静岡の昼酒を担っているのは独自の「おでん屋」文化。市内各地に静岡おでんの専門店がありますが、今回は旧丸子宿で半世紀近く続く家族経営の店『ばん』を訪ねます。昔ながらの街道沿いの茶屋を彷彿とさせる味わい深い一軒です。
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旧東海道20番目の宿場町「丸子」
静岡市中心街、駿府城下から西へ3里ほど。安倍川を渡っ先に広がる丸子宿(鞠子宿)。東海道五十三次、日本橋から数えて20番目にあたります。静岡中心街からさほど離れていませんが、1871年(明治4年)に安倍川橋が架橋される以前は、川越人足による安倍川越えを行っていたことから、流量の多い安倍川を渡る西側の拠点として栄えていました。
松尾芭蕉の句に「梅若葉丸子の宿のとろろ汁」とあるように、とろろ汁が名物ですが、茶屋そのものも当時の旅の醍醐味だったに違いありません。
おでん・焼そば・お好み焼きの『ばん』
1970年代に創業の『ばん』は、旧東海道に近い丸子の商店が集まるエリアにある一軒。おでんのほかに、お好み焼きや焼そば、ところてん、おしるこ、あんみつ、かき氷などを揃える、昔ながらの茶屋です。
外観
土日は昼から夜まで通しで営業しており、観光等で訪れた際には、お昼酒処としても最適な一軒です。静岡市内はそれほどお昼から営業している居酒屋や角打ちは多くありませんので、同店を含む市内のおでん屋は日中からお酒を飲みたい人にはオアシスです。
静岡駅からJR東海道本線で1駅にある安倍川駅から徒歩でのアクセスか、または比較的本数の多い路線バス[静鉄バス 丸子線ほか]が便利です。
内観
広い店内にゆとりをもって配置されたテーブルたち。中央に独立した屋台風のおでん台があり、その正面は数席のカウンターになっています。小上がりもあり、とても落ち着いた雰囲気。家族経営で女将さんやお姉さんたちが迎えてくれます。
お酒はセルフサービスです。冷蔵庫には大手三社のビールや地酒、缶酎ハイ、瓶入りジュースがよく冷えています。
冷蔵ケースを見渡していると静岡産のビールを発見。お隣、焼津にあるサッポロビール静岡工場(固有記号:Y)でつくられた地元産の黒ラベルです。シュポっと栓抜きで王冠を抜栓し、それでは乾杯。
品書き
焼うどん各種(520円~)、焼そば各種(520円~)、お好み焼き各種(550円~)、お茶漬け各種(500円~)、ところてん(290円)など。
おでんは串の色でそれぞれ値段が決まっており、1本40円からと、大変リーズナブル。静岡でおでんが広まったきっかけのひとつに駄菓子屋で提供していたことがあるそうですが、まさしく駄菓子屋値段。
おでん鍋の品書き
静岡おでんといえば、青魚をアラごとすりつぶすことで黒くなる「黒はんぺん」です。女将さんによれば、牛スジや豚ガツなど、肉類も昔から鍋の味を作る上で必須の具材だそう。昆布やカツオ、濃い口しょうゆだけでなく、牛すじも決めてです。
静岡おでんで穏やかな昼飲み時間
おでん鍋から漂う香りに誘われて
なんと魅力的な黒さ。東京や大阪のおでんとも異なる、牛すじの脂と魚介だしが混ざるある意味、煮込みと言える料理です。
おでんは女将さんにお願いしてお皿にとってもらいます。土曜の午後、なんて贅沢な時間の過ごし方でしょう。
牛すじ、糸こんにゃく、黒はんぺん
甘じょっぱい味の静岡おでんですが、さらに甘味噌を添えるのがおすすめとのこと。女将さんのおすすめ通りにお願いして、さらに出汁粉と青のりを気持ち多めにふりかけて完成。これでビールが進まないはずがありません。
大根、こんにゃく
土日はお昼から通しでやっていることもあり、遠方からわざわざ飲みに来る人も多いと聞きます。
女将さんにお話を伺いながら、おでんを追加。40年継ぎ足してきたおでんは、コクのかたまりのよう。それをたっぷり吸い込んだこんにゃくはやや固く歯ごたえが心地いいです。飴色の大根も秀逸です。
氷結レモン
缶酎ハイもこうしたお店で飲めばまた違った美味しさがあるものです。飲まなくても楽しめますが、お酒があればおでんはもっと美味しくなります。
静岡の中心街からやや離れているとはいえ、訪ねる価値ある一軒です。こういう地域密着の優しいお店、最近は貴重になりました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)