東横線渋谷駅の地下化から10年。行く度に駅の構造が変わる”迷宮”渋谷駅をはじめ、過去最大規模の再開発が進行中の渋谷。老舗酒場も再開発で多数閉店・移転が行われ、酒場好きとしては寂しい出来事も多かったです。
そもそも渋谷は若者の街ということもあって、お酒が飲める業態はショットバーやネオ居酒屋、バルなどがメイン。新宿や池袋のような他のターミナルと比べ、コテコテの昭和酒場は多くはありませんでした。
そんな渋谷にも、再開発エリアの隙間で変わらず営業を続けている創業50年クラスの老舗酒場が数軒、元気に営業されています。今回は、キラキラとしたテック企業とインバウンド向け施設、ハイセンスな東急のまちづくりに包まれた渋谷でわずかに残る、赤ちょうちんの名店をご紹介します。
1,『鳥竹』
今年で創業60周年を迎える渋谷を代表する老舗焼鳥店のひとつ『鳥竹』。店を守るのは、3代目の女将さん。焼鳥だけでなく、創業時から続く「とり鍋」などもあり、幅広く鳥料理が楽しめます。
お昼から夜まで通しで営業しているため、昼飲みに訪れるお客さんが多く、1階にある巨大な炭火の焼台は、営業中ずっとモクモクと煙をあげています。
鳥竹の焼鳥はなんといっても、この巨大さ。鰻も扱っており、蒲焼用のぼっか串いっぱいに刺して焼いており、1本でも一般的な焼鳥串の倍以上。
人気の秘密は、鶏そのものの質の良さです。丸鶏を店で捌いており、その日のうちに大量に仕込んで提供しているため鮮度が抜群に良い!
創業時から60年間、ビールはサッポロビール一筋という店で、赤星や黒ラベルとの相性の良さは間違いありません。
住所 | 東京都渋谷区道玄坂1‐6‐1 |
営業時間 | 営業時間 12:00~23:30 定休日 無休(日曜日営業) |
創業時期 | 1963年 |
2,『立呑 富士屋本店』
渋谷で飲むなら「富士屋本店」という方は多かったのではないでしょうか。渋谷で一番人気の立ち飲み屋といっても過言ではなく、50人以上入る店が毎日満員になり、しかもひっきりなしにお客さんが出入りするという猛烈な賑わいでした。
そんな富士屋本店も建物ごと再開発の波に飲み込まれ、多くの人々に惜しまれつつも閉店。それから数年の沈黙ののち、2022年、ファンの思い、関係者の熱意で復活を果たしました。
以前と違い、地上の店舗で店の構造や雰囲気は全く異なりますが、完全立ち飲みなのは変わりません。
昔からの人気メニューも復活。マヨネーズ味のスパサラで瓶ビールが飲めるなんて、昔にタイムスリップした気分。
富士屋本店発祥で、都内各地の居酒屋にも広まったというハムキャベツ(品書き上の表記はハムキャ別)も変わらないスタイルで復活!
復活するに当たり、今の渋谷のニーズやロケーションにあわせたメニュー改正が行われており、新たな看板料理として大きな焼売が登場しました。店内で包み、カウンターの内側で都度蒸し上げる丁寧な一品。考案されたのは、三軒茶屋や浜町の富士屋本店ワインバル業態に勤務していた腕のいいお兄さんです。
住所 | 東京都渋谷区桜丘町16−10 |
営業時間 | 営業時間:月〜金 17:00〜22:00 (L.O 21:00) :土 16:00〜22:00 (L.O 21:00) :日曜、祝日 15:00〜20:00(L.O 19:00) 定休日 :無休 |
開業年 | 2022年11月24日(以前の店舗は1971年開店) |
3,『鳥市』
過去の再開発で渋谷マークシティの一階に移転していますが、創業は1963年と、こちらも60周年を迎えた老舗の串焼き酒場です。焼鳥とありますが豚もつ串もあります。
店は広く清潔感があります。カウンターは常連さんが多く、テーブル席も通い慣れたお父さんたちが宴会中。
タン、ハツ、シロ、レバーの4本セットと「くまたま」という青ネギたっぷりの卵焼きが鉄板の組み合わせ。樽詰めのキリンラガー生ビールの状態はいつも非常に良いので、乾杯は生ビールがおすすめ!
