住宅街の中にポツンと灯る赤ちょうちん。ここは東十条と赤羽の間にある大衆酒場『寄道(よりみち)』です。創業は1960年代後半。近所に暮らす人達が自宅の延長のように毎日通う地元密着の店です。取手の地酒「君萬代」を飲みながら、どっしり構えたレトロな酒場の雰囲気に浸りましょう。
目次
駅から15分で、別世界に迷い込む
ポツンと灯る提灯を頼りに
下町風情を残した北区・十条は大衆酒場が多く、元気な老舗は訪ねるだけで癒やされます。今日はJR東十条駅の改札から15分ほど歩く、少し離れた酒場を目指しています。
飲食店が立ち並び華やかな駅前商店街を抜け、住宅街の中を地図を頼り向かいます。駅から離れているので地図がないと不安な立地なんです。町並みを眺めながらテクテクと歩くのも酒場を訪ねる前座のひとつ、楽しみましょう。
一直線の小路のはるか400m先にぼんやりと灯る赤ちょうちんが目的の『よりみち』です。この距離から営業しているか判断できるということが、どれだけポツンとある酒場かおわかりいただけるのではないでしょうか。
周囲は真っ暗。味のある店が見えてきました。店名の『寄道』と書かれた暖簾よりも、清酒「君萬代」の名入り提灯のほうが目立っており、お客さんたちの間では別名「君萬代」とも呼ばれているようです。
町工場が多かったこの場所で、初代店主が昭和40年代に創業した同店。文字通り、職場と自宅の間の「よりみち」処というわけです。現在は女将さんが一人で切り盛りされています。2007年に初代から店を引き継いだ女将さんですが、それまで会社勤めをしていたそうです。
数匹のお手伝いさんたち
店に入ると、コの字カウンターに集う飲み慣れた常連さんと、その内側に温厚な人柄が表情にでた女将さんが迎えてくれます。席に座ると、さらに数匹のお手伝いさんたちが挨拶に来てくれます。店には何匹も招き猫がいまして、この子たちのじゃれあいを眺めているだけでもお酒が進みます。
乾杯は瓶ビール「キリンラガー」大瓶で
女将さんと常連さん、そして猫たちに軽く会釈して、まずはやはりビールから。大樽の取り扱いはなく、銘柄はキリンレギュラーラガー1本です。入り口脇にある水冷の発泡スチロール容器から各々取り出し飲むスタイルです。栓抜きで「シュポッ」とあけたなら、乾杯!
品書き
お酒
お酒はキリンラガー大瓶と日本酒「君萬代」の2つのみ。
ホワイトボードメニュー
日々書き換わるメニュー。訪問した日は、やりいか刺身:500円、げそ塩辛:300円、あげ焼き:230円、さつま揚げ:300円、ゆず大根:300円、松前漬け:320円、ポテトサラダ:390円など。
品書きいろいろ
焼き魚は、さば塩焼き:280円、いわし丸干し:400円、鮭塩焼き:450円。ほかには、つくね串2本:200円、ふぐ皮ポン酢:450円、生たらこ:500円など。
都会の喧騒を忘れさせる別世界。手頃な肴とほっこり味の君萬代
きのこ湯豆腐(390円)
お客さんたちはほぼ全員が常連さんたちでお互い名前で呼び合う仲ですが、そこのときどきやってくる一見さんに対してもとてもフレンドリーに接してくれます。ここまでよく来たね!なんて言われたら嬉しくなってしまいますね。
店の立地、雰囲気などは、23区内の酒場とは到底思えない別世界感に満ちており、ここで飲むと、ただ酔うだけではない酒場の新たな価値を実感できるはずです。
一品目にはきのこあんかけの湯豆腐を。ビールを進ませるのにはちょうどいい、食べごたえのある一品です。
君萬代
お酒はキリンと君萬代の2品のみ。酎ハイはありません。
君萬代は、利根川沿いの旧取手宿本陣近くで350年以上続く老舗の酒蔵のお酒です。酒蔵を取材する仕事で伺ったことがありますが、とても気立ての良い若いご夫婦が守る力強い酒蔵でした。この君萬代のお酒を都内の飲食店で定番として提供しているのは、ここ『よりみち』のみということです。先代同士の付き合いが取り扱うきっかけになったそう。
界隈ではオンリーワンのお酒として、君萬代を飲みに通う常連さんたちで連日賑わっています。
湯煎でつけたお燗の君萬代。優しい米の旨味が広がり、すっと抜けていく辛口で昔ながらの味わいです。
鮭塩焼き(450円)
魚焼きグリルで手際よく焼き上げた鮭塩焼き。お酒のお供にちょうどいいおつまみ。山盛りの大根おろしが嬉しいです。
ひれ酒
この日はふぐ皮ポン酢があるので、ふぐのひれ酒もありました。旨味が染み出して、これだけでお酒とおつまみのふたつが両立した一品です。
女将さんはじめ皆さんとのゆったりとしたお話を楽しみながら、ちびちびとお酒を3杯程度。ほろ酔い心地になって大満足。小一時間でおいとまするつもりが、居心地がよくてつい”カンバン”までいてしまいました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | よりみち |
住所 | 東京都北区東十条5-15-16 |
営業時間 | 17:00〜24:00(火水定休) |
開業年 | 1965年頃 |