大衆酒場の魅力は一言では語れません。その場所、仕切る人、集う人、そして年輪を重ねてできる空気感。それは、無限に続くものではありません。昨今、老舗の名店と呼ばれていた酒場が様々な事情でご閉業されています。そんな中で、なんとかして店の名を残そうと奮闘する新しい世代の方もいます。
渋谷の富士屋本店は立ち飲みの名店として、昔から通う大先輩から近所で働くIT関係の若い方まで老若男女に愛されてきた酒場です。残念ながら、2018年秋、惜しまれつつも閉店。渋谷の大改造に飲み込まれました。
そんな富士屋本店の名前を残そうと、2000年代に入りバル・ビストロ・洋食業態の挑戦が続いていました。富士屋本店の入るビルの一階に誕生した富士屋本店ワインバー、釣り堀の建物を居抜きで使っていた三軒茶屋(現在は新店舗で営業中)、日本橋浜町への出店などを続けています。
そうして迎えた渋谷の再開発の年。富士屋本店の新しい形として生まれたのが、集大成とも言える新・富士屋本店です。
オープンは2018年12月10日(月)。これまでの店舗があった桜丘町と同じで、再開発エリアに含まれない場所にできました。もともとあったビルは廃止され、わくわくしながら通った道路も廃道となりました。
洋食富士屋、立ち飲み富士屋、グリルバーなどの要素を取り入れ、落ち着いて飲めるテーブル席から、ハイチェアのカウンター席、そして立ち飲みと様々な使い方が用意されています。加えて、ウェイティングバー的に使えるバーカウンターも誕生しました。
かつての富士屋本店のメンバーの姿は、いまは客席側に。名物女将のヨシエさんも来ています。世代交代、次の富士屋本店は若いメンバーが中心です。再開発にあわせ閉店したワインバーのスタッフも加わり、オペレーションは初日からスムーズでした。提供が早いのは富士屋本店の変わらぬ魅力の一つ。
この立ち飲みテーブルでピンと来た方は、きっとワインバーの常連さん。内装をよく見れば、受け継がれたものがあります。
宝の瓶…はありませんが、ビールは同じくサッポロ黒ラベルです。ビール450円、デュアーズハイボールは400円とワインバー時代のお手頃価格が受け継がれています。
ワインは400円から。ワイン好きが日常でちょい飲みするには十分な内容ではないでしょうか。
分厚いワインカタログから選ぶボトルワインも継承されています。シャンパンからリーズナフルなニューワールドまで豊富です。提案する酒類メーカーも、選定する富士屋本店も、ともにソムリエが担当されています。あまり知られていませんが、実は富士屋本店さんは酒販店でもありますので、ワインがリーズナブルです。
ハムキャ別(ベツ)…はありませんが、ポテトサラダ(富士屋のポテサラ500円)はあります。料理人がしっかりつくる本格的な欧風料理。グリル・ワインの店舗でお馴染みの料理が並びます。
ピザ窯があるのが特長で、店長の佐々木さんはピザ職人です。トマトソースベースとチーズベースで並び、種類も多い。
丁寧に注がれた極上の生ビール。”パーフェクト黒ラベル”の注ぎ方ではありませんが、泡のきめ細かさ、ガス圧、温度などすべて完璧です。
ゆらぐフロスティミストが美しい。脚付きグラスで飲む黒ラベルも素敵でしょ。
それでは乾杯!
フォアグラのシュークリームは、新しく加わったメニューです。
どうみてもスイーツですが、中にはフォアグラムースが隅々までつまっています。
ポテトサラダはニース風とのこと。なんとトリュフがトッピングされています。
熊本県産牛ロースのしゃぶしゃぶ(550円)。洋食が並ぶ品書きにあった違和感は、見てみれば納得。鍋はでてこないの?(笑)
一人で食べれば、しっかり食べごたえ。シェアしても楽しめます。アレンジを効かせた洒落た一品です。
牛レバカツ(750円)は、サクサク衣とジューシーなお肉。味付けは洋風だけど居酒屋の気配が残る料理です。白ワインは何を合わせましょうか。
フィッシュアンドチップス(880円)はデーンと鱈のフライがくるかと思いきや、カリカリの鱗を楽しめる仕上がりできました。
そんな料理にあわせるワインは、ネダバーグ・シャルドネ(Nederburg Chardonnay)を。樽熟のワインで、しっかりとしたボディある味わい。レバカツなどの肉料理とも相性抜群です。
生牡蠣はとても立派。レモンをしぼってちゅるっと一口。口いっぱいに頬張るようにいただきます。別でウイスキーをもらって、ちょっと垂らすのもオツなものです。
店長兼ピザ職人も務める佐々木稔(みのる)さん。楽しい方で、お店の雰囲気もとっても明るいです。ピザを焼いてもらいましょう!
セイフォルマッジは、これぞチーズグルメの王道。セイとは6の意味で、6種類のチーズをつかっています。
トマトソースベースのアルモーニア(1,100円)。長芋のトッピングが意外ですが実によくあいます。
あわせるワインはベリンジャーのナイツ・ヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨン。
かつてのワインバーや地階の立ち飲みのお客さんも集まり賑わう店内。しっかり食べて飲む人も、ちょいと一寸一杯という方もいらっしゃいます。新しくなった富士屋本店、ご興味ございましたら飲みに行かれてみては。
そして、富士屋本店はここのオープンだけでは止まりません。これからも新店を計画されているとのことで、渋谷に昔ながらの大衆立ち飲み富士屋が復活する可能性も!
変化する街、変化する飲み屋さんを楽しみませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/サッポロビール株式会社)
富士屋本店
03-3461-1195
渋谷区桜丘町24-4 第5富士商事ビル1F
17:00~23:00(日祝第4土定休)
予算2,000円~4,000円