番街』を訪ね、家族経営の下町江戸前寿司の魅力をご紹介します。

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線路脇に佇む、昭和の空気感を纏った一軒

JR神田駅の東口を出て、線路沿いに伸びる「神田駅東口一番街」。安くて旨い店がひしめき、昼夜を問わず界隈で働く人々の胃袋を満たしてきた活気ある通りです。かつてこの辺りは寿司店が多く「寿司屋通り」と呼ばれていたそうです。業種別にある程度まとまっているエリアがあるのが旧神田区・旧日本橋区の特長だと私は思っています。

目指す『蛇の目鮨本店』は、そんな一番街にそっと暖簾を掲げています。創業は昭和30年より更に前。戦後の闇市の混沌から街が立ち直り、鉄道をはじめとしたインフラの復活の中で誕生したお店。「昔は客が絶えず翌朝まで営業していた時代もあった」とご主人は話します。

東北新幹線の開業に合わせた線路の増改築で街並みは変わりましたが、この店は神田の移り変わりをずっと見つめてきました。昔は線路と通りの間に店がずらりと軒を連ねていたそうですが、そこに新幹線を通した関係で今のようなJR高架の中に入ったそうです。

L字の白木カウンター10席を中心に二階は座敷となっているようです。昔ながらの家族経営、寿司職人で気さくな店主さんが笑顔で迎えてくれるその空間は、まさに町寿司の心地よさ。実は店主さん、この神田駅東口一番街商店街の会長も経験。神田祭が大好きなチャキチャキな江戸っ子です。

老舗の粋と旬の味

まずは瓶ビールをお願いします。出てきたのはサッポロ生ビール黒ラベル(700円)。瓶の足元に「袴」と呼ばれる木製の受け皿が添えられているあたりに、老舗の粋を感じます。きりっと冷えたビールが嬉しい。

それでは、乾杯!

サッポロ生ビール黒ラベル中瓶 700円と先付

先付で出されたのは、北海だこのぬた和えと、自家製のおしんこ。この一品目からして、丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。先付に力を入れるだと、財布の紐がゆるくなりますよね。

さて、つまみから。店主さんは毎朝、日本最大の魚河岸・豊洲市場へ足を運び、長年付き合いのある仲卸からその日一番のものを仕入れます。老舗の強みは、こうした人と人との信頼関係にもあるのです。

活サザエ刺し1,000円

ショーケースに並ぶピカピカのネタの中から、まずは活サザエを刺身で。磯の香りとコリコリとした力強い食感がたまりません。

こうなると、日本酒が欲しくなります。銘柄は島根の「七冠馬 純米」(1,500円)。香りは華やかで、しっかりとした米の旨味がありながら、後味はすっきり。サザエの肝のほろ苦さとも見事に調和します。

続いて、刺身で本マグロの中トロとコハダを。艶やかな中トロが舌の上でとろます。

主役級の中トロだでなく、コハダも質がいい!これぞ江戸前寿司の華です。〆具合が絶妙で、魚の旨味と酢の加減が一体となっています。

毎年、小さなコハダである「シンコ」の季節になると、これを目当てに遠方から食通が集まるというのも納得の味です。

しみじみと旨い。これぞ町寿司の握り

握り 松 3,000円

いよいよ握りを。「松」(3,000円)でお願いしました。

大トロ二貫にはじまり、ブリ、アジ、ホッコクアカエビ、自家製の玉子、いくらの軍艦、そして〆はネギトロ巻き。派手な飾り気はありません。

しかし、一つひとつが丁寧で、寿司種と酢飯のバランスが素晴らしく、口に運ぶたびに「ああ、美味しいな」としみじみ感じ入ります。

鮮度が求められる食材は新鮮で、少し寝かしたほうがいい食材からは丁寧な仕事が感じられる。歴史ある寿司屋が、ここ神田という場所で永く愛されてきた理由が、この一皿に詰まっているようです。

追加で握ってもらった穴子はトロトロで口の中で溶けていく 穴子1カン400円

ごちそうさま

麦焼酎 吉四六 ロック 600円

奇をてらわず、基本に忠実。戦後の神田の復興と共に歩み、訪れる人々の心と舌を満たしてきた神田の『蛇の目鮨本店』。ここは、ただ寿司を食べるだけの場所ではなく、神田という街の歴史と、職人の心意気に触れられる貴重な一軒です。管理職くらいの人がふらりと立ち寄るような場所。こういう店が行きつけの大人は素敵です。

神田で少し贅沢に、でも気取らずに美味しい魚が食べたくなったら、ぜひこの暖簾をくぐってみてください。きっと、東京という大都市が持つ、温かい奥行きを感じられるはずです。

店名蛇の目鮨本店 神田駅東口一番街
住所東京都千代田区鍛冶町2-12-12
営業時間平日 11:30 – 14:00 17:00 – 23:00
土曜 17:00 – 23:00
日祝定休
創業昭和30年以前