今日は大洗の居酒屋「土びん」をご紹介します。ご夫婦お二人で切り盛りする町の小さな居酒屋なのですが、これが足を伸ばしていく価値あるお店。
大洗といえば茨城県の鹿島灘にある海岸沿いの町。北海道苫小牧と関東を結ぶ商船三井の「さんふらわあ さっぽろ・ふらの」の出発港として知られている他、釣り好きにはカジキ釣りのメッカでもあります。日本トップクラスの規模を誇る「アクアワールド茨城県大洗水族館」も見どころです。
歴史ある港町だけに、魚好きを楽しませてくれる魅力がいっぱい。それはもちろん「飲む・食べる」でも同様です。
大洗へは、水戸と鹿島神宮を結ぶ鹿島臨海鉄道の利用が便利。水戸駅からなら数分の距離で本数も多いので、感覚的には水戸から飲みに寄り道するといったところです。車両いっぱいかかれたキャラクターは大洗を一躍有名にしたアニメ作品のもの。
JR水戸駅を発車し、軽快に飛ばすこと20分、高架線を走るので景色も良好です。
大洗駅に到着しました。観光案内所も併設された立派な駅舎です。
駅前にはカジキのモニュメント。なかなかリアルな造形でびっくり。カジキってお酒の肴になりますか(笑)
駅周辺には寿司店、和食店。昔からの街道沿いの商店街もあり、風情ある街並みが広がります。拡幅されていない昔ながらのうねった道を路線バスが走ります。目的の「土びん」は駅から路線バスに乗って向かいます。駅周辺にも居酒屋はありますが、大洗海岸の方へ観光がてら移動するのもいいものです。正面には土地の神様、大洗磯前神社の鳥居が見えています。
港に近接した商店街に構える「土びん」。お客さんも漁業や海鮮加工、港で働く人たちが多いです。
どっしり構えた店は、入ると意外とこじんまりしています。立派な厨房と、それに向いたカウンター席、奥には小上がりという配置です。黒板には、かつお刺、あじたたき、平目刺、ほっき貝、甘海老、ほんだカレイ、なめたカレイといった魚好きを擽る文字が並びます。カレイが二種類あるのも珍しいです。
乾杯は生ビール(570円)で。きれいなサーバーから女将さんによってすっと注がれた樽生の黒ラベル。500mlジョッキの昔ながらの大きさが嬉しいです。では乾杯!
お通しは自家製の塩辛。浅漬けで濃すぎず、ちょうどいい塩梅。旨味が一杯目のビールをますます進ませます。
メニューは色々ありますが、話し上手なご主人と会話の中から選ぶのがよいかと思います。せっかくならは「かつお刺し」がいいよと。
お酒はやはり地酒「月の井」を飲まなくてはなりませんね。
月の井の冷酒を一本。そして、素晴らしい包丁さばきで魅せてくれるかつお刺しがやってきました。
茨城の魚といえば、やはりかつおが花形です。霜降りで淡いピンク色をしています。背だけでなく腹が美味しいんです。
しょうが、にんにくを載せて、大きく一口頬張れば、目を見開いてひたすら唸るのみ。そしてその余韻を追いかけるように月の井をきゅっと含みます。これが幸せでなくて、なにが幸せですか。
月の井は茨城県でも知られた銘柄ですが、ここ土びんから400mほどしか離れていません。土地の魚に土地の酒、長い年月、ずっと組み合わされてきた両者を、その土地で飲む。こればかりは現地でしか味わえない贅沢です。
隣の常連さんとご主人の会話にも混ぜてもらい、気づけば大洗の酒場にどっしり腰を据えている気分。ほんだカレイ、つまりサメカレイも気になりますが、なめたの煮たものが美味しそうなのでこちらをチョイス。濃いめの甘さしっかりの味ながらしみ具合は絶妙。脂がのっているからこれくらいがいいのでしょう。
酒場ではありますが、大衆割烹といったほうが正しいような、しっかりとした仕事をされるご主人。そんなご主人の味を求めて、地元の魚通たちが集う理由がよくわかります。
バス停がお店のすぐ近くにあるため、戻りの時間もぎりぎりまで店内で楽しむことができます。まっすぐ帰るのがもったいない、東京から近いお魚の天国・大洗。もう少しゆっくりしたいものです。
さて、これからの季節、いよいよ「あんこう」が登場します。土びんのあんこう鍋は絶品と地元の酒好きが太鼓判をおしているので、そろそろ食べに行かなくては。
ご主人の体調の関係で営業日が少ないですが、ぜひ狙ってどうぞ。息子さんが東京で修行されているそうで、今後も楽しみな一軒です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
土びん
029-266-2989
茨城県東茨城郡大洗町磯浜町63
17:00~22:00(木金土営業)
予算2,800円