日本最大の歓楽街、東京の新宿。新宿駅を中心とした半径1km圏内には約1,500軒もの居酒屋が営業しています。
今回は、そんな新宿から1970年代以前に創業した老舗居酒屋のみを厳選してご紹介します。長い間営業を続けてきた店には、多くの常連客を魅了する特別な魅力があります。家族経営を含む老舗の個人店を訪れることで、新宿の夜はさらに楽しくなることでしょう。
1,『どん底』
劇作家マクシム・ゴーリキー作・戯曲「どん底」の舞台に出演した俳優の矢野氏が1951年に創業。『どん底』という独特な店名は出演作が由来。新宿という場所柄、作家や演出家などが贔屓にした店で黒澤明も常連だったひとり。
老舗が多く残る新宿末廣亭エリアでも特に歴史ある一軒で、店構えや店内の雰囲気も重厚感たっぷり。敷居が高く感じるかもしれませんが、ここは今も文化人が集まる普通の居酒屋です。
新宿の元祖酎ハイと言われる「どんカク」ことどん底カクテルを飲みながら、喫茶店風ピザや肉料理を摘んで大人の時間を楽しみませんか。
住所 | 東京都新宿区新宿3-10-2 |
営業時間 | 営業時間 【月~金】 17:00~23:30(L.O.) 【土・日】 11:30~23:30(L.O.) 日曜営業 定休日 なし (但し、12月31日~1月4日は休み) |
開業時期 | 1951年 |
2,『池林房』
昭和53年創業の『池林房』も、新宿の居酒屋を紹介する上で欠かすことのできない存在です。どん底からは徒歩20秒で、両店をハシゴする人もいます。演劇・映像・小説家・出版関係のファンが多く、椎名誠さんも常連さん。テレビドラマに登場する有名居酒屋ロケ地としても知られています。
品質の良い生ビールや日本酒を揃えた店ですがワインのラインナップも豊富。料理もお酒のヴァリエーションに合わせて、和食、洋食、中華と一通り揃えており、どれも安定した美味しさです。名物の「ジャンボしゅうまい」が絶品。
住所 | 東京都新宿区新宿3-8-7 |
営業時間 | 営業時間 [火~日] 17:00~翌1:00(L.O.翌0:00) [金・土・祝前日] 17:00~翌2:00(L.O翌1:00) 日曜営業 定休日 月曜定休 |
開業時期 | 1978年 |
3,『鼎』
レトロなビルの地下に位置し、初めての方には躊躇しそうな店構えが特徴です。しかし、その地下に広がる空間は、酒場好きならばうっとりするような味わい深い世界が広がっています。こちらは豊洲直送のマグロやブリ、近海の地魚を揃えたカウンターメインの老舗居酒屋『鼎(かなえ)』です。
料理にはやや関西割烹テイストが感じられます。おすすめの一品は、小鍋で提供される葱鮪鍋や本マグロのなめろうなどのマグロ料理です。特に、葱鮪鍋は絶品で、葱の風味と鮪のトロの旨味が実によくあいます。
住所 | 東京都新宿区新宿3-12-12 B1F |
営業時間 | 営業時間 月曜日から土曜日 16:00~23:45 祝日 16:00~23:00 定休日 日曜日(月曜日が祝日の場合は月曜日) |
開業時期 | 1972年 |
4,『ぼるが』
思い出横丁で創業し、1958年に山小屋をモチーフにしたレンガ造り風の現店舗に移転。ロシア文学が好きな創業者が、ロシアの大河ヴォルガ川と同じ名前をつけました。現在は3代目が店を守ります。『ぼるが』もまた、文化人のたまり場だった居酒屋で山田洋次監督も常連さんの一人。
ランタンが照らす店内で食べるのは、昔ながらの作り方を続ける炭火の「やきとり5本(ばん焼き)」(水鳥の「ばん」を焼いていたことが由来。現在は豚モツ)や、とんぶり、ネギぬた、おから、ポテトサラダなどの素朴だけどしっかり美味しいプロの味が人気です。
住所 | 東京都新宿区西新宿1-4-18 |
営業時間 | 営業時間 17:00~23:00 定休日 日曜日、祝日 |
開業時期 | 1949年(現店舗は1958年から) |
5,『番番』
1976年創業の番番は、靖国通りから歌舞伎町へ入ってすぐの場所にあります。店は雑居ビルの地階にあり、歌舞伎町という立地からも非常に入りにくく感じますが、訪ねて間違いのない居酒屋です。
カウンター席のみの構造のため、大人数での利用はできません。しかし、むしろその特性が、仲間内だけで盛り上がらず、居合わせた全てのお客さんたちで一体感を共有する良さを生み出しています。隣同士が別に会話していなくても、飲み慣れた人たちから漂うムードだけでお酒が進むことでしょう。
炭火で焼かれる焼鳥と冷たい瓶ビールの組み合わせ、2,000円台で飲める『番番』は、歌舞伎町の良心です。
住所 | 東京都新宿区歌舞伎町1-16-12 梅谷ビル B1F |
営業時間 | 営業時間 16:00~23:00(L.O.22:30) 日曜営業 基本無休 |
開業時期 | 1976年 |
6,『鳥田むら』
