JR博多駅から西鉄天神駅までの間は、びっしりとネオンが灯る繁華街ですが、実は区画ごとに街の顔は大きく異なります。
大人が静かにお酒を味わう街ならば、やはり西中洲でしょう。天神の雑多さや、中洲の怪しい賑わいとも違う、食通好みの名店が立ち並びます。
今回ご紹介する酒場は、西中洲の名店「安兵衛」です。1961年(昭和36年)に箱崎で創業し、1965年に西中洲へ移転した、半世紀をこえる老舗です。
JR博多駅前から天神までは、路線バスが数珠つなぎで走り、しかもワンコイン100円で利用できるので便利です。車窓の変化も楽しく、黄昏時に眺める那珂川・博多川は幻想的です。
歓楽街の中洲とは手のひらを返したように、落ち着いた石畳と、知る人ぞ知るような寿司店や料理屋が行燈を灯す西中洲。この中におでん安兵衛はあります。
木造の建物で、入ると広い一枚板のテーブルがあり、そのままテーブルの延長がカウンターとなり、おでん鍋に向いた席が並びます。昭和の建物というよりは、さらにそれ以前からあるような、立派な木材を多用した造りです。ふんわり香る昆布と鰹の合わせだしの香りが、食欲をそそります。
ビール(550円)は九州最初のビール工場、サクラビールの系譜であるサッポロビール九州日田工場製のサッポロ黒ラベル。クラシカルなディスペンサーから注がれる生は、状態も抜群です。
サッポロの北極星がまだ赤かった時代のジョッキ(500型)も現役です。では乾杯!
お通しは2つ(お通し400円)やってきます。うるめと、味噌大根。どちらも箸休めとして、酒の肴として文句なしのもの。
看板料理はおでんで、季節に関係なく提供されています。夏場でも満席になるほど賑わうといえば、このおでんがどれだけ慕われているかがおわかりいただけるでしょうか。濃い口しょうゆと酒で味を整え、豚や牛は使わない関東風です。
品書きは季節の具材が黒板に。定番はつみれやがんも(400円)、そして殻ごと4日も煮込み続ける玉子も名物です。
二代目、小笠原亮介さんご夫婦と息子さんが店に立つ、アットホームな雰囲気も素敵です。
これが噂の真っ黒に煮込また殻付き玉子。ほかのおでん種と一緒に剥かれて供されます。
好みがあれば鍋を覗いて選ぶもよし、でも最初はおまかせで間違いありません。食べやすく人数分に包丁を入れてくれるので食べやすい。大根をはじめ、どれもだいぶ染みていますが、実はこれが丁度いい塩梅。濁りのない醤油色につゆは、濃厚なだしの旨味で、これだけで日本酒・焼酎が進みそうです。
この出汁を染み込ませて食べるわかめも絶品なのでぜひお試しください。きっと焼酎が止まらないですよ。
おでんと並び、常連さんから支持されるおしんこ。かぼちゃやパプリカ、大根など種類はその時々で異なります。女将さんお手製、絶妙な浸かり具合は、酒好きなら笑顔で頷いてしまうはずです。
「のりに巻いて食べると美味しいのよ」と、教えてくれました。しみじみ心に響く味に、思わずお酒が進んでしまいます。
良き酒場に善き人あり。お客さん同士の距離も近く温かく、滋味掬すべき酒場です。
美味しいおでんと心地よい時間を求めて、福岡・西中洲を訪れてみませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/サッポロビール株式会社・九州旅客鉄道株式会社)
安兵衛
092-741-9295
福岡県福岡市中央区西中洲2-17
18:00~23:00(日定休)
予算2,200円