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宮城県北東部、世界三大漁場のひとつである三陸沖を操業域とする東北屈指の港「気仙沼漁港」を中心に、水産加工や関連の商業施設が集まる街、気仙沼市。
今回は、東日本大震災で大きな被害を受けた地域に灯る、50席を満員にする一軒の飲み屋をご紹介します。被災から3年をかけて本営業を再開した店で、それはそれはパワフルな大将に出会いました。
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三陸沿岸の主要都市のひとつである気仙沼。その玄関口となる気仙沼駅へは、東北新幹線も停車する一ノ関駅から、JR大船渡線で約1時間20分で繋いでいます。
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また、岩手県南東の港町・大船渡市にある三陸鉄道の盛駅と、宮城県石巻に近い石巻線・前谷地駅から、それぞれ気仙沼駅まで鉄道跡を利用した専用道路を走る路線バス(BRT)が結ぶことで、震災前の公共交通ネットワークを継続しています。
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遠洋漁業の基地としての役割もある気仙沼漁港には、この日も大型の漁船が多数停泊中。延縄漁業のマグロや、一本釣りのかつお、そしてなんといっても日本一の数量を誇る大目流網漁業でとるモウカザメが水揚げされます。
リアス式海岸を活かした牡蠣やホタテの要食、アワビやウニも特産品。魚種の豊富さが気仙沼の大きな魅力です。
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夜、家族に見送られ、今日も漁船は海に出ます。そんな様子を眺めたところで、そろそろ地魚で一献傾けたくなってまいりました。
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中心市街地の復興はまだ道半ば。それでも、少しずつ着実に飲食店の軒数は増えていると聞きます。
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2017年には、旧紫市場が南町紫神社前商店街として再開し、寿司や割烹だけでなく、バーやイタリアン、八百屋、酒販店なども出店しています。
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そんな気仙沼で、震災前からの店舗で営業を続けて39年になる居酒屋「ぴんぽん」を訪ねました。
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わいわいがやがや、毎日お祭りの日のような賑わいのザ・大衆居酒屋といえる存在「ぴんぽん」です。
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津波による甚大な被害を受け、店舗の一階は壊滅的状況に。2階部分でなんとか仮営業をはじめ、2014年に念願の一階での通常営業を再開することができたのだと、創業オーナーの白幡日出男さん。
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行楽シーズンは店先に行列ができるほど、東北では有名な魚のお店。観光客ばかりかというとそうでもなく、地元のお父さんたちや若い男女も集まっていて、満卓になることも珍しくないのだと、常連さん。
まずは樽生ビールをもらって、スタートです。アサヒスーパードライ(写真は大700円・以下税別)で乾杯!
生ビール中が350円とリーズナブル。瓶ビール(500円)はアサヒのほかに、キリンとサッポロも用意があります。日本酒は2号500円、地酒のマス酒もあります。チューハイ類は250円均一です。
飲み物は全体的に相場の2割は安いでしょうか。
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食べ物は一応品書きがありますが、カウンター席だと大将が次々提案してきますので、会話の中から「イエス/ノー」で選んでいくのがここの流れ。
地元の魚介類ばかりを揃え、刺身だけで15種類近くもあります。
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まずはお刺身が食べたい!と話して、1,000円~2,000円程度(支払額の内訳は大将の心の中にあります。)で盛り合わせにしてもらいました。
なんということでしょう!!すごいことになっています。
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赤貝、かつお、地ダコ、生鯖、ホタテ、イカ、海老、アワビにサザエまで。一人前として用意されたお刺身盛り合わせの中で、人生最大のものがでちゃいました。
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もう笑うしかありません。種類や量が多いばかりではなく、抜群に鮮度が良いです。今日は気仙沼は大漁だったのでしょうか。毎回これではご商売が心配になります。
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すべてが近海のものだそう。歯ごたえがあり、噛むほどに美味しいアワビ。もちろんサザエも美味しいのですが、これを話しているとキリがありません(笑)
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地元のお酒、角星の「両國」などを置いています。港町でつくるお酒が蔵の前で水揚げされる魚に合うこと間違いなし。
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ゲソ揚げ(竜田揚げ・400円)。これまたボリューム満点。市場からもってきたイカを身は刺身にだして、ゲソは揚げたり焼いたり、出数が多い分、ゲソも多いのだとか。
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気仙沼漁師の浜汁をパワーアップした、ぴんからスープ(500円)。気仙沼はわかめの産地でもあり、これもまた地元率100%。
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日本酒が進む料理の数々に、すっかり杯数が進んでしまい、ちょっと休憩が必要です。ここは一旦、ビールに戻って刺盛りの興奮を沈めます。
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星つながりで、モーカ(サメ)の星と並ぶ気仙沼珍味の代表格、鮪星刺し(400円)。星は心臓(ハツ)のことで、コリコリとした食感。脂のないストレートな赤身の味を濃縮したような味に、ごま油や酢味噌をつけていただきます。またお酒が進んじゃう…。※お酒は適量で。
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気仙沼では酒の友、ちん(まぐろの心臓の弁の部位)刺し。350円でこれまた豪快です。歯ごたえがあり、ミノに近い触感です。こちらも酢味噌でいただきます。
大箱で賑わい、カウンターもお客さん同士で一期一会わいわい飲む、活気に溢れた店内。大将はどんなに忙しくてもお客さんに声をかけてまわり、店員さんも皆さんとってもフレンドリー。
サービス満点で迎え、遠方にファンをつくる「ぴんぽん」。店名が居酒屋っぽくないなんて思わずに、ぜひ覗いてみて。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
ぴんぽん
0226-23-7007
宮城県気仙沼市南町1-2-3
17:00~23:00(日定休)
予算3,500円