久留米・城島『かねひろ』創業から半世紀。漁師が営む、旬のエツ料理と地酒の名店

久留米・城島『かねひろ』創業から半世紀。漁師が営む、旬のエツ料理と地酒の名店

福岡の中心地・天神から西鉄電車に揺られて約1時間。筑後平野の豊かな田園風景を抜け、西鉄大善寺駅からバスで20分ほどの場所に、今回の目的地はあります。筑後川の畔に佇む、川魚料理の老舗「かねひろ」。ここでは、5月から7月半ばというごく短い期間しか味わえない幻の魚「エツ」を、最高の状態でいただくことができます。

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県外ではまだ知名度が低い酒と川魚の「城島」の魅力

お店を紹介する前に、まずはこの城島(じょうじま)という土地について触れないわけにはいきません。

城島町は、兵庫の灘、京都の伏見、広島の西条と並び称される日本有数の酒どころ。筑後川がもたらす豊かな水、酒造りに適した筑後米、そして卓越した技を持つ三潴杜氏(みづまとうじ)たちの存在が、この地で古くから酒造りを盛んにしてきました。

現在も9つの酒蔵がこの地に根付き、個性豊かな日本酒を醸し続けています。歴史と水が良い土地に、美味しい店があるのは必然と言えるでしょう。

そんな酒の街で、昭和42年(1967年)に創業したのが「かねひろ」です。驚くことに、創業当時はエツ料理を専門とする遊覧船として営業していたそうです。

「かねひろ」の最大のこだわりは、国産、そして地元の食材を使うこと。とくに店の看板であるエツへの情熱は並々ならぬものがあります。エツはカタクチイワシ科の魚で、日本では有明海の湾奥部にのみ生息し、産卵のために筑後川を遡上する大変珍しい魚です。

気になる味についてですが、筑後川のエツは、カイアシというプランクトンだけを食べて育つため、格別に味が良いと言われています。

しかし、エツは非常に繊細な魚。〆るとわずか30分で硬直し、味が落ちてしまいます。その最も美味しい食べ方とされる「洗い」で提供するには、食べる直前まで生かし、熟練の技で素早く骨を抜かなければなりません。その鮮度を守るため、店主自らがエツ漁師として、毎朝3時に起きて筑後川で投網漁を行っています。水揚げまでの1時間を日に数回繰り返すという大変な労力。そこまでして届けられるエツは、まさに城島が誇るべき郷土の味といえます。

獲れたてのエツと地酒で、筑後川の恵みを味わい尽くす

さて、前置きが長くなりました。早速、その味を確かめてみましょう。長旅で乾いた喉を潤すのは、やはりビール。キリンラガーの心地よい苦味が体に染み渡ります。

エツの甘露煮

まずお願いしたのは、「エツの甘露煮」(680円)。

じっくりと煮込まれたエツは、骨までホロホロと柔らかく、凝縮された脂の旨味が口の中に広がります。ほろ苦くも甘いタレが、キリンラガーの風味と抜群の相性を見せてくれます。これだけでビールが一本空いてしまいそうです。

エツの洗い

そして、いよいよ真打ち「エツの洗い」(990円)の登場です。美しく透き通ったその身は、見るからに新鮮そのもの。これまでコイの洗いやアユの背越しなど、様々な川魚の刺身を好んで食べてきましたが、このエツの洗いは別格の美味しさでした。

川魚特有の泥臭さやクセは皆無で、とにかく上品な脂の旨味と甘みが際立ちます。後味は驚くほどすっきりとしており、むしろフルーティーささえ感じるほど。筑後川の清流の美味しさが、この一皿にぎゅっと詰まっているようです。

こうなれば、もう日本酒を頼まずにはいられません。いただくのは、地元の比翼鶴酒造が醸す「比翼鶴」。2合で800円という価格も、さすが生産地ならではの嬉しさです。おそらく本醸造かと思いますが、非常にクリアな飲み口でありながら、決して水っぽくはないしっかりとした米の旨味を感じます。まるでエツと合わせるために造られたかのような、完璧なペアリングです。

鰻の塩焼き

エツと酒、両者のあまりの美味しさに、すっかりいい気分。俄然、食欲と酒欲が湧いてきました。

こうなれば、この店のもう一つの自慢である鰻もいただかないわけにはいきません。かねひろでは、鰻も自家で育てているというこだわりよう。「鰻の塩焼き」(一人前2,550円)をお願いしました。

西日本らしい地焼きで供された鰻は、皮はパリッと香ばしく、身はきゅっと引き締まっています。いわゆる「白焼き」ですが、これは「塩焼き」という呼び名がしっくりくる、まさに素材の力強さで勝負する一品。噛みしめるほどに、上質な脂と鰻本来の旨味が溢れ出してきます。言うまでもなく絶品です。

エツのフライ

もう少しつまみたいと、メニュー札に書かれた「エツのフライ」も注文しました。甘露煮や洗いでは感じられなかった、身のふっくらとした食感が新鮮です。味わいはどことなくモロコのフライに似ていますが、淡白ながらも旨味が濃いエツの身は、揚げ物にしてもその個性を失いません。衣はサクサク、身はチリチリと心地よい歯ごたえ。これはソースなどをかけず、そのままの味で楽しむのが正解でしょう。

このフライに合わせるのは、清力酒造の「清力」。この酒蔵は、なんと「かねひろ」からわずか300mほどの距離にあります。同じ水系の水で育った魚と酒が合わないはずがありません。キレの良い辛口の酒が、フライの油をすっきりと流してくれます。

お昼から大満喫。飛行機、電車、バスを乗り継いできた甲斐あり

福岡グルメといえば、ラーメンやもつ鍋、水炊きなどが有名ですが、少し足を延せば、これほどまでに深く、豊かな食の世界が広がっています。エツ漁が行われるのは5月から7月半ばまでと短いですが、その時期を逃しても、店主が丹精込めて育てた絶品の鰻が待っています。

天神から1時間かけて訪れる価値は十二分にあります。窓の外に広がる筑後川の穏やかな流れを眺めながら、この土地の歴史と人の営みが育んだ食と酒に浸る。そんな贅沢な休日を過ごしに、久留米市城島を訪れてみてはいかがでしょうか。

通し営業なのも嬉しいです!

店舗詳細

品書き

お酒・ビールの品書き
鰻の品書き
エツ料理
店名かねひろ
住所福岡県久留米市城島町西青木602
営業時間11:00 – 20:00
定休日 火曜日
創業1967年