高知・大橋通『丸吉食堂』昭和16年創業。土佐のうまいもん肴にお昼酒

高知・大橋通『丸吉食堂』昭和16年創業。土佐のうまいもん肴にお昼酒

2022年3月7日

高知城のお膝元で80余年続く『丸吉食堂』は、この上なく穏やかで居心地のよい場所です。高知名物の「中日そば」やうどんを啜る人の横では、お昼からおでんをつまみにお燗酒を飲む人がいる。地魚の小皿を並べてお昼から乾杯です。

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土佐の魚はこじゃんとうまい

日本で一番カツオを食べる高知の人。カツオにとどまらず、高知に暮らす人々にとって魚介類は、首都圏に暮らす人よりも遥かに身近な存在なのではないでしょうか。商店街にある魚屋さんの店頭は、圧倒されるほど魚種が豊富で、どれも驚くほど安く売られています。

それは、大衆酒場や食堂へ行っても同様です。太刀魚のかいさまずし、うつぼの煮こごり、鯛のたま蒸し、どろめにチャンバラ貝。様々な高知の魚料理が当たり前のように並ぶ光景に毎回驚かされます。

今回はそんな高知の魚も摘める、街に愛されてきた名食堂をご紹介します。

創業は1941年(昭和16年)。ひろめ市場に近い路地裏にあり、地元の人でもない限りまず足を踏み入れないところで営業しています。

ひなびた雰囲気ですが、昼食時は続々と近隣の会社員が集まり、こういう立地であっても活気のある食堂になります。さすがは、80年親しまれてきた店です。

ピークを過ぎた頃になると、近隣のご隠居さんがのんびりと訪れては、常連さん同士軽い挨拶をしながら、テレビを眺めて昼酒タイムがはじまります。「あぁ、なんて平和な世界なのだろう」、店の中の穏やかな時間に癒やされます。

外観

飾り気のないアルミサッシの扉が入り口です。左手のショーケースには、おかずが所狭しと並べられています。

「いらっしゃい」と優しい女将に迎えられ

リノリウムの床に1970年代を感じさせる花柄の天井板。今の時代より一回り小さくつくられた小上がりと、合板のテーブル。裸の蛍光灯も店の雰囲気にぴったりです。

店頭に向けたショーケースのほかに冷蔵ケースがふたつあり、こちらにはカツオ刺身などが出番を待っています。

店の奥は入れ込みです。高校野球のペナントなどが壁を埋め尽くしていますが、ご主人の趣味なのでしょうか。いろいろなものが雑多にあり、座布団ですら統一されていないものの、とてもあたたかい雰囲気で心が溶けていきそうな気分です。

聞こえてくる音は、テレビに映る「小さな旅(NHK)」のテーマ曲と、調理場で皿を洗う音。常連さんがうどんを啜る音くらいです。世界が目まぐるしく変わる中、ここは別世界の時のを刻んでいるようにすら感じます。

食堂だから”お酒はオマケ”と思われるかもしれません。ですが、この一画をみれば、ここが酒場も兼ねていることがおわかりいただけると思います。

乾杯は瓶ビール「キリンラガー」で

いらっしゃい、とお茶の準備のご用意を頂くまえに注文を。トクトクとビアタンに注げば、日差しをうけて、ベニヤが黄金色に輝きます。それでは乾杯。

品書き

お酒

ビールはアサヒスーパードライキリンラガーから選べます。そのほか、缶で角ハイボールがあり、高知の日本酒・司牡丹も用意されています。

黒板メニュー

ニロギメヒカリジャコ卵焼きサシミタタキエビフライ豚カツニラ豚唐揚げ焼ソバなど。高知で「ニロギ」と呼ばれる魚は、全国的にはヒイラギで知られています。ここでは、コハダやママカリのように酢じめにするか、または一夜干しを焼いて提供されるようです。

短冊メニュー

ちらし:160円、おすし:260円、玉子うどん:350円、中華そば:400円、ちゅうにち(中華のめんにうどんのスープ):360円、豚汁:200円、おでん:100円など。

自分で取り出す、おかずのケース

タコ、ブリ、カツオにポテトサラダなどが並ぶケース。続々と追加されるので、なにが並ぶかみているのも楽しいです。

煮魚、焼き魚、おすしや唐揚げが並ぶ常温のケースも要チェック。おかずは1皿190円からで、お刺身や煮魚などが少し高級品。といってもワンコイン未満で、値段を気にせず食べたいものを摘んでも大丈夫です。

あぁ、すばらしき食堂飲み。まずはおでんから。

高知おでんを代表するじゃこ天(100円)と牛すじ(100円)

高知のおでんは、ここでも大活躍するカツオをベースに、昆布や鶏ガラも出汁に使うためコクがあって濃厚なのが特徴です。さらに牛すじやじゃこ天をいれるので、なかなかのこってり味に。それでいてつゆは澄んでいてクセはありません。これがなかなかどうして、ビールを進ませる素晴らしいおつまみです。

ブリあら炊き(おかずは190円から)

ぶりのかまを甘く煮た一品。脂がのっており、しっとりとしていて旨味は濃厚。日本酒お燗をお願いしなくては。

やってくるのは、飲み慣れたお父さんたちばかり。ときどき常連さん風の上品なご婦人がお土産にお寿司を包んでもらったりしています。そんな光景をぼんやり眺めつつ、進むお昼酒。

司牡丹1合

お銚子に注がれ燗をつけた司牡丹と、コップが1個。お猪口なんて上品な酒器はつかわずに、食堂飲みにはコップが似合います。そうそう、この辛さ。極端に辛いのではなく、厚みのある味はお刺身と合わせたくなります。

タコ刺身

ちょうどタコの準備ができたようで、何皿も厨房から冷蔵ケースへと運ばれてきました。生だこではありませんか。とてもみずみずしい。口に含んだ瞬間広がる、海の旨味と甘みは絶品です。

長年したしまれて来た店には、その理由があります。優しくほんわか、女将さんの手料理を楽しむ素敵な食堂です。

休憩時間がなく、お昼から夜までやっていますから使い勝手もばっちり。高知で時間ができたときはふらりと立ち寄られてみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名丸吉食堂(まるよし食堂)
住所高知県高知市追手筋2-5-5
営業時間11:00~21:00(土日定休)
開業年1941年