明治以降、三菱鉛筆、東京電気(現:東芝)、鐘淵紡績(現:カネボウ)、三共(現:第一三共)、鉄道院(現:JR東日本)などの工場が建設され、大井町は東京の近代化を支えた街でした。工場群は再開発され、現在はJRの車両センターや第一三共の研究所など一部が残るのみとなりましたが、それでも大井町は独自の工業都市の雰囲気を残しています。
工場が集まる街には、働いた人たちが飲みに行く酒場が必然的に存在しました。大井町も他の工業都市と同様に、多くの酒場が密集していました。近年は東急大井町駅のリニューアルや駅周辺の再開発により、飲み屋街の雰囲気は変わりましたが、まだまだ飲み歩きが楽しいスポットであることには変わりありません。
今回はそんな大井町で明るい時間からお酒・ビールが楽しめる「昼飲みスポット」を6軒ご紹介します。新進気鋭のせんべろ(低価格居酒屋)店から1世紀続く老舗の蕎麦店まで、個性豊かな顔ぶれです。
1,『こいさご』
2022年7月の開業以来、一気に人気店への階段を駆け上った店、『大衆酒場こいさご』。自動車ディーラーの営業マンだった店主さんが2020年のパンデミックをきっかけに一念発起し、脱サラではじめたお店です。
もともと大変なお酒好きで、会社員時代から各地の酒場を飲み歩いていたという店主さん。コの字カウンターや煮込み鍋、一人飲みに嬉しい小皿サイズの刺身など、各地の酒場を参考にして作り上げたそうです。
開店は14時と早く、夜23時まで営業。テーブル席はなくカウンターだけの構造は、むしろ一人・二人で飲みたい酒場好きには嬉しい造りと言えるでしょう。
酎ハイやハイボールが300円ほどと今の時代ではびっくりするほど安いです。地酒の提供も熱心で、全国の美味しいお酒を気軽に楽しみ、美味しさを知ってほしいと話します。
店名の『こいさご』は、店主さんのお父さんの出身地、栃木県小砂村(現那珂川町)から。
「酒販店や食肉卸など業者さんの熱心な協力や、開業から1年経過するなかで加わったメンバー皆さんのバックボーンや調理技術に支えられている」と店主さん。理想の酒場づくりはまだまだ続きます。
住所 | 東京都品川区東大井6-1-7 1F |
営業時間 | 営業時間 14:00~23:00(L.O.22:30) 日祝14:00〜21:30 日曜営業 定休日 土曜日、水曜日 |
開業年 | 2022年7月7日 |
2,『野焼』
今回ご紹介する昼飲み場所としては、最も正統派の大衆酒場です。創業は1976年と半世紀近い歴史を持ちながら、いまでも15時から店を開けてくれています。
飴色に染まった店内は、これぞまさに「昭和の酒場」。厨房を囲むL字カウンターで一人飲むも良し、テーブル席を利用し数人で語り合うも良し。
焼鳥と刺身が定番メニューですが、エビしんじょうや天ぷらなどの揚げ物も丁寧で、どちらかといえば大衆割烹に近い雰囲気です。名物は鮪の尾の身のステーキ。
長年通っているワイシャツ姿のお父さんで賑わう店でしたが、最近は若い方の姿も多く、しっかりと世代交代している印象です。お洒落な都心型住宅街にも、こういう店は必要なのだと改めて感じます。
住所 | 東京都品川区大井1-8-4 |
営業時間 | 営業時間 15:00~23:30(L.O.22:30) 日曜営業 定休日 月曜日 |
開業時期 | 1976年 |
3,『立呑み晩杯屋 大井町店』
品川区武蔵小山で創業し、大井町、大山と店舗を拡大し、現在は大阪にも出店している人気立ち飲みチェーン『晩杯屋』。立ち飲み・低価格居酒屋好きにはお馴染みのチェーンです。
創業の地、武蔵小山駅前が再開発され本店が移転・建て替えが行われたことから、現存する晩杯屋最古の店舗は、この大井町店となりました。
まだまだ個人店の延長だった2010年代前半の晩杯屋の雰囲気を色濃く残す店内。もともとレトロな物件だけあって、チェーン店ながら老舗酒場に見紛うようないぶし銀の雰囲気です。
