小倉「酒房 武蔵」 揚げ物と一人鍋が美味しい店。町を代表する大衆酒場。

小倉「酒房 武蔵」 揚げ物と一人鍋が美味しい店。町を代表する大衆酒場。

2020年2月14日

北九州市・小倉。工業都市として日本の産業を支えた小倉は、労働者が多かったことから酒の消費地としても存在感があり、あの「角打ち」という呼び名も、この地域の言葉が由来です。

小倉駅前は商業、飲食、歓楽が集まる九州でも有数の繁華街で、地方衰退・ロードサイド型経済への変化の中にあっても、いまも商店街は多くの人々が行き交い、なかなかの賑わいがあります。その小倉繁華街の軸が”魚町銀天街”であり、この商店街に面した「酒房 武蔵」が小倉を代表する大衆酒場の一軒です。

創業は1953年(昭和28年)。戦後復興、高度経済成長を牽引した八幡製鉄所が三交代制でフルパワーで稼働していた頃、武蔵は日中から勤務上がりの労働者で溢れていたそうです。往時の面影は2階の入れ込み座敷から感じることができます。

一階は非常に大きなL字のカウンターを配置した構造で、ここの角で飲むのが大変に心地よいものです。営業時間は現在では16:30~となっていますが、それでも17時前からお父さんたちでカウンターがにぎやかになる様子に、小倉の風土を身近に感じます。

ビールはキンキンに冷やしたアサヒスーパードライ。飾りのない、見た目通りにたっぷり入る正統派ジョッキを使っているのが、いかにも老舗らしくていいものです。中ジョッキで300円、樽生が驚くほど安い。それでは乾杯!

ここの生ビールは樽ごと冷やして保管し、樽の温度そのままでジョッキの注ぐ方式の”樽冷式”です。スーパードライの樽冷はマイルドな味に感じます。

瓶ビールはアサヒスーパードライに加え、キリンクラシックラガーも用意(中ビン450円)。常連さんは焼酎がメインかと思いきや、何度か訪ねても毎回、日本酒率のほうが高いように思えます。定番の上撰酒は、一代、千福、月桂冠と3種類(300円)。本醸造、純米、純米吟醸から大吟醸と、特定名称酒が様々選べるのも特長で、これまたリーズナブル。特別純米の田酒も1杯700円です。

お酒が安いし、料理も安い。300円~400円の小鉢が充実しています。常連さんに人気の「鰯のじんだ煮」(400円)は小倉の郷土料理で、米糠に塩を加えて発酵させたじんだ(糠味噌)で鰯を煮たもの。クタクタ、トロトロになっていて、濃い味から日本酒を誘う一品です。

ふぐ刺し(900円)が定番メニュー入りしているのが、いかにも下関の対岸、小倉の酒場でしょう。一人客にも鍋を食べてほしいと、武蔵は長年一人前鍋をだしていて、これもお店のこだわり。スタミナメニューの揚げ物は創業時から大人気だそうで、とくに串では持ち上げられないほど大きな串カツ(250円)が評判です。

上品さと、大衆感が混ざった武蔵。最近、こういうお店が少なくなりましたよね。武蔵は、昔なつかしい料理にこだわる酒場の姿を残しています。

鍋ものを頼んだので、すぐでるトマトで時間調整。

おまたせしました、ふぐちり(800円)です。一人で小倉に来て、ふぐちりが食べられる。これって、素晴らしい!

ふぐ料理の有名店などは一人利用向きではないことが多いですし、予算的にちょっぴり厳しい。でも、武蔵ならば二千円の予算でお酒を飲んでふぐちりや刺身なども味わえる。しかもカウンター席で地元の人と並んで過ごす土地に浸る楽しさもあります。

結構しっかりふぐが入っていて、食べごたえは十分。お店こだわりの近所の木綿豆腐に、水菜、白菜、出汁は利尻の昆布でとっています。大分の黄色いかぼすをきゅっと搾って、香り華やかに。

お酒は酒燗器につけた、ぬる燗で。北九州市八幡の造り酒屋・溝上酒造がつくる地元のお酒「天心」を選びました。一口目の印象はきりっとした辛口かと思いきや、飲むごとに淡麗ではなく旨味のじんわり広がる味わいだと気が付きます。旨口の飲み飽きない味で、気がつけばもう一杯おかわりしていました。

てづくりの料理揃いが嬉しいもので、かぼちゃコロッケ(200円)はもちろんお店仕込んだもの。フライヤーからあがって数秒で手元に運ばれてくるので、まだ衣はチリチリと音を立てています。

お姉さんたちの慣れた接客が心地よく、混んでいてもストレスなく、ささっとオーダーが入ります。テンポよく、頼む、届く、しばらくしてまた頼む…のラリーが続きます。

地元のお父さんたちが、日々のお小遣いで飲むお店。皆さん楽しそうに過ごされているのが非常に印象的でした。こういう酒場がずっと続きますように。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

酒房 武蔵
093-531-0634
福岡県北九州市小倉北区魚町1-2-20
16:30~22:00(日祝定休)
予算2,300円