別世界のような居心地抜群の大衆酒場を訪ねました。こういう店に出会えるから、旅先の酒場巡りは楽しいです。店の名は『おせつ』。20代で創業した女将さんが何十年と続けてきた酒場です。午後2時オープン、地元の人と一緒に地魚料理と地酒で乾杯!
目次
高知のはしご酒は路面電車に乗って
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市内を広くカバーする路面電車が存在する高知。使いこなすと高知のはしご酒はもっと楽しくなります。
高知市を訪ねるほどに、酒場や食堂は広域に点在していることに気づきました。主要観光エリアであるはりまや橋・帯屋町・高知城周辺だけにとどまらず、もっと広い範囲を巡ることで、まだまだ知らない”土佐のうまいもん”に出会えそうです。
今回ご紹介する上町四丁目電停すぐの『おせつ』は、まさしく路面電車で飲みに行きたくなる一軒です。
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上町はかつて北奉公人町・南奉公人町と呼ばれたまちを含む、高知城西部に広がる住宅街です。この町は坂本龍馬の誕生地として知られています。歴史がある地域ということもあってか、老舗の蕎麦店、鮮魚店、大衆中華などがぽつりぽつりと点在しています。
外観
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この街で40年にわたって、女将さん1代で営業を続ける老舗の飲食店が『おせつ』です。電停からは徒歩1分ほど。定期的に行き交う電車の音と音量控えめなテレビがBGM代わり。穏やかな空気に包まれています。
内観
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入り口には食堂を書かれており、常連さんは定食を食べる方もいらっしゃいますが、もっぱら飲む人のための酒場です。
店はコンパクトで6席ほどのL字カウンターと4人がけテーブルが一卓程度というつくり。その中で、まだまだ元気で”はちきん”な女将さんが忙しく切り盛りされています。
午後2時の開店と近隣飲食店の中でもとくに早くから営業を開始するも、あれよあれよと