宿毛『蔵』漁師が通う朝どれ鮮魚の居酒屋、ご近所さんで満席です

宿毛『蔵』漁師が通う朝どれ鮮魚の居酒屋、ご近所さんで満席です

2021年4月3日

宿毛の中心街で人気の大衆居酒屋「」。家族経営の店は、連日地元の人で満席近い賑わいになる良き居酒屋です。「ここによくたどり着けたね、最高の店だよ」と話す、界隈では釣り名人で知られる常連さんがお刺身を楽しんでいました。

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天然の良港、宿毛

人口約2万人、四国最南端の市である高知県・宿毛市(すくも)。漁業で栄えてきた長い歴史を持つ漁師町です。

県庁所在地の高知からは、JR予土線・土佐くろしお鉄道直通の特急「あしずり」号が約2時間で結んでいます。また、愛媛県の宇和島市からも沿岸をなぞるように走る路線バスで約2時間で到達可能。決して公共交通の便がいいとは言えませんが、独自の文化が息づく実に魅力的なエリアです。

街の中心街は交通拠点の宿毛駅から1キロほど東へ向かった「中央」と呼ばれるエリア。人口や街の規模に対して歓楽街の範囲が広く、いかにも歴史ある漁師町といった雰囲気です。

松田川の河口。宿毛湾にそそぐ一帯の平野にある、穏やかな町です。

昔からの中心市街。日中の人通りは多くないものの、夜になるとどこからともなく多くのお酒好きが飲みに繰り出してきます。地方の町の飲み屋街のこういう雰囲気はいいものです。

お店は飲み屋街の北の端、かつて大いに栄えてきた様子を伺わせる立派なNTT宿毛電話交換所のお向かいにあります。

平成10年創業、地元の人でいっぱいになる個人店

連日賑わいをみせる居酒屋が、平成10年創業の「」。もともと菓子店だった建物をリノベーションしてお店にしたそうですが、今ではすっかり老舗の居酒屋のような佇まいです。

あじわい深い雰囲気。四国南西端の飲み屋街に来たという旅情もあいまって、ちょっとした感動すら覚えます。

派手な装飾やBGMなどもなく、ぱりっとした内装。大将が立つL字のカウンターとテーブル席、座敷を配置したつくり。家族総出で店に立たれているようで、お店の方は皆さん阿吽の呼吸でお客さんの要望に応えてくれます。

いらっしゃいませ!こちらにどうぞ。どうやら予約がいくつかはいっているようです。すでに飲んでいる常連さんは地元の漁師さんで、海の話を大将としているところでした。

カウンター席の目の前には、タチウオやカツオがまるごと一尾はいっています。

ピカピカに磨かれたビールサーバー。先客が飲んでいる一番搾りのクオリティが非常良さそうなので、そちらのお客さんのおかわりに合わせて1杯目をお願いしました。

クオリティ抜群!歴史的にキリン色が強い高知県で味わう、美しいキリン一番搾り生ビール。それでは乾杯!

品書き

ビールは樽生が一番搾りで、瓶ビールではキリンラガー(560円)をおいています。大徳利でも520円と手頃感がある日本酒、銘柄は土佐鶴です。

活魚と炉ばたを看板に掲げており、焼鳥から料理がはじまります。漁業関係者が暮らす町だけあって、外食での肉料理のニーズはありそうです。

地域色を感じる日替わりメニュー

なにより楽しい品書きが、このホワイトボード。「おぼそ」と「すま」、2種類のカツオがあるあたり、さすが高知の港町です。お隣で飲んでいる方が今朝の船でとってきたものだそう。

地物のサザエは刺身やろばた焼きで、タチウオ長太郎(ヒオウギ貝)、きびなごも鮮度がよいものをざっくりと炉ばたで焼いたら絶品だと話します。食べたいものばかりで困ってしまいます。

さらに加えて定番料理。こちらは居酒屋でおなじみの顔ぶれです。

魚の鮮度が違う!

お通しからカツオの唐揚げ。脂がのっていてほどよく濃い味、絶品です。

刺身盛り合わせ

さあ、どんな感じでいきましょう!という大将に、品書きにはないものの刺身の盛り合わせができるか聞くと快諾してくれました。言うまでもなく、店にある鮮魚はすべて地元・宿毛漁港であがったもの。

中央上がおぼそ(モンつきとも呼ぶ、スマの中でも貴重な魚。胸に斑点がついている)、うるめいわしいさぎ(イサキ)、すまという内容。

スマのなかでも特別なものがおぼそ(上)。2cmはあるほどの厚切りで、角がぴしっとエッジがつくのがいいカツオの基準。水揚げした漁師さん自身も「これはいいやつ」といいながら、美味しそうに食べている姿が印象的です。

うるめのいさぎも、つやがよく歯ごたえがあり、非常に美味。これほどの刺身盛り合わせは、都市部ではなかなか食べる機会はなさそうです。

司牡丹の徳利に入っていますが、中身は土佐鶴。高知の魚には、辛口の高知のお酒が間違いない組み合わせです。カツオの旨味をより引き立たせてくれます。

あおさの天ぷら(400円)

天ぷらや揚げ物は店奥の厨房のしごと。午後6時を迎え、常連さんが次々と入り注文が集中するタイミングでも待つことなく仕上がってきます。

あおさ天ぷらは高知の郷土料理として都市部でも食べる機会がありますが、ここまで味が濃厚なものを食べるのははじめての経験です。青々とした味と磯のコクが口いっぱいに広がります。

瓶ビールを1本。キリンラガーの飲みごたえある味を楽しみながら、お客さんや大将との会話を楽しみます。※距離をとり、カウンターにはついたてがあります。

きびなご炙り(380円)

炉ばたで手際よく火を当てていくきびなご。子持ちのものがあり、深い味とほのかな苦味が心地いいです。これはまだまだお酒を追加しないといけませんね。※お酒は適量で。

お隣の方は、この界隈では有名な釣り名人だそうで、釣具メーカーのタイアップで釣りの楽しさを発信されているそう。本業の漁師さんに、町の太公望まで、魚好きを魅了する「蔵」。ここに来て正解だよと、地元の皆さんが口々に話していました。

風景も人もあったかく迎えてくれます。なにより魚がずば抜けて美味しいです。宿毛はなかなか訪れる機会が多くないかもしれませんが、「魚を求めて飲みに行く」それだけでも十分に旅の目的になると思います。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名
住所高知県宿毛市中央1-1-1
営業時間17:00~22:00頃(月定休)
開業年1998年