外飲みのシーンは様々です。
大切な人との静かな乾杯。仲間と語らい杯を交わす。特別なお店でひとり静かに過ごすカウンター。そこにお酒があるから、暮らしに潤いが生まれます。
そして、もうひとつ必要なシーン。それは定番の酒場という存在です。特別な日でもなく、メリハリをつけたいわけでもない。ただ、なんとなく、普段から飲みに行く店。派手じゃない、特別じゃない。だからこそ幸せが沁みてきます。
変化が激しい都心は刺激に満ちています。ですが、今日は癒やしを求めてこの街の外へ。高層ビル群に囲まれた東京駅丸の内口を発着する都営バスには、文京区を縦断し荒川土手へ至る路線があります。
神保町、本郷、本駒込と走り抜け、動坂下で降りてみれば、そこはちょっと昔と変わらない景色が広がります。
坂の街・文京区の中でも知名度が高い「動坂」。不動明王像が坂の下に安置され「不動坂」と呼ばれていたものが、いつしか動坂になったそう。この不動明王像は、目赤不動として江戸時代に信仰されたもので、街の歴史を感じます。
そんな動坂で1968年(昭和43年)創業、動坂ときわ食堂は半世紀にわたり「定番」であり続けてきました。
東京の食堂飲みを代表する「ときわ食堂」。浅草を中心に、東京周辺に点在する暖簾分けの食堂です。
独特なタイル張りのつくりで、テーブル席がずらりと並びます。二階にも客席があり、実は座敷まである大箱。ただ、食堂の雰囲気を味わうならば断然1階でしょう。
品書きの短冊、タイル張りの壁、食事処には不釣り合いにも思える蛍光灯。でも、なぜかとっても居心地がいいのが不思議です。
ざっと70ほどある料理。味噌汁や小鉢は200円前後、食堂飲みの定番ともいえるハムカツは350円、お刺身からエビフライ、極めつけは鰻まで、バリエーション豊かです。
ビールは樽生(480円)、瓶(大びん580円)ともにアサヒスーパードライ。ときわ食堂といえば、この蛍光灯に照らされたドライのびんをイメージする食堂飲みファンも多いはずです。
すぐ出るおつまみ、モソモソ感に手作りのありがたさを感じるポテトサラダをおつまみに、乾杯!
みんな大好きポテトサラダ。下町ではソースをかけることが割りと一般的です。このほうが味がしまって一層ビールやお酒と相性を良くするように思います。
刺身、焼き魚、炒めものと目移りするものの、今宵は「古き良き定番」として「煮奴」(400円)を選びました。すき焼き風の割り下にお豆腐、たっぷりの玉ねぎ、ニラ、そして玉子を載せた大衆食堂でお馴染みの一品。
玉子を溶かせば、より食欲をくすぐるビジュアルへ。香り立つ出汁とみりんの香りはなんとも優しく癒やされます。
ビールからハイサワーへ。1980年代に広まった割材でつくるレモンサワーのパイオニア的な存在です。レモン果汁を使用し、みずみずしい美味しさ。そして、濃いめの焼酎のクセをふまく包み隠してくれるので、これがスイスイと飲めてしまいます。
数の子わさび漬けをちびりちびりと摘みながら、しばし独りの時間。
子供連れ、お稽古帰りのおばあちゃんグループ、1人で来て知った顔をみつけて飲みあうお父さんたち。仕事帰りのスーツ姿のお兄さんも、穏やかに瓶ビールを傾け焼き魚をつまんでいます。
定番っていいな。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
動坂ときわ食堂
03-3821-7420
東京都文京区本駒込4-37-5
8:30~14:00・17:30~21:30(水定休)
予算1,500円