リアス式海岸、北限の海女さん、復興路線「三陸鉄道」などで知られる三陸海岸。北は青森県八戸市から、南は石巻まで、全長約600キロメートルあります。
入り組んだ海岸線は牡蠣の養殖などに最適。世界三大漁場とされる「三陸沖」をはじめ、遠洋・近海から多種多様な魚介類を水揚げする港町が連なります。
郷土料理を肴に地酒を楽しめる老舗酒場・人気居酒屋を訪ねるおすすめのコースをご紹介します。
目次
今回の旅のルート
東北新幹線はやぶさで東京から簡単にアクセスできる八戸を起点に、JR八戸線で久慈、三陸鉄道で宮古、釜石を経由し、大船渡線BRTで気仙沼から石巻を目指すコースです。三陸沿岸を、北から南へなぞる旅路になります。
移動中や昼食でも飲酒可能な鉄道旅のメリットを発揮した、お酒旅にでかけませんか。
1,八戸
旅のはじまりはJR八戸駅。東京から東北新幹線はやぶさで最速約2時間40分です。
八戸は青森県主要3市のひとつで、人口約23万人。飲み屋街の規模(軒数)は県内一を誇り、レトロな8つの横丁が中心市街を縦横に伸びています。
八戸駅は八戸市の玄関口ではありますが、中心市街地は路線バスで10分の距離にあります。
路線バスの利便性向上の取り組みにより、10分間隔で中心街へ向かうバスが発車するようになり、八戸駅からアクセスが格段に便利になりました。
中心街は昭和の味わいある町並みが再開発されずに残っており、飲み屋街や横丁好きならばきっと楽しめるに違いありません。
「酔っぱらいに愛を」をテーマにしたキャンペーンを行うなど、八戸は近年、横丁を軸とした観光に力を入れています。各地の飲食店街を歩いてきた筆者も、八戸の巨大な横丁には驚かされました。横丁のキャラクター「酔っぱらいほやじ」(写真中央手前)がかわいい。
関連する記事:
横丁から始まる古くて新しいまちの楽しみ方:青森・八戸「八戸横丁連合協議会」(外部リンク/日経BP)
八戸「さんりく」のイカそうめん
中心街にある大箱の老舗大衆割烹。地元の人たちの会合などにも使われる昔ながらの和食店です。ベテランの職人さんたちと、ご当地言葉があったかいお姉さんたちが切り盛りされています。
イカの水揚げが盛んな八戸ですから、イカそうめんがイチオシ。お昼から郷土料理をつまみに一献いかがでしょう。
詳細記事:
本八戸「さんりく」 創業半世紀をこえる大衆割烹。お昼から通し営業です。
2,久慈
JR久慈駅。
八戸駅(中心市街からは本八戸駅が便利)から三陸海岸の旅をはじめます。
JR八戸線は、八戸駅から久慈駅を結ぶ約65キロのローカル線。海沿いを走り、海側の座席からはまるでクルージングのような車窓が楽しめます。
久慈「小龍」の海女汁
昭和28年創業で、久慈の現存する飲食店で最古の店、小龍。北限の海女さんで知られる久慈らしく、雲丹などをメインにしています。地元の漁港から仕入れる地魚の刺身も絶品です。
おすすめは磯の海女汁。ウニ、ホタテ、しゅうり貝が入るお椀料理。
定番のお酒は注目です。久慈市 陸中宇部の造り酒屋「福来」というもので、地元消費向けなのでこの界隈でしか飲めません。※取り寄せは可能です。
詳細記事:
久慈「小龍」 旅の昼酒にも最適。通し営業の老舗割烹で地酒・地魚
3,宮古
久慈から三陸鉄道で宮古へ。人口約5万人、本州最東端(魹ヶ崎・とどがさき)の町。景勝地・浄土ヶ浜へは路線バスでアクセスできます。
駅前には古くからの商店街があり、居酒屋や寿司店では宮古港で水揚げされる豊富な魚介類を手頃な価格で食べさせてくれます。
宮古「山水」のドンコ肝和えとホヤ
宮古なら、海鮮居酒屋「山水」に行けば間違いなし。明るい女将さんと職人気質ながらお酒が大好きなマスターが切り盛りする、半世紀続く老舗。首都圏などの都市部では食べられない鮮度バツグンの珍しい魚介類が山のように用意されています。
名物は、ドンコの肝あえ。あしの早い魚だけに、漁師町ならではのごちそうです。水揚げしたその日のうちにカウンターに列ぶとれたてホヤも絶品。
詳細記事:
宮古「山水」これぞ旅酒の醍醐味。地元の方といっしょに地魚、地酒に酔う夜。
宮古「宮古市魚菜市場」朝市の海鮮丼
宮古市には業務用の地方卸売市場宮古市魚市場のほかに、市民が買い物に使う魚菜市場があります。
お刺身も活ホタテも、1パックや1個300円という驚きの安さで販売されています。施設内には朝食を提供する食堂があり、そこでご飯を購入し、市場内の魚介類をお好みでトッピングして食べることが可能。市場の活気を感じながら、地ダコやウニ、イクラを頬張る朝食です。
市場内にはスーパー(いわて生協)があるので、缶ビールやカップ酒はそちらで調達を。
詳細記事:
宮古「宮古市魚菜市場」 地元の魚介を買い集め、朝から市場で乾杯です
4,釜石
製鉄とラグビーの町、釜石。ラグビーワールドカップの試合開催地にもなり話題になりました。宮古からは、三陸鉄道で約1時間20分。
釜石からは、ビールの里・遠野や、宮沢賢治ゆかりの地・花巻を結ぶJR釜石線が接続し、観光シーズンには蒸気機関車が牽引するSL列車も走ります。
中心市街の昔からの飲み屋街は規模が大きく、どっぷりと三陸の鉄の街の夜を楽しむのも楽しいです。日中ならば、新たに整備された魚河岸テラスで、海を眺めて名物の釜石サーモンを味わうのもいいですね!
