一時は、もうだめかと思った――。緊急事態宣言下で、ヘルメスワインコーナー、そして昴が店をたたみ、イーグルも終わりの見えない休業が続いていました。新宿を代表する老舗バー『サントリーラウンジ イーグル』、奇跡の復活をご紹介します。
目次
思い出のサントリーラウンジ
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1966年(昭和41年)に完成した『サントリーラウンジ イーグル』は、現存する新宿最古(当サイト調べ)のオーセンティックバーです。
1955年設立の津川興行が運営するバーのひとつでした。同社は新宿に5店舗、池袋に1店舗を展開していたものの、店数は残念ながら次第に減少し、新宿西口の『飛鳥』、池袋の『ヘルメスワインコーナー』、新宿東口の『昴(スバル)』と『イーグル』の4店舗体制が続きました。最後まで残った店舗も、世界的な感染症の流行の中、営業できない事態となり次々と閉店の告知が張り出されました。『イーグル』だけは「休業」表記だったため、奇跡の復活を願った常連さんは多かったです。
現代にはないイーグルの豪華さと味わい
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新宿アルタ裏にある古いバー。そう聞けば、「昔、行ったことかある」と思い出す人は多いでしょう。レトロな看板が誘う、古いビルの地階へと降りる階段の先にあるお店です。
この階段を降りることはもう無いかと思って店の前を通ると、なんと看板に明かりが灯っているではありませんか。居ても立っても居られず階段を心弾ませ降りていきました。
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いまでこそ、JR新宿駅東口と大ガードに挟まる一等地になっていますが、この界隈は2000年頃までヤミ市の名残が残っていました。イーグルの入居するビルが建つ以前は、茅葺きの一軒家だったというから驚きます。
この階段はとても深く、当時の建築では非常に斬新だったに違いありません。
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階段の途中にある重厚なガラスドアは、自動ドアながら珍しい開き扉です。その先はフカフカのカーペット敷階段で、視界はぐっと広がり、2基のシャンデリアに思わず息を呑みます。
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客船のバーをイメージしたと言われていますが、壁面の石壁や細部まで作り込まれた木製の飾りなどは西洋のレストランに近いものを感じます。開業当初から内装はまったく同じなのだと、ベテランバーテンダー。
イーグルの復活
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緊急事態宣言下、津川興行は事業を維持できずに廃業。3店舗で約30人いたスタッフは、全員は解雇されたそうです。その後、新しいオーナーが引き継ぐことになり、イーグルの復活計画がスタート。『昴』も復活させようと奮闘するも、物件等の関係から叶わなかったといいます。こうして新体制になった『イーグル』は、昔からのバーテンダーさんが集まり、昔とかわらないシェーカーの音を響かせながら、再び、時を刻み始めました。
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(写真は2020年2月撮影)
バーと蒸留所を繋ぐ雑誌『ウイスキーヴォイス第60号』(サントリースピリッツ発行)の表紙絵にもなった、1978年からイーグルで働くベテランバーテンダーの長谷川さんも現役です。
品書き
思えば、バーへ飲みに行く「独り立ち」をしたのは、『イーグル』からでした。当時20代前半の筆者は、テーブルチャージを取らず、さらにウイスキーを居酒屋価格で飲ませてくれることは『イーグル』は夢のバーでした。
店名にサントリーラウンジとあるように、サントリー指定 優良モデル店で、サントリーが扱うウイスキーが大変良心的な価格で提供されています。それは新体制になっても変わりません。
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飲み物
何十年も続く感謝スペシャルプライス。ジムビーム(460円)、バランタイン(460円)、ティーチャーズ(460円)、角瓶(500円)。
生ビールはサントリー ザ・プレミアムモルツ(19時までは550円、それ以降は880円)ですが、酒類すべてがサントリー系というわけではなく、ジョニーウォーカーBLACK(660円)などもあり、やはりリーズナブルです。
料理
津川興行のオーナー・津川さんは料理人だったと聞きます。各店ではバーでありながら洋食レストラン顔負けのクオリティの高い料理が提供され、食事も人気の店でした。復活のイーグルにもそれらの料理が一部ですが受け継がれています。
