渋谷はなぜか焼鳥屋が多い。半径50mのなかに老舗だけでも両手で数えられないほどあり、そのどの店もが常連さんや、ふらっと立ち寄る酒場好きの皆さんで大いに盛り上がっています。
一説によると、童謡「春の小川」のモチーフとなった渋谷川沿いですり鉢状の地形をした渋谷は、昔は川魚を食べさせるお店が多かったそうです。それが、次第に街の近代化が進むとともに渋谷川も暗渠となり、鰻などを看板にしていた店はそれに合わせて、定番商品を川魚から鶏に変えていったのが、いまの焼鳥の街・渋谷の歴史だと言われています。
今回ご紹介する「鳥市」も1963年の創業の老舗です。再開発により渋谷マークシティの一階に移転しました。とはいっても、どこか懐かしい酒場の雰囲気をそのままに、なにより路面のお店なのが、酒場好きには嬉しい。
カウンターとテーブル席で奥に長いつくり。店員さんも酒場的な非マニュアルな対応をされていて、ほっとします。渋谷駅直結にこんなアットホームな焼鳥屋があるというのに、あまり知られていないのが不思議です。
大びんが550円、中ジョッキ500円、酎ハイは380円から。日本酒は徳利320円と大変良心的です。
しかも、みてください。大びんはなんとキリンクラシックラガー。お店が創業したころの味を今に残す昔のキリンらしいガツンと苦い味のビールです。
トトトっとビアタンに注いで、では乾杯。渋谷でクラシックラガーを扱う個人酒場は数軒ほどです。やっぱり暖色系の老舗酒場の空間には同じく温かい色合いのビールが似合います。
焼鳥は二本セットで350円から。鶏肉は毎朝さばいたものを使用しているそうです。さらに一本あたりのサイズが大きいのも特長。老舗になると、先代からの暖簾に恥じることなく守るため、手を抜けないとよく言われますが、こちらもまさにそれだと思います。
ポテサラ380円からはじまる小鉢や揚げもの。これに加えて日替わり刺身もあるので、鳥以外も楽しめます。
大根とじゃこの梅サラダ(490円)。かなりボリュームがあり、しらすもこれでもかと盛られているお得感たっぷりのサラダ。
鳥市はなんとお通しがない。渋谷の酒場でこれはすごい。ですので、最初にサラダなど焼けるまでの摘みを適度に頼んでおくのがポイントになります。
そして、常連さんのイチオシ、ここにきたら「くまたま」(400円)は必須です。特別ネギ好きというわけでもありませんが、青ネギがたっぷりとはいった卵焼きはクセになる味。美味しい焼鳥とくまたま食べたさで通いたくなるほどのキラーアイテムです。家で真似したくても案外できないのです。
絶品のつくね(2本で370円)。さらっとした甘めのタレを重ねて焼き上げていく一品。酒場めぐりをしていると、全国で様々なつくねに出会いますが、渋谷鳥市のつくねは、記憶に残る一本です。ほくほくとした食感、鳥つくねならではの優しい旨味が楽しめます。
美味しいつくねを摘みに、どんどん気分が良くなってきました!これは生ビールをいっちゃおう。大ジョッキ800円。中ジョッキも大ジョッキも一昔前の酒場のそのサイズ。しかもジョッキの状態が抜群によく、泡もとってもクリーミー。さらに一番搾りではなく、あえてラガー(RL)の大樽というのがたまらなくイイ。
ビールと泡層の間にある無数の細かな粒が、まるでCMでみるビールのレベル。
つくねと同じく、一般的な串よりもひとまわり長いぼっか串が使われています。そこにぎゅーっと強く串打ちされた焼鳥・焼きとんがみっちり刺さっています。さらさらのタレは見た目以上にしっかり味で、ビールや酎ハイが進むこと間違いない。
プレーンの酎ハイ(ベースの甲類は三楽かな)も、炭酸がしっかりしていて度数もそこそこあり、いい感じ。
常に賑わっているお店ですが、店のつくりがゆったりしていてカウンターからグループ利用ができるテーブル席まで、様々な用途に対応できるお店です。大衆酒場オーラが全開の昭和酒場には連れていけない同僚にも、ここへなら連れていける、そんな酒場です。
店はきれいになっても、中身は50年酒場ならではの魅力がいっぱい。
若者の街渋谷、ではなく、焼鳥の街渋谷をぜひお楽しみください。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビール株式会社)
店名 | 鳥市 |
住所 | 東京都渋谷区道玄坂1-4-19 |
営業時間 | 営業時間 17:00~23:30 定休日 日曜日 |
開業時期 | 1963年 |