釜石「新華園本店」の海鮮飲茶
昭和26年に仙台から移転してきた中華の新華園本店。日本製鐵の人も、地元の水産関係者も通う、街のエネルギーチャージスポット。名物は釜石ラーメンですが、冷菜のオリジナル料理「トリレモン」や、海鮮焼売、海老餃子、フカヒレ餃子などの飲茶も人気。釜石の町中華は、やはり魚介食材が多めです。
5,気仙沼
釜石からの南下は、三陸鉄道で盛駅(大船渡)へ。盛でJR大船渡線BRT(一部区間で専用道路を走る路線バス)に乗り換えて、ここは気仙沼。
高級食材フカヒレをはじめ水産加工が盛ん。遠洋漁業の漁船が停泊する巨大な気仙沼港が街の中心に位置します。
気仙沼「ぴんぽん」の鮪星刺し
1981年創業の人気居酒屋「ぴんぽん」。50席を満員にするほどの人気店で、その理由はこのボリューム満点の刺盛り。平均的な大衆居酒屋の価格かそれ以下の値段で、鮮度抜群の魚介類をこれでもかと食べさせてくれます。
名物料理は気仙沼珍味の代表格、鮪星刺しやちん刺し。新鮮だからより美味しく食べられる、様々な刺身の美味しさに再発見できる場所です。
詳細記事:
気仙沼「ぴんぽん」 創業から39年。地元の魚と軽快なトークで街に笑顔を。
6,志津川
気仙沼からJR気仙沼線BRTで、三陸沿岸を南に向けて1時間20分。志津川は牡蠣や銀鮭の養殖が盛んな港町。志津川駅に隣接する南三陸さんさん商店街は、開放的なテラス席が多数用意されていて、施設内で販売されるお惣菜や魚介類、ビールなどを思い思いに楽しめます。
志津川「食事処 松原」の海鮮丼
志津川の地ダコやカンパチ、活ホタテなど、三陸の魚を中心に盛り合わせた海鮮丼が名物。季節次第ではサンマも登場します。長年続いてきた地元の食堂が、新店舗でがんばっています。
詳細記事:
志津川「食事処 松原」港の海鮮丼にビールを添えて!南三陸へBRTで飲みに行く
7,石巻
志津川から気仙沼線BRTに乗り、さらに三陸海岸を南へ進みます。前谷地駅から再び鉄道に戻り、JR石巻線で石巻駅に向かいます。ここまで来ると、仙台市の通勤圏になり、駅は大きく、駅前には賑わいが見られます。
石巻駅前には港町の元気な飲み屋街の風情を残す歓楽街があり、深夜まで飲めるお店が充実しています。
石巻「六文銭」の金華さばと地あなご
金華山沖で漁獲される大型で脂ののった真サバは、全国的に「金華さば」のブランドで知られています。
回遊魚のサバですが、金華山沖のサバはこの海域にとどまっていることが特長。石巻港でのみ水揚げされており、この〆鯖を味わえる店が1978年創業、家族経営の居酒屋六文銭です。
また、石巻では小ぶりながら引き締まった身が絶品と言われる穴子も名物。石巻の夜は、いつもの魚のいつも以上の美味しさを知ることができます。
詳細記事:
石巻「六文銭」 酒場は旅の目的地。南三陸の旬の魚介を心ゆくまで味わう夜。
ゴール
八戸から石巻(万石浦)までの600キロを、鉄道(一部、JRのBRT線)で旅をして、主要な街の名物を食べてお酒を味わう旅。
急ぎ足ならば2泊3日、ゆっくり飲むならば、3泊以上は必要な旅程になります。
時間はかかりますが、ここでしか食べられないような食材色々。お店のご主人や女将さん、常連さんとの出会いも飲み旅の醍醐味です。魅力いっぱいの三陸酒場へ旅に出てみてはいかがでしょう。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)