常陸多賀「いづみ(塙山キャバレー)」 震災を乗越えた奇跡のバラックで浸る、土地のぬくもり。

常陸多賀「いづみ(塙山キャバレー)」 震災を乗越えた奇跡のバラックで浸る、土地のぬくもり。

日立の「塙山(はなやま)」と聞いてピンときた方は、地元の方か、もしくは旅と酒場めぐりを趣味とされている方でしょう。

今日は茨城県北部、人口は県内3番目、約18万人が暮らす日立市から、とてもディープで、とってもあったかい飲み屋街をご紹介します。

日立市は大手電機メーカーのお膝元として知られていますが、飲み歩きがお好きな方にもご紹介したいスポットがあります。その名も「塙山キャバレー」。さてさて、どんなお店が暖簾を掲げているでしょうか。どうぞ最後までお付き合いください。

 

“塙山キャバレー”という名前からは、どんな立地にあるかは想像もつきません。日立市の玄関口はJR日立駅ですが、塙山は1駅上野寄りの常陸多賀駅のほうが近いです。とはいっても駅前にあるわけではなく、路線バスで約10分の場所。徒歩だとちょっときついです。

 

塙山バス停下車。国道6号と市内の目抜き通りの交差点に接した場所。全国チェーンのファミリーレストランやビデオレンタル店が立つ十字路の一画だけ、独特なオーラが漂っています。突然現れる青いバラックの建物群。ここが塙山キャバレーです。キャバレーといってもナイトクラブではありません。

 

約60年ほど前から存在するというトタン造りの飲食街は、国道に面した側だけでなく、奥にも細い道で伸びています。平成も過ぎ去った現在でも、ここは未舗装。「雨の日は長靴だよ」と、このあと訪ねる酒場の女将さん。

お手洗いはもちろん共用です。

 

まるで映画のセットのよう。”炭鉱町の飲み屋街”のワンシーンに出てきそうな雰囲気です。実際に塙山キャバレーをつかってさまざまな映画やドラマのロケが行われています。

 

2014年1月の夜、火災によって中心の5軒が焼失。以来、跡地は砂利敷の広い空間となっています。

 

現在営業しているお店は約10軒。早い時間から開くお店も多く、夕方を前にして、あちこちからカラオケの歌声が漏れ聞こえていました。「メリー・ジェーン」や「別れても好きな人」などの昭和のムード歌謡を耳に残しつつ、今日は「いづみ」を目指します。

 

いづみは塙山キャバレーで現存する2番目(2019年時点)に古いお店。こういう場所ではよくあるスナックと居酒屋の間の子のようなお店。

午後2時から営業、一見さん歓迎と、遠方から訪れる人にはありがたい一軒です。こちらはカラオケがメインではないので、歌うお店が得意ではない方にもおすすめ。

 

特別なものはだしてないと話す女将さんですが、地元日立やその周辺の食材を使った家庭料理をさまざま用意されています。ときにはカツオ刺しも。

お通し(500円)に出てきたのは、手羽の塩煮込み。太平洋から吹く強い風のなかやってきたので、こういう料理がほっとできて嬉しいです。

 

一杯目は樽生ビール(600円)で。県内に工場があるアサヒのスーパードライで乾杯!

 

キャバレーでスナックというと値段はあってないようなもの…なんて心配はまったく御無用。明朗会計です。塙山キャバレー内ではお酒の価格は各店舗共通となっており、どこのお店で飲んでも値段は同じだそうです。

 

女将さんは現在のお店をはじめて35年、それ以前から塙山キャバレーで働かれていた方で、料理上手と評判なのだと常連さん。

 

ブリカマを焼いてもらって、これを肴にちびりと。酒の肴はもちろんおつまみもそうですが、メインはここに集う地元の方々と女将さんの会話です。

 

土地のコトバが飛び交う中で、意味はわからないけどあったかい言葉だなーとしみじみとしている私に、お客さんのなかでも若い方が時折、わかり易い言葉に言い換えて話してくれました。

 

「よかったらししゃも食べて」とカウンターのお隣さん。終始皆さんがとても気にかけてくださり、時間が進むのも早いです。素敵な酒場コミュニティ。

 

おすそ分けをしたりされたり、お酒の話題から街のことまで色々と教えていただきました。

 

日本酒は秋田の辛口「高清水」(1合350円)。なみなみ注いでくれます。会話がはずめばお酒も進む、いつもの高清水がより美味しく感じるひとときです。

 

焼酎はグラス売りが二階堂(500円)、ボトルならば一刻者(宝酒造)や雀の琥珀(大分県玖珠郡九重町・八鹿酒造)、神の河(鹿児島県枕崎市・薩摩酒造)を用意。

ひとり飲みならば1合を上回るような量を入れてくれるグラス売りで十分です。しっかり濃い目のお湯割りをいただきました。ロック、水割り、ウーロン割など可能。

 

塙山キャバレーの建物には基礎がなく、砂利の上にそのまま建っている状態。屋台の延長線にあります。それでも、2011年の震災では建物に大きな被害はなかったそうです。女将さんはご自宅は被災したものの、塙山キャバレーは無事だったため、震災後、店の中で夜を明かしたそうです。

断水、停電の中でも常連さんが元気づけに訪れ、それが店を続ける気力になったと聞きました。

いつどんな変化が起きるかはわかりません。ですから、状況が許される方はぜひ飲みに行ってみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

いづみ(塙山キャバレー)
茨城県日立市金沢町1-1-12
14:00ころから20:00ころまで(定休日要確認)
予算1,800円