盛岡の繁華街は知れば知るほどおもしろいです。大きく括ると5つのエリアがあり、盛岡駅前、大通、県庁周辺に肴町、そして最も盛岡駅から離れている地域が「八幡町・松尾町」です。
東西に連続して表情の違う繁華街・歓楽街が2キロ以上に渡り連なっていて、ほろ酔いでこれらの街を歩き、気になる酒場の暖簾をくぐるのは実に楽しいです。
最も東の歓楽街「八幡町」はその名の通り、盛岡八幡宮の門前町です。古くは宝永の頃から茶屋などが立ち並ぶ歓楽街だった場所で、明治になってからは花柳界として賑わい、幡街(ばんがい)と呼ばれていた歴史があります。
現在は大通の喧騒を離れ静かに飲もうとする通のお酒好きが集まるエリアです。
今回は、ここで40年あまり続く老舗の大衆割烹「惣門」をご紹介します。
ちょっとした割烹旅館のような佇まい。一階は仕切りのあるテーブル席と奥にはカウンター席。2階は宴会用の座敷があります。
おすすめは女将さんとの会話も楽しいカウンターです。数席しかない特等席です。腕のいいご主人と八幡でうまれそだったと話す女将さんのコンビ。支えるお子さんたちも食の道を歩む、素晴らしき家族経営のお店。そんな様子を拝見しながら、まずはキリン一番搾りの樽生(550円)で乾杯!
特性の薄づくりグラスが輝いています。
ビンではキリンラガー(630円)とハートランド(720円)なども用意。
お酒の主役はこちらでしょう。地元のあさ開(盛岡)や鷲の尾(八幡平)などの日本酒が揃っています。スタンダードな鷲の尾は1合410円と、上品な大衆割烹ながらに現地ならではのお手頃価格で楽しめます。
何を食べても美味しいと評判の惣門。品書きを眺めるのはいつもより念入りに。品書きをみているだけでビールが進みます。
こちらは標準メニュー。お刺身、天ぷら、焼き物が一通り揃っています。
夜のみの営業ですが定食もあります。グループ利用で予約をして訪れる方はコースを頼まれることが多いそうです。
惣門の魅力は最初からはじまります。上品な先付は、お店の料理に対する姿勢を感じます。う巻きに海老のテリーヌ、つぶなど八品ほど、季節感感じる食材が並びます。ひとくちでつまめて、ビールを誘う素敵な内容です。
大のビール党と話す女将さんと。ビールの話題のながれで、昔のキリンビールのジョッキがあるというお話になり、そちらで飲ませてくれるということになりました。あちこちのお店で年代物のジョッキを見てきましたが、とくに左のジョッキはとてもめずらしいものです。
ビール談義や街の話をうがっていると、お刺身がでてきました。かつお刺し(820円)、食べる前から明らかに美味しいとわかる、美しい桜色。滲む脂がたまむし色にうっすら光ります。
美味しいかつおの見極めは難しいのだそうですが、これはさすがの大当たり。三陸のかつおは春から秋にかけて、暖かいころが旬です。
こちらは非常に珍しいきんこ(なまこ)の酢の物(550円)。コリコリとした食感とじんわり広がる磯の深い味。これは間違いなく日本酒が必要です。
日本酒の300mlビンが充実していて、例えば鷲の尾ならば3種類。生貯蔵、純米生、吟醸生と用意。
選んだお酒は、あさ開の純米大辛口 水神(980円)。惣門からあさ開の蔵元まではわずか300メートルの距離。神社近くでつくるお酒を神社の門前町で飲む、この当たり前がいまどきは珍しいかもしれません。
柳かれい(950円)。大皿からはみ出す大きさ。ホクホクに仕上がった身は脂がほどよく落ちていてすっきりとしています。それでいて乾いた感じはなく、上品な旨味がしっとりとした身の間から溶け出し口いっぱいに広がります。
こりゃたまらんと、鷲の尾のお燗酒(410円)をお燗でひとつ。白瓷(はくじ)の平盃にトトトと流し、こぼさないようにきゅっと飲む。広がる米の旨味が、柳かれいの余韻とあわさり、すっと喉を過ぎていきます。
季節の美味しい海や山の幸を気取らずに、それでいて素直にほどよく上品な調理で提供し、お客さんを楽しませてくれる惣門。定食を食べに来る地元の方も、出張で立ち寄る惣門の遠距離ファンの方も、みんなとっても幸せそうです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビール株式会社)
惣門
019-654-6123
岩手県盛岡市松尾町5-2
17:00~23:00(日祝定休)
予算3,500円