洋風カニミソ バター(970円)、牛肉と野菜の四川風(1,540円)、エスカルゴ ブルゴーニュ風(1,430円)、自家製ディップチーズ(750円)ビーフストロガノフ(2,300円)、半世紀前につくられた同店オリジナルの冷製牛肉白髪ネギロール 霜降りビーフ(2,200円)、オリジナルピザ(1,540円)、牛肉春巻き(1,320円)など。
カウンターの角が一人飲みの特等席
テーブル席もあり、4人以上の利用も可能ですが、バーの魅力はやはりカウンターに座ってこそ、100%感じられるものと思います。一人で飲むとき、筆者はカウンターのL字の角を好みます。ここからは、バーテンダーさん全員の仕事を一望できるからです。
再開を聞きつけたベテランの常連さんたちが並ぶカウンターは、昔よりもさらに雰囲気がよくなったように感じます。
バランタイン(460円)
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さて、まずは何から飲みましょう。『イーグル』のウイスキーは気軽にお代わりできる価格なので、ペースの範囲内でいろいろ飲み比べたいものです。一杯目は、バランタインのロック。飲み方はソーダやロック、水割りなど自由に指定できます。
自家製レーズンバター(790円)
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バーフードも、同店は実に魅力的です。すべてのソースは自家製ですし、簡単なつまみから、食べごたえのある洋食や若鶏唐揚(1,320円)まで、バラエティに富んでいます。
なかでも、自家製のレーズンバター(790円)が好物で、無事に復活していることに一安心。味も昔とかわらず、しっかり濃厚でウイスキーとの相性は抜群です。
店の看板カクテルは季節のフルーツ
四季を感じさせるフルーツカクテルが、イーグルの醍醐味です。カウンターに置かれたフルーツから、どんなカクテルが出るか想像するのは楽しいものです。もちろん、バーテンダーさんは定番のレシピに限らず、好みにあわせてアレンジしてくれます。
グレナディーヌ ざくろ(1,430円)
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12月の取材時は、ザクロのカクテル。
巨峰のセプドール(1,430円)
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秋は巨峰や梨のカクテルが楽しめます。どれもジュースを使用せず、果汁とお酒だけでつくる贅沢なカクテルです。
完熟マンゴー舞姫(1,430円)
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マンゴーのカクテルは南国の暖かさを感じさせるもの。春から初夏に並びます。
カシスラムール いちご(1,430円)
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年をまたげば苺の季節。復活のイーグルで飲むときを楽しみにしています。
真夏のソルティドック すいか(1,430円)
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写真は今はなき『昴』から。イーグルをはじめとした系列店ではお馴染みのフルーツカクテルでしたが、一番好きだったのは、スイカのカクテルです。スイカの果肉を丁寧にしぼったフレッシュな味が、四季がないような夜の新宿に貴重な季節感を演出ていました。
ダルマが似合う
サントリーオールド(550円)
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その形状からダルマの愛称で親しまれてきたサントリーオールド。かつてはサントリーの主力商品としてテレビコマーシャルも盛んに行われていました。いまは主役の座を「山崎」などに譲り、オールドやリザーブはどこか懐かしい存在になりましたが、改めて飲むとしみじみ美味しい、昔ながらのジャパニーズウイスキーです。
新宿の思い出を留めたレコードのような店
地上の喧騒を忘れ、古くからあるお酒に舌鼓をうつ、こんな新宿の過ごし方はとてもいいものです。ここで飲んだ大勢の人々の思い出とともに、これからも変わらず続くことを願っております。
新宿駅前にあって、バブル崩壊、リーマンショック、震災、長期休業。様々な困難を乗り越えてきたサントリーラウンジ『イーグル』。なくなってしまったら二度とつくれない東京の料飲店遺産のひとつです。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | サントリーラウンジ イーグル |
住所 | 東京都新宿区新宿3丁目24-11 セキネビルB1F・B2F |
営業時間 | 営業時間 [火~日] 17:00~23:30 時短営業要請を受けた場合は営業時間の変更あり 日曜営業 定休日 月曜日 |
開業年 | 1966年 |
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