井の頭線渋谷駅の真下にあるとは思えない、ゆっくり話しながら飲める老舗酒場です。
店名 | 鳥市 |
住所 | 東京都渋谷区道玄坂1-4-19 |
営業時間 | 営業時間 17:00~23:30 定休日 日曜日 |
開業時期 | 1963年 |
4,『山家』
渋谷で24時間365日休まず営業する”黄色い店”といえば『山家』です。真夜中もやっているのに値段はリーズナブル!酒場好きたちのシェルター的な存在です。※本店は8時~23時
1947年(昭和22年)に乾物屋として創業し、高度経済成長期に二毛作的に酒場をはじめたことで、現在の姿へつながっていきます。
安い、早い、品数豊富で、「とりあえず山家にいけばなんとかなる」という安心と信頼の店。
炭火で焼く焼鳥が看板料理。派手さはありませんが、いつでもだれでも受け入れてくれるようなホッとする味。
支店、本店あわせれば100席以上になる巨大な箱。華やかな渋谷のイメージの真逆にある濃厚な昭和感がたまりません。朝9時から18時まではキリンラガー生ビールが300円とオトクなので、日中悩んだらまずはココ!
住所 | 東京都渋谷区道玄坂1-5-9 ザ レンガビル 1F |
営業時間 | 営業時間 24時間 11月28日より当面の間、22時までの短縮営業になります。 日曜営業 定休日 年中無休 |
開業時期 | 1947年 |
5,『鳥清』
百軒店にある、創業から約半世紀になる老舗の焼鳥店。創業当初はいまの「SHIBUYA109」がある恋文横丁にありましたが、のちに現在の場所へ移転。2005年からは先代女将さんの意志を受け継ぎ、当時27歳だった娘さんが店を守り続けています。
(恋文横丁時代の写真)
カウンターに集うお客さんは常連さんがほとんどですが、たまに近くのイベントホール帰りの演者さんも立ち寄られるなど、幅広い層が利用しています。
炭火で焼き上げる焼鳥や栃尾揚げ、さつま揚げなどはどれもホッとする美味しさです。
百軒店の奥深くは土地勘がないとおっかなびっくり歩くような場所かもしれませんが、一歩老舗の酒場に入ればそこは別世界。ぜひ訪ねてほしい一軒です。
住所 | 東京都渋谷区道玄坂2丁目14−18 |
営業時間 | 18:00〜24:00(土日定休) |
開業時期 | 1970年頃 |
6,『多古菊』
創業は1970年。渋谷・道玄坂にある多古菊は、席数80の大箱酒場です。年中無休で、呑兵衛の根拠地的存在として、いつでも滑り込めるような安心感があります。飲食企業の運営かと思いきや、実は家族経営で、現在は2代目が仕切っています。
京王井の頭線の改札から徒歩1分の好立地にというだけでなく、安定した料理の数々も人気の理由の一つです。特に牛すじ煮は必ず注文したくなる逸品です。
渋谷は再開発の影響もあり、老舗の数が減っています。そのような中、多古菊のような存在は街の奥行きをつくる大切な存在です。
3・4人でどこか渋い酒場で語らいたいというシチュエーションは、渋谷でも多いと思います。そんな時には、4人テーブルが多数ある多古菊は安心して利用できる場所としてオススメです。
住所 | 東京都渋谷区道玄坂1丁目6−2 |
営業時間 | 17:00~23:45(無休) |
創業 | 1975年頃 |
7,『千両』
千両は、1968年に創業して以来、半世紀以上にわたって、渋谷中央通りで食肉・モツを使った肉料理が人気の居酒屋として愛されてきました。黒帯さんたちが多く訪れ、渋谷の喧騒にあっても、程よく落ち着いた雰囲気が特徴です。
店内は、3階建てで90人収容できる広々とした空間になっており、一人での利用もOK。幅広い層を受け入れてくれる懐の広い酒場です。
豚足は、イチオシの一品で、380円という安さも魅力的。冷製でプリッとしているが、中は柔らかく、年配の方でも安心して食べられることで人気です。また、ピリ辛のオリジナルソースも美味しく、後を引く味わい。
古い店でも手入れは行き届いており、明るく非常にパブリックな雰囲気。硬派すぎる店は苦手…という方にもオススメできます。
