年間水揚げ高200億円を超える、日本有数の漁港「石巻漁港」。水揚げ量、水揚げ高ともに日本トップレベルですが、その魚種の豊富さも特筆すべき点です。
近海、遠洋、養殖に素潜り、ありとあらゆる漁法で集められた魚介類は、一年を通して食のベストシーズンです。
今回ご紹介するお店は、そんな石巻の豊富な地魚を一口サイズであれもこれもつまめる、町のお寿司屋「助六鮨」です。
震災でご家族、店舗に甚大な被害を受けるも、2013年に営業を再開。昔から変わらぬ美味しさと地元で定評がある穴子寿司をはじめ、豊富な鮮魚と、ご主人の軽快なトークで楽しませてくる一軒です。
石巻中心市街は、震災の前後で中心市街の移転はなく、古き良き港町の風情を感じる町並みが広がっています。シティホテルやビジネスホテル、大小様々な飲食店もあり、ぜひ一泊してじっくり飲み歩いてほしい町のひとつ。バー好きならば一度は訪ねたい、人気のオーセンティックバーもあります。
「助六鮨」は、昔からの歓楽街、立町にあります。この場所で創業から45年。旧北上川から200メートルの距離にあり、津波で一階の天井近くまで飲み込まれるも復活されました。
「いらっしゃい!いいねー、一人で飲みにきてくれたのかい?」
気さくな感じで迎えてくれるご主人の千葉 隆士さんは、まさに「親方」という感じの雰囲気。16歳から寿司一筋。店を一代で築き、いまもカウンター立たれています。
握りかい?と聞かれ、飲みに来たと話すと、隣の教授風の常連さんも交えて、すぐに乾杯がはじまりました。
ビール(中ビン600円)は大手3社揃い。樽生がないのは珍しい。アサヒはスーパードライ、キリンはハートランド、サッポロは黒ラベル。この日はサッポロをまだ飲んでいなかったこともあり、宮城県名取で製造されたサッポロ黒ラベルで乾杯。
一緒にだされた地物を使ったイカ塩辛はお店の手作りだそう。ほぼ刺身のような身と、塩分控えめ、甘さと深い旨みを感じるワタがたまりません。
立町はクラブなどが立ち並ぶ歓楽街。そこの寿司店なのですから割高ではないかと心配になりますが、実はとても良心価格。夜のみの営業ながら、上寿しや上ちらしなど1,500円で楽しめます。
まずはつまみで〆鯖。一口目から頬が落ちるような逸品。〆具合と脂ののりのバランスが絶妙で、「こりゃたまらん!」と口にしてしまいそう。
ぐいぐい会話に引っ張り込む感じの親方ですが、とても人柄の良さを感じる方で、おつまみや握りもおまかせしたくなる雰囲気です。希望はただひとつ、地元の食材だけを楽しみたいという旨を伝えました。
宮城県随一の穴子の水揚げを誇る石巻。穴子の習性をつかった伝統的な筒漁で取るそうです。東京では江戸前があるからか、石巻の穴子はそれほど大きくは取り上げられていないように思いますが、これもまた名物。
大ぶりの石巻産など三陸沿岸でとれる穴子を絶妙な火加減でふっくらと煮ていて、酢飯よりも遥かに鮨だねが大きいです。口の中でとろけ、ご飯を上品な脂で包むような味は、日本酒を飲まずに入られません。
お酒(500円~)は親方のお気に入り、サバノミソニ。上品なお猪口やおしゃれな徳利は使わず、1合をロックグラスにいれて提供されます。親方も飲み始めるの?
じゃあ、酔う前に握ってもらわなくては。ご自身もお酒好きということで、ほかにも墨廼江や日高見など複数用意されています。でも、品書きにはお酒としか書かれていません。
ホヤの握りは食べたことある?美味しいの食べた?うちのはスゴイよ!という親方。軍艦にごろごろとさいの目ぎりのホヤを載せたホヤ握り。エグみゼロ、旨味が強烈。それでいて、余韻は驚くほどに爽やかです。口に残るじーんとした余韻に日本酒をあわせれば、旅の目的は果たせたも同然です。
まだまだ!ホヤだけではありません。石巻には素潜りでとるウニもあります。鮮度抜群、海の美味しさがギュッと詰まっています。
ほかにも、アワビなどが素潜りでとれる鮨だねです。
春から夏にかけてのコハダ(シンコ)は身がきゅっと引き締まり、浅く〆ると美味しい。その見本のようなコハダがでてきました。ウニなどの派手なものからコハダまで、いいものづくしでお酒がますます進みます。
〆は鯨肉。弱火でじんわり熱をとしているそう。とろっと溶ける脂と、歯ごたえのある身、どちらもなかなかに美味しいです。
一軒目の利用にも、シメの利用にもおすすめしたい助六鮨。親方の人柄はちょっぴりクセがありますが、だからこそ旅先の人との出会いを楽しめるものと思います。でてくる料理は、どれも地物のいいものばかり。
オーソドックスな「助六」の名だからと侮るなかれの、名店です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
助六鮨
0225-95-5208
宮城県石巻市立町1-3-7
17:00~24:00(日定休)
予算4,000円