宮古「山水」これぞ旅酒の醍醐味。地元の方といっしょに地魚、地酒に酔う夜。

宮古「山水」これぞ旅酒の醍醐味。地元の方といっしょに地魚、地酒に酔う夜。

ここは三陸の漁師町、宮古。盛岡からJR山田線で盛岡駅から約2時間の場所にあり、北は久慈、南は釜石へ三陸鉄道が結ぶ陸上交通の要衝です。

古くから漁師町として栄えた宮古は、いまも東北の大都市とは違った食文化が息づいています。駅前には漁を終えた漁師が集う飲み屋街が形成され、その規模は三陸でもイチニを争う規模です。

国指定の名勝「浄土ヶ浜」は多くの文人墨客が訪れた景勝地ですが、本サイトでご紹介するのはもちろん大衆酒場です。宮古を代表する老舗の酒場「山水」は、旅程のなかに宮古駅前での一泊を追加してもよいほどに、非常に素晴らしい郷土色あふれる飲み屋です。

 

八戸~久慈(岩手県北部)~宮古と、三陸沿岸は鉄道路線がつながっており、お酒を飲みながら各地をめぐることが可能です。自動車でのアクセスが改善されても、やはりお酒を飲む旅は汽車に限ります。

 

宮古の中心街に接するJR・三陸鉄道の宮古駅。交通の便がよく、列車の発着にあわせたくさんの人々が行き来します。

 

駅前は広く整備され、通しで営業する寿司店やビジネスホテルが集まり、旅の拠点として十分。路線バスも多く、市内にある漁港や市場へもバスでの移動が便利です。

 

目指す「山水」は、昔からの商店街を歩くこと5分。震災・津波の影響かところどころに空き地がありますが、今も営業しているお店はみな力強い雰囲気です。

 

この佇まい。老舗の飲み屋が好きな方にはきっと伝わる、暖簾をくぐりたくなる店構えです。

 

家族経営のアットホームなお店。接客を手伝うお姉さんも日中は市場で働くという、皆さん宮古で生まれ育った人々。集まるお客さんも漁業関係者が多く、観光地では感じることのできないリアルな宮古に浸れます。

 

お酒は地元の酒蔵「千両男山」。カウンターよりも高い位置に置かれた酒燗器と、それに並ぶ位置にある2011.3.11の津波水位表記が、なんともいえない気持ちにさせられます。忘れない、そしてお酒を趣味とするものとして、この地で消費を…、改めて感じる瞬間です。

 

冷蔵ショーケースに並ぶ地元食材を眺めながら、まずは仙台づくりの生ビール、キリン一番搾り(500円)で乾杯!

 

ビールはキリン。樽生の一番搾りに加え瓶はキリンラガーもあります。酎ハイはキリンの樽詰サワーです。

 

暖簾を掲げたばかりの早い時間。ビールでひといきついたら、次はおつまみです。町の主要産業が漁業。そんな宮古で半世紀続く酒場なのですから魚介類は間違いありません。

 

黒板メニューも魅力的。世界三大漁場のひとつ三陸沖の水揚げ港である宮古は、飲み屋のメニューも充実しています。

 

産地以外ではまず食べられない「ドンコ」(600円)があるのですから、それはもう頼むでしょう。ドンコことエゾアイナメは三陸の名物。鮮度が落ちやすく、漁師町以外ではなかなか食べることができないのだとご主人。

 

なめろうのように細かくたたき、肝あえにしていただきます。これが大変に美味。濃厚でコクのつよい肝の旨味とぷりぷり食感で爽やかな風味感じる身のバランスが良く、他の食材には例えようがない美味しさがあります。

「お酒好きならばどんこを絶対食べるべき。」 東北の酒場で何度となく言われてきた名物です。春の産卵期を前にした寒い時期が絶品とのこと。こういう肴に出会えるから漁師町の酒場はたまりません。

 

風味付け程度に醤油をつけますが、この醤油もまた地元のもの。土地の魚、土地の醤油ときたら、次は当然土地の酒でしょう。

 

千両男山をつくる宮古市鍬ケ崎下町の菱屋酒造店は津波の被害を受け全壊。1タンクを除き酒、醸造設備ともに壊滅的な被害がでましたが、いまはこうして復活。昔とかわらぬ地元消費向け定番酒の「金印 千両男山」を宮古の酒場で飲む。考えさせるひとくちであり、今日はいつもより一杯多めに飲みたい気持ちにさせられます。※お酒は適量で。

 

三陸の港町のなかでも魚種が豊富な宮古。名物は挙げるときりがありません。海女の北限である宮古は、地元の皆さんが潜り水揚げした豊かな魚介類にあふれています。朝にとれた巨大な天然ホヤ(600円)は、それはもうトリコになる美味しさです。

 

常連の漁師さん、朝は市場で働くお姉さん、そして山水のご夫婦そろって、「セイダカレイ」(700円)をおすすめされたら、それはもう悩まず頼みます。

カレイの水揚げが豊富な宮古は、ヒラメ、ゾウリ、ナメタ、セイダ・柳・宗八カレイ、…と様々とれるそうで、とくにセイダは自慢の魚と紹介されました。塩入れして軽く干したものを焼き上げます。脂がのっていて、表面には汗のように肉汁の水滴がつきます。

 

柔らかくあっさり、それでいて余韻は長く非常に心地よい味。切り身にもかかわらず1人で食べきれないほどの大きさにも驚かされます。

 

あわせるはお酒は日本酒から休憩でビールへ。キリンラガーの中瓶を傾け、一期一会のお隣の漁業関係者の方と乾杯。暮れゆく宮古、魚の話で盛り上がるカウンター。そして美味しい魚とビール。これだから旅の酒場はやめられません。

 

満席になるほどの賑わい。ご主人は一度満席になると二巡目のお客さんはお断りし、あとは居合わせたお客さんと晩酌を始めます。訪ねるならば早めの来店、確実に入るならば予約がおすすめです。

女将さんやお手伝いのお姉さんもまざって、楽しいひととき。樽詰めサワーを傾けながら。

 

ここで食べた食材は宮古市魚菜市場にもあるからぜひいらっしゃい。朝からお刺身で飲めますよ!なんてお話をいただき、翌日も早朝から飲むことに。

いつもの飲み屋でいつものお酒も良いですが、土地の味を楽しみ、土地の人と触れ合える旅先の酒場もまた最高です。

次の旅先は三陸にしませんか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

海鮮居酒屋山水
0193-64-0345
岩手県宮古市大通3-1-32
17:00~22:00(月定休)
予算4,000円