【閉業】富山「丸一」 大人になったら日本海に飲みにいこう

【閉業】富山「丸一」 大人になったら日本海に飲みにいこう

2016年9月13日

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北陸新幹線の開業で東京から富山は2時間で移動できる距離になりました。東海道でいえば京都と同じくらい。本当に近くなりましたね。東海道側と違って、今まであまり足を延ばさなかった北陸・日本海側。ふと、日本海の青鈍色と北陸の酒場に「憧れ」を持っていることに気づきました。

華やかな名古屋、伝統の京都、賑やかな大阪、そんな街の暖簾をくぐるのもいいけれど、いまはしっとり飲みたい気分。まさに「大人になったら、日本海に逢いたくなる。」という気持ちになりました。

なにも遠い街へ行くんじゃない、ちょっとの思いつきで行ける場所じゃないか。そう考えたときは、すでに新幹線のきっぷを握りしめていました。

北陸新幹線はトンネルが多いですが、糸魚川周辺は海際を走るので日本海も眺められます。日本海を眺める車窓は、晴れた日の青はキレイで、冬の曇天の薄墨色の海もまた旅情深い。

 

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富山駅は新幹線の開業に合わせて様変わり。新幹線の改札から段差を昇り降りすることなく、そのままバス停や路面電車の電停にアクセスできます。

北陸新幹線の開業効果で昨年は大賑わいと聞いていましたが、今も駅はななかなかの賑わい。地方都市によくある街の中心となる城址や繁華街がJR駅とやや離れている富山は、富山地鉄市内電車の移動が便利。均一200円を用意して、市内を眺めること10分。

 

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路面電車で富山城や堀をゆったり眺めて到着、大手町。寿司屋で有名な富山の外食産業ですが、飲み屋だって実はすごい。昼間はやっているところは殆どないですが、暮れてくれば美味しそうな香りを漂わす赤ちょうちんがぽつぽつと灯っていきます。

そんな夕方まで待っていられない、お昼から飲みたい。そんなときは間違いなく「丸一」が正解です。午前11時より営業の大衆割烹で、お昼どきは定食もやっていますが、夜の品書きで本格的に飲んでいる常連さん多数。

定食目当てでお昼にきている人も、軽く一杯と富山の地酒「銀盤」を引っ掛けていたりと、大衆酒場好きにはたまらない人々が集います。

 

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縄のれんの向こう側、ガラガラとあけると、地元のご隠居さんや、夜からお仕事のお姉さん、ご近所の奥さんたちが地場の肴をつまみにきゅっとやっている光景が広がります。

 

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店は比較的大きく、厨房を囲むカウンターとちょっとしたテーブル席、二階はお座敷があります。創業は驚くことに70年も前。富山の酒場の重鎮です。

まずはビールから。生はアサヒで瓶はキリンとサッポロ。私がサッポロを頼むと、常連さんが「”恋の街”だね!」とにこやかに反応されました。一人で来たお客さんに、何かをきっかけ空間に馴染ませようとしてくれる常連さんがいるお店はいい酒場です。すかさず「裕次郎さんの歌?」と答えられてよかった(笑)

それでは乾杯。

 

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お通しは地元の野菜の煮びたし。簡単な小鉢なのに、ここからもうほっこりする。北陸は料理が優しいんです。

 

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中央には営業中にも魚屋が補充しにくる冷蔵ケースが鎮座します。立派な魚介類が出番待ち中。

 

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白衣で足元は運動靴という格好の大将、ほんわかした笑顔でも、動きは機敏で次々と魚を捌いています。カウンター中央に大将の仕事台があり、手入れの行き届いた包丁と盛り箸で手際よく料理を用意している姿は、さながらステージを眺めているような気分。

まさに魅せる楽屋裏といえます。

 

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カウンターのおでん鍋は年中メニューです。東京の焼鳥、大阪の串かつ、北陸のおでんといった具合に、酒場の定番中の定番料理です。

 

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お刺身、一品料理などいろいろ書かれていますが、これは値段がどれくらいかなーという参考程度にどうぞ。日に日に変化する仕入れに合わせて美味しいものを聞けば、大将が「今日はこれを刺身にして、これは煮ると美味しい」なんて教えてくれるので、初めての人でも勇気を出して相談するほうがよいです。

 

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海鮮だけでなく、富山の郷土料理もあたりまえに並んでいますので、こちらもぜひ。観光客向けのお店ではないので、隅っこに「こんなもん当たり前」的にありますので、よく探して頼むか、聞いちゃうといいと思います。例えば”あんばやし”(こんにゃく的な郷土料理)と銀盤できゅっと。いい感じでしょう?

 

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「今日は、白えびとばい貝のいいのが入っているよ。」と大将。ばい貝は壺焼きもできますが、お刺身でいただくことに。舟盛りにしてくれて、たっぷりの肝もついて登場。ばい貝の刺身は、間違いなく今まで食べてきたなかで一番。こんな巨大で、水揚げ数時間でケースの中でもまだ生きていたようなものは滅多に食べられません。

東京から寄り道せずにまっすぐやってきた「丸一」の昼酒。もうこれが食べられれば何もいらないくらい、大本命は美味しい。甘くねっとり、旨味がぎゅーっと詰まった白えびは、富山らしい甘いご当地醤油でちゅるるっと。そこにすかさず黒ラベル、いや、これは日本酒にしなくては。

定番日本酒は銀嶺立山の本醸造、1合300円台とさすがご当地だけあって安い。冷酒の銀盤など、富山の地酒とあわせて日本海の幸を摘む。やっぱり酒場っていいな。

 

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富山や氷見では、昔からマカジキを食べる文化があり、「さす」という名で親しまれています。昆布締めにすることが多いですが、刺身や焼き魚、アラは煮て食べるなど隅々まで食べつくします。

とくに「ハモニカ」と呼ばれる縁側(背びれの付け根)の部位は、甘く煮付けることで濃厚で脂の旨味がつまって美味しいと、昔から地元の大衆酒場や家庭のつまみの定番です。

富山に来たらどうしても派手な魚で満足しがちですが、郷土の肴もお試しあれ。

 

 

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魚が本当に新鮮で、大将が包丁をいれると、冷蔵ケースの中ではおとなしかった”めばる”がまな板の上で最後の抵抗をしています。常連さんは、いつもの光景のようにお猪口片手に「元気だね~」と話していますが、東京の酒場ではまず見られない光景です。やっぱり地方を飲み歩くと素敵な店に出会いますね。

お昼から店内はメートル上がりっぱなし。このまま夜に突入するそうですが、夜も常連さんで大いに賑わうお店。富山で飲むならば、まずはここでいかがでしょう。家族経営ならではの暖かさで迎えてくれますよ。

冬は牡蠣や鍋、そしてなによりズワイガニが並びます!

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

丸一
076-421-7014
富山県富山市総曲輪3-2-11
11:00-22:00(月定休)
予算3,000円