新宿末廣亭エリアを代表する焼鳥居酒屋のひとつ『鳥田むら』。本店の開業は昭和49年。創業当時から使われている本店は、今も木造のドアに曇りガラスという店構え。店内も木材を多用した空間で奥へ伸びるカウンターと小上がりというつくり。
焼鳥は6本コース(1,150円)ではじめるのがお決まり。手羽先、レバー、皮、はさみ(ねぎま)、ぼんじり、ハツとでてきます。味付けはお任せで、はさみは珍しい味噌ダレです。表面はパリっとしていて中はジューシーな手羽先はとくに秀逸で、あさ開水神純米がスイスイと進みます。
住所 | 東京都新宿区新宿3-11-2 |
営業時間 | 営業時間 15:00~翌3:00(L.O.翌2:00) 定休日 日曜・祝日 |
開業時期 | 1974年 |
7,『薩摩おごじょ』
鹿児島県知覧町出身のトメさんが開いた鹿児島料理の店。現在はお孫さんが店の歴史を守っています。「薩摩おごじょ」とは、薩摩の方言で「鹿児島の女性」のこと。飲み慣れた常連さんが多く、とくに店の背景を知る文化人が集まります。
東京では珍しいキビナゴ刺身やつけあげ(さつま揚げ)、とんこつや豚味噌、かつおの腹皮などが人気。新宿にいながらにして鹿児島の雰囲気に浸ることができます。
薩摩焼酎の品揃えはもちろん豊富。黒千代香(黒ぢょか)で燗をつけるのも鹿児島流です。
住所 | 東京都新宿区新宿3-10-3 B1F |
営業時間 | 営業時間 17:00~24:00 定休日 日・祝日 |
開業時期 | 1969年頃 |
8,『萬太郎』
再開発で大きく姿を変えた西武新宿から歌舞伎町にかけてのエリア。ここで長く続く炭火焼きの大衆居酒屋といえば『萬太郎』です。
創業者のご家族が店を引き継いだことで平均年齢は下がりましたが、昔からの人気料理は味もそのままに健在。店の雰囲気も変わっていません。西武新宿線の終電近い23時30分まで営業しており、残業で遅くなった人の駆け込み1杯や梯子酒のお客さんたちで遅くまで賑わっています。
住所 | 東京都新宿区歌舞伎町1-28-6 中銀新宿第三ビル 1F |
営業時間 | 営業時間 16:30~23:30(L.O.23:00) 定休日 日曜日、祝日 |
開業年 | 1972年(1993年に現在の店舗へ移転) |
9,『樽一 本店』
高田馬場で昭和43年に創業し、6年後から新宿歌舞伎町で営業を続けてきた鯨料理と三陸郷土料理の店『樽一』。「浦霞」をつくる酒蔵・佐浦(塩竈市)と長年交流があり、『樽一』では他店では飲めないような特別な浦霞も手頃な価格で楽しめます。
看板料理の鯨は鯨刺身全盛(赤身・尾の身・さえずり・ハツ・本皮・鹿の子・美脂・自家製ベーコン)を筆頭に、赤身竜田揚げ、尾羽毛、皮やわらか煮など様々な部位や料理が楽しめます。
2代目大将で常にお客さんを全力でもてなす佐藤慎太郎さんの人柄も『樽一』が人気の理由でしょう。
住所 | 東京都新宿区歌舞伎町1-2-9 |
営業時間 | 営業時間 月~土 17:00 ~22:00(21時L.O) 定休日 日祝 12月30日~1月4日 8月11日~15日 |
開業時期 | 1968年 |
10,『瀧元』
瀧元(たきげん)は、新宿百人町で昭和45年から営業してきた正統派の大衆割烹です。最寄り駅はJR大久保駅ですが、新宿の大ガードからも徒歩7分ほどでアクセスできます。新宿での飲み歩きにおいて、瀧元は魅力的な選択肢の一軒となるでしょう。
市場から仕入れる新鮮な魚介類は、熟練の大将によって丁寧に割烹料理へと仕上げられます。
また、日本酒は姫路の酒蔵であるヤヱガキ酒造の銘柄のみというのがこだわり。巨大な蛇の目猪口で供される清酒・八重垣男酒辛口が、名物料理のたら豆腐と相性ぴったり。
住所 | 東京都新宿区新宿3-8-7 |
営業時間 | 営業時間 [火~日] 17:00~翌1:00(L.O.翌0:00) [金・土・祝前日] 17:00~翌2:00(L.O翌1:00) 日曜営業 定休日 月曜定休 |
開業時期 | 1978年 |
気になる居酒屋はありましたか
今回はご紹介しきれませんでしたが、新宿には居酒屋に限らず、お酒を楽しめる老舗の飲食店もたくさんあります。下記の各店もお見逃しなく。
- 呑者家(昭和54年創業の酒場)
- 新宿つな八総本店(1924年創業の天ぷら専門店)
- 天ぷら 船橋屋 新宿本店(1886年創業の新宿を代表する和食・天ぷらの店)
- 日本料理三平(三平グループの飲食店)
- 鰻 小ばやし(1905年創業の老舗鰻店)
- サントリーラウンジイーグル
- 新宿ライオン会館(サッポロライオンのビヤホールの中でも歴史がある店舗)
- 洋食 アカシア 新宿本店(1963年創業の洋食店、ロールキャベツが名物)
- 王ろじ(1921年創業のとんかつ店。カツカレー・とん丼が名物)
- 長野屋(1915年創業の駅前大衆食堂)
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)