住所 | 東京都渋谷区道玄坂1-6-6 |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 17:00~23:40(L.O.23:00) [土・日・祝] 17:00~23:30(L.O.23:00) 日曜営業 定休日 不定休 |
開業年 | 1968年 |
8,『鳥佐』
昭和40年から続く鳥佐(とりすけ)。若者向けの飲食店に囲まれた一画で50年以上続いてきた老舗です。続いてきた理由は実直な手造り料理の美味しさ。
昔ながらの内装が温もりある空間を作り出す居酒屋です。落ち着きある雰囲気で、大箱の忙しなさはなく、仲のいい相手とのデートや、仲間との打ち合わせを兼ねた飲み会などにもおすすめです。家族経営で温かみのある接客も特徴的。
丁寧に煮込んだ牛すじが名物。
焼き鳥はもちろん、海鮮料理も日替わりで提供され、二次会などで色々な料理を楽しみたい人にもオススメです。とくに〆鯖は絶品!また、老舗のカウンターで飲むのも楽しみの一つです。
住所 | 東京都渋谷区道玄坂2‐29‐13 |
営業時間 | 17:30~24:30(年末年始以外営業) |
開業時期 | 1965年 |
9,『福ちゃん(2号店)』
渋谷の「立ち飲み 魚がし福ちゃん」は、非常に個性的な立ち飲み居酒屋です。驚くほどボリューム満点な魚料理を考えられないほどの低価格で提供しています。
人気店ですから、みんなが楽しめるよう独自ルールがあります。料理の注文は一度限りで、グループでの利用は3名まで、滞在時間は1時間以内となっています。
コンパクトなお店で、多くても十数人しか入れないのに、膨大な魚介類が揃っています。厨房も広くはないので、どこにこれだけのお魚が詰まっているのかと不思議に思うほどです。
豪快な盛り付けで、分厚く、山盛りは当たり前で、魚にハズレはありません。
1度しか注文できませんが、だからといって頼みすぎに注意しましょう。食べきれなくなります。上手に利用し、2,000円台で大満足なひとときを過ごしてみませんか。
住所 | 東京都渋谷区道玄坂1-11-8 |
営業時間 | 16:00~売り切れ次第終了(土日祝定休) |
10,『森本』
1948年に道玄坂でウナギやドジョウを売る屋台として創業し、その10年後にレンガビルで『弁天亭』として営業を開始。再度移転し、現在の場所になってからは屋号を『森本』として営業を続けています。
創業当初からの続くうなぎ料理で、”くりから”状にした「鰻太巻き」が絶品!長年愛されている濃いめの甘タレにつけて重ね焼きしたもので、パリパリとした表面とトロトロの身のコントラストは最高です。
柚の香りがある「つくね」も人気メニューのひとつ。
鶏肉を使った自家製のハムは市販品とは大きく異なり、しっとりとしたふっくらとした食感が特徴です。
予約は受け付けていないお店のため、早い者勝ちでカウンターに通されます。長居するようなお店ではなく、テンポよく焼き上げられた串を熱々のまま味わうことをおすすめします。空席待ちの状態でも待つ価値がある、素晴らしいお店です。
住所 | 東京都渋谷区道玄坂2-7-4 |
営業時間 | 営業時間 16:00~22:00 定休日 日曜日、祝日 |
開業時期 | 1948年 |
気になる居酒屋はみつかりましたか?
ご覧の通り、渋谷には焼鳥を提供する老舗酒場が多く、昔から「焼鳥激戦区」なのです。どの店も鶏肉の種類や焼き方、鮮度などにこだわりがあり、それぞれに魅力が詰まっています。24時間営業している店や、お昼から通しで営業している店などもあるため、一度覚えておくと便利です。
会社帰りや買い物帰りにふらっと立ち寄ってみるのもおすすめです。
今回ご紹介しきれなかった他のお店もありますので、こちらもぜひ訪れてみてください。
- しぶや 三漁洞(1967年創業)
- やまがた(山形料理の老舗)
- おてちきや(前身は渋谷ガード下で1970年に創業)
- 赤頭巾(1969年創業)
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)