神泉駅すぐ、渋谷駅からも徒歩圏にある『まん福亭』は、この界隈では貴重な個人系の大将酒場です。赤い提灯に誘われて半地下へ潜れば、常連さんが肩を寄せ合うカウンターと、そこに積まれた大皿料理がみえてきます。品書きなし、飲んで食べて二・三千円です。
細い商店街に根付く40年酒場
渋谷の百軒店を越えて坂を下ると、井の頭線1駅目の神泉駅の踏切が見えてきます。ここまで来ると坩堝のような町並みが終わり、昭和ムードが色濃く残る商店街と古い住宅街に変わってきます。渋谷から井の頭線に乗れば1分で着いてしまいますが、歓楽街のネオンに照らされながら、渋谷駅から15歩くほうが物語が感じられていいと思います。地域密着の酒場を目指すならば尚更です。
外観
神泉の踏切を越えてすぐ。ずいぶん年季の入った雰囲気の酒場がみえてきます。奥渋谷ともてはやされ流行りのテイストを取り入れた店が増えてこの界隈にあって、どっしり構えた『まん福亭』は、むしろ目立っています。
入り口に並ぶ坂瓶を倒さないよう、慎重に半地下へ降りると、ドアを開ける前から大将が「どうぞー!」と声をかけてきます。
内観
木造アパートの中にある小さな酒場で、大将ひとりが動ける小さな厨房に、L字型のカウンー、低い天井の下に並ぶ数卓のテーブル席という配置。そこに、ずらりと近隣の商店主などの常連さんが並んでいます。
並んでいるのは常連さんだけではありません。カウンターには大将手作りの大皿料理が出番待ち。『まん福亭』には品書きがなく、これらの惣菜を指名するか、冷蔵ケースに入る刺身を切ってもらうのが基本の注文方法です。
値段の明記がなく、また、百軒店近くということもあり、いくら財布からなくなるか不安になる人もいると思います。ですが、ご安心を。数回訪ねて常識的な飲酒をしていますが、毎回3,000円前後です。むしろ、渋谷としては安いほう。大将のサービスが炸裂しています。
品揃えの例
ビールは樽生がなく、瓶ビールのサッポロラガー(赤星)大瓶が冷えています。多くの方が一杯目は赤星スタートです。
日本酒は、沢の鶴。飛露喜などの地酒もあります。甲類焼酎は宝。レモン炭酸や烏龍、ホッピーで割って飲みます。
常連さんに倣えば間違いない
サッポロラガービール大瓶
活気があり、大将は常に大忙し。待ってね、待ってね!と言いながら、次々と刺身を切ったり伝票を書いたりしています。お手間をかけずに、すぐ飲めるのはやっぱり瓶ビールですね。トクトクとビヤタンを満たして、では乾杯!
はいどうぞ!と出してくれたのは、マヨネーズがたっぷりかかったカリフラワーと冷やしトマト。お通しです。
卯の花
名物は刺身の盛り合わせで、中落ちや鰺、イカ、たこなどを寿司下駄から溢れんばかりの盛り付けでだしてくれます。ただ、はしご酒をするようなタイプが一人でくると、それだけで満腹になってしまうこと間違いなし。店名の通り満腹になればよいのですが、渋谷の夜はまだ長い…。ということで、今日は大皿から卯の花をもらいました。出汁が効いており、いい味です。
派手じゃなくていい、むしろこういう肴で静かに飲むのも『まん福亭』の良さだと思います。
鱈の沢の鶴粕漬け焼き
大皿に盛られた料理や冷蔵ケースに入っている食材以外にもいろいろと用意されています。気になったら、常連さんに倣って同じものを注文するのが正解だと思います。大将が目の前のカウンター席ならば特にそうです。
タッパーいっぱいに入った沢の鶴の酒粕に、タラの切り身がたくさん潜っています。仲良く話してくださっていた常連さんが注文するそうなので、私も一緒にお願いしました。自家製の酒粕漬け焼き、実にいい香りです。中はふっくら、お酒を誘います。
沢の鶴お燗
定番酒の沢の鶴は、BIBに入っているので色気はありませんが、むしろこういう酒場ならば嘘がなくていいと思います。燗をつけてもらって、粕漬け焼きとあわせます。ほら、間違いのないペアリング。
ごちそうさま
世界中から人が集まる渋谷は、平成中期頃まではまだあった人々の息遣いが感じられる町並みも、いまやキラキラの高層ビル群に。そんな渋谷にも、まだこうした酒場が残っていることはとても嬉しいことです。
近隣に暮らす皆さんが集う、地元密着の店、お好きでしたら立ち寄られてみてはいかがでしょう。テーブルをグループで使うと仲間内の雰囲気に染まってしまいますから、カウンターでの一人飲みがおすすめです。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | まん福亭 |
住所 | 東京都渋谷区円山町16-8 喜寿荘 1F |
営業時間 | 営業時間 17:00~21:00 定休日 土曜日、日曜日、祝日 |
創業 | 1985年 |