大久保『瀧元』市場仕入れの海産物と八重垣に舌鼓。喧騒と無縁の正統派。

大久保『瀧元』市場仕入れの海産物と八重垣に舌鼓。喧騒と無縁の正統派。

2018年4月30日

新宿からJR中央線(各駅停車)でたったひと駅の大久保。それなのに、どこか地方都市の県庁裏のような佇まいがあり、懐かしい町並みは肺腑を貫かれる気がします。見上げれば西新宿の高層ビル群、でも、目の前には昭和の飲み屋街が広がるコントラストが素敵。

大久保で老舗の酒場といえば、1970年(昭和45年)の瀧元です。長年、店の人自ら魚河岸に仕入れに行き、付き合いから、質のよい魚を庶民価格で提供してくれることで知られています。

暖簾にかかれた「ヤエガキ」は、姫路のヤエガキ酒造から。板前さんによると、創業時から「八重垣一筋」なのだそう。

西武新宿駅まで来てしまえば、新宿の歓楽街から徒歩圏にもかかわらず、こういった昭和の正統派酒場が変わらず暖簾を掲げていることは大変嬉しいです。

大衆酒場ではありますが、どちらかというと大衆割烹と言えるしつらえ。ビシッと白衣を来たベテランの板前さんたちが、手際よく料理を用意していきます。

酒は八重垣、酎ハイはハイサワー。そしてビールはサッポロ。昔ながらの樽冷サーバーと赤星マークの大きな中ジョッキが活躍中。私は今日は瓶ビール(大びん580円)。縁を滑らすようにタンブラーを満たし、では乾杯!

「酒を飲ませるお通し」と言われる酒の肴を盛り付けた一皿がやってきます。(500円)

ワカサギフライにはまぐり、そして海老の3種類。小鉢を兼ねているような内容で、主菜をあとひとつ頼めば十分に肴は満たされます。

ずらりと並ぶ黒札。年季の入った白文字は、それだけで食欲をかきたてられます。

料理は凡そ800円前後。1人飲みならば1品・2品でボリューム的にはちょうどいい具合。最近は量を減らして値段も控えめにしたお店が人気ですが、ここはまさに正統派。そこそこの値段でしっかりしたものを食べたいという常連さんたちで賑わいます。

みてください。このマグロ。赤身(900円)は、まさに魚河岸で選ぶ上ものです。盛り付けも美しく、刺身の角がたっています。

コクと脂のしっとりした旨味。口の中でねっとりと広がり、醤油とワサビで余韻はぴしっと締まります。そこへすかさずビールや日本酒を運べば、一日の疲れも吹き飛ぶというもの。

飲ませるお通しに上質の赤身。そしてもうひとつ、瀧元で紹介したい料理が「たら豆腐」(950円)です。当店自慢とも書かれたメニューを見つけたら、きっと頼まずに入られません。

冬の食材である鱈と利尻昆布を毎年北海道まで買い付けに行き、瀧元専用で年間分を仕入れるという拘りよう。魚河岸(取材時では築地)仕入れの魚介類もそうですが、瀧元は 万事徹底しています。

もちろんお豆腐も特注です。干し鱈を使用したたら豆腐は数あれど、ここはホクホクの干していない鱈から毎日仕込んでいます。皮裏のぷりっとした脂も、ほぐれ身の隙間にあるとろっとした旨味も絶品。お豆腐も特注で、絶妙な均等がとれています。

お好みでポン酢もどうぞと出てきますが、そのままで十分に美味しいです。

そこへ合わせるはヤエガキ男酒辛口。常温でもらって、蛇の目を口へ運んできゅっとふくめば、兵庫の酒らしいキリっとした味が広がります。旨味ある鱈の余韻に、日本酒の米の味を重ねます。

大久保で半世紀。ビジネス街の淀橋や、喧騒の歌舞伎町・新大久保からわずかしか離れていないのに、瀧元はしっとりとしたいい酒場です。

たまには、いつもの飲み屋街を離れて、こんな裏路地へ飲みに行くのもよいものです。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名瀧元
住所東京都新宿区百人町1-23-7
営業時間営業時間
[月~金]
11:30~14:00 17:00~22:00(L.O.21:00)
[土]
11:30~14:00
定休日
日曜日、祝日
開業時期1970年