料理は豊洲仕入れの丸魚から切り分けた刺身や焼き魚、常連さんに人気の納豆オムレツ、厚切りのハムカツなど。どれも豪快なのに、200円前後と低価格。
晩杯屋の成功後、大手居酒屋チェーンをはじめ、多くの店がせんべろ業態に参入しましたが、一周回ってみれば、やっぱり晩杯屋が一番安くみえてきます。
開店は平日15時。土日祝日は13時から。立ち飲みなのでゼロ軒目的な利用がおすすめです。
住所 | 品川区東大井5-3-5 |
営業時間 | 平日15:00~23:30/土日祝13:00~23:30 |
開業時期 | 2012年3月 |
4,『永楽』
ラーメン好きの間では、大井町の『永楽』は有名店のようです。大衆中華料理店(いわゆる町中華)を酒場のように利用する「町中華飲み」としても『永楽』は人気の店です。
創業は昭和31年。ヤミ市由来の横丁にあり、まるで映画のセットのような昭和の店構えを残しています。
店内も懐かしい雰囲気です。パイプ椅子、合板のテーブル、レトロなランプシェード。まるで昭和の大井町にタイムスリップしたような雰囲気です。
いまや、こういう空間のほうが非日常。瓶ビールが一段と美味しく感じます。
ラーメンが有名ですが、お昼飲みを楽しむならば特製のチャーシューをつまみにしてみてはいかがでしょう。旨味しっかり。濃い味でビールが進みます。
ワンタンもおつまみになるはず。名物の焦がしネギをつかった黒いスープもビールを誘うこと間違いなし!
住所 | 東京都品川区東大井5-3-2 |
営業時間 | 11:30~22:00(土日は11:30~21:00・月定休) |
開業年 | 1956年 |
5,『金門飯店』
大井町で55年続いてきた老舗の日本式大衆中華(町中華)『金門飯店』もまた、大井町の名店を紹介する中では外すことのできない人気店です。2018年に現在の三股商店街に移転しました。この通り黄色が目立つポップな店構えですが、店に入ればアットホームな雰囲気のまま。現在は3代目が修行中。
看板料理はナスうま煮風のなすラーメンですが、なにはともあれビールから。小箱ではあるものの、しっかりと管理された生ビールサーバーがあり、状態のよいキリン一番搾り生ビールが楽しめます。
名物以外だってしっかり美味しいです。五目焼きそば(900円)を頼めばあんかけでビールが進みますし、定番の餃子(5コ400円)だって正統派の味。炒飯飲みが好きな人なら、パラパラに仕上がった金門飯店のチャーハン(850円)もぜひ試してほしいです。
なお、近隣のオフィスが昼休みになる12時台は大変賑わうので、口開けの11時か、12時30分以降の利用をおすすめします。
住所 | 東京都品川区大井1-55-5 |
営業時間 | 11:00~13:30 17:00~20:00 日定休 |
開業時期 | 1968年 |
6,『そば処 楓庵』
三菱鉛筆本社近くで92年続いてきた老舗の蕎麦店です。お昼の営業は11時から15時(水曜日は14時30分)と長く、平日でも13時を過ぎた頃からお酒を飲みに来るご隠居さんの姿もちらほら。
天井が高く、広くて明るい店内。壁に掲げられた電照式の品書きも魅力的。庶民的な雰囲気で、明るく元気なお姉さんたちが切り盛りされています。
蕎麦前(蕎麦屋のつまみ)が充実しており、ビールやサワー、日本酒もしっかりとした品揃えです。「飲んでいってね!」というムードがあるので、普段、老舗の蕎麦屋で飲むことがない人でもここなら安心。
東京らしい黒いつゆに潜らせた天丼。ご飯少なめにしてもらえば、これもまた豪華のおつまみです。海外からの旅行者も集まるような名店もよいですが、長年愛されてきた町の庶民派蕎麦店にはまた違った魅力があります。
住所 | 東京都品川区東大井3-3-14 |
営業時間 | 営業時間 11:00~15:00(第3水曜日は、14:30まで) 16:30~20:30 日曜営業 定休日 木曜 |
開業時期 | 1931年 |
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)