土佐の高知の小さなビヤホール『ぐるまん亭』をご紹介します。半世紀以上前らに製造されたレトロなスイングカラン付きサーバーを使用し、マスターこだわりの生クリームのような泡の生ビールが楽しめる、ビールファンにオススメの一軒。三日間自家製ダレに漬け込んでつくる唐揚げも絶品です!
目次
松山のビヤホールの味に惚れたことがきっかけ
「なゆさん、高知にもスウィングカランでサッポロビールを提供するビヤホールがあります」
いつもお世話になっているサッポロビールの社員さんより届いた一通のメールで、高知の『ぐるまん亭』を知りました。スイングカラン(サッポロ系列ではスウィングカランと表記)とは、現在主流のコックを手前に倒すとビールが注がれるドラフトヘッド登場以前に使用されていた、垂直軸タイプのカランのこと。
ビヤホールライオンの一部店舗や大阪のニューミユンヘン、広島のビールスタンド重富で使用され、一部のファンや店舗の間では「昭和のサーバー」と呼ばれ親しまれています。人気の各店は、遠方からスイングカランで提供するビヤホールを目指して飲みに来る人もいます。
四国では愛媛県松山市にある老舗ビヤホール『みゅんへん』がスイングカランで注ぐ生ビールを提供していますが、高知にもあったのです。それがここ、高知城近くの『ぐるまん亭』です。
深夜の人通りが少なくなった高知の中心街を歩き、ぐるまん亭へ。ひろめ市場や高知駅からも徒歩圏です。営業時間は深夜までと高知としても長く、二軒目でもふらっと立ち寄れるラフな雰囲気のお店です。
外観
ぐるまん亭の開業は30数年前のこと。
ご主人が会社員だった頃、愛媛の伊予鉄松山市駅前にあるビヤホール『みゅんへん』で味わったビールや唐揚げの美味しさに感銘を受けたことがはじまりだったといいます。『みゅんへん』の味を地元高知でも広めたいと店に通い詰め、ビヤホールの運営方法を学ぶべく店の人と交流を始めたそうです。こうして、ご主人は地元である高知に『ぐるまん亭』を開業することになりました。
半世紀前のビールサーバー
ビヤホールの顔でもあり、最も重要となる設備がビールサーバーです。開業にあたり酒販店に相談した際、サーバーと運命的な出会いがあったとご主人は話します。
時は平成になってすぐのこと、すでにビールサーバーは現代のコック式が主流となっていたものの、酒販店の倉庫にはなんと約60年前に造られた旧式のサーバーが2台残っていたそうです。酒販店の協力を受け、こうしてぐるまん亭にクラシックなビールサーバーが導入されました。
円筒形の筒の中は冷却回路です。そして、手前に飛び出したものがスイングカラン。2機用意されており奥がサッポロ生ビール黒ラベル、手前がヱビス プレミアムブラックです。
内観
店内はコンパクトにまとまっていますが、雰囲気はまさしくビヤホールです。カメラ好きのご主人が店の営業終了後に高知の各地で撮影した日の出の写真が飾られています。
品書き
お酒
サッポロ黒ラベル 特製生ビールキング(大):858円・プリンス(中):638円、クイーン:(小)583円、ブラックビヤ及びハーフアンドハーフ:各110円追加。
ワイン(グラス):605円、ハイボール:528円など。
料理
からあげミックス:1,155円、からあげ(L):935円、からあげ(M):638円。とり足:968円、手羽:935円、フィッシュアンドチップス:858円、カリット(揚げギョーザ):418円、手作りメンチカツ:858円、生ハム:858円、リブ(骨付きソーセージ):638円など。
5分かけて注ぐ、こだわりの”生”
サッポロ黒ラベル 特製生ビール(638円)
「ビールはお出しするまで5分ほどかかります」とご主人。
2世代前のレトロなワイドジョッキを冷蔵庫から取り出したら、カランから絞り強めで細かな泡を注ぎ、ジョッキを満たしていきます。まるでミルコのように、ジョッキは真っ白に。
一度泡を落ち着かせ、つぎは絞りをやや開放し、液を泡の下に潜り込ませていきます。
最初に注いだ泡は一部は切り落とし、一部は液にもどり、ゆっくり注ぐビールとともにジョッキを黄金色に満たしていきます。
マニアックな話になりますが、この世代のジョッキは金色のポラリスエンブレム(北極星)のロゴが剥がれやすく、30年経過してもこれだけきれいな状態を維持しているのはかなり珍しいです。ジョッキの洗浄は手洗いなことはもちろん、取り扱いはとても慎重にされているそうです。
スイングカランは、サッポログループの系列店では「一度注ぎ」といって数秒でジョッキを満たす注ぎ方が主流ですが、『ぐるまん亭』はかなり独特な注ぎ方です。かつてご主人が松山で飲んだ味を再現しているそうです。
『ぐるまん亭』流、特製ビールの完成です。ビールはメーカー出荷時が完成ではなく、注がれてはじめて完成形ということを聞きます。最後の『注ぎ』の過程で、いかようにも変化するのがビールのおもしろいところ。
この生ビールの特長は、泡が生クリームのように固く盛り上がっているところにあります。
それでは乾杯!
苦味成分が泡につくことから、こういう泡は飲み心地にクセがでるものですが、これが驚くほどマイルドです。ビールは優しくまとまっており、一般的な瞬冷サーバーで注ぐものとは別物の味わいで驚きます。また、同じくスイングカランを使用する他店のサッポロ黒ラベルともかなり印象は異なります。
二軒目で伺いましたが、あれよあれよとあっという間にジョッキが乾いてしまう、魔法のビールです。
愛媛の「元気どり」からあげMサイズ(638円)
四国のブランド鶏を特製のタレで3日間かけて下味を染み込ませているという唐揚げは、ビールと並ぶご主人の自慢の逸品です。
脂控えめの部位ながらとてもジューシーさを感じる鶏肉は、味の染み込み具合が絶妙です。からあげが名物のビヤホールはいくつもありますが、ぐるまん亭の唐揚げはそのどれとも異なる美味しさです。
特製生ビールブラックビヤ(748円)
「黒ビールは、黒ラベルとはまた違った注ぎ方をします」、とご主人。
やはり5分ほどの時間をかけて注ぐのですが、サイフォンでコーヒーを淹れるのと同じように、生ビールも神経を注ぎ泡の具合をチェックしながら注ぐ姿はまさしく職人技です。バイエルン産のアロマホップの香りが丁寧に注ぐ泡からすっと広がってきます。
フワフワの泡と、苦味を抑えた液、絶妙なバランスで注がれたヱビス プレミアム ブラックの完成です。香り立ちが豊かで、かぐと心が穏やかになります。出張・旅行先の高知で、こういう落ち着いたひとときを素晴らしいビールとともに過ごせるのはとても幸せです。
“こだわって注ぐとビールの味は大きく変化する”。言葉にしなくとも注ぐビールの味で信念が伝わってきます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | ぐるまん亭 |
住所 | 高知県高知市追手筋1-10-7 フェニックスビル 1F |
営業時間 | 17:30〜24:00・24:00〜翌4:00(不定休) |
開業年 | 1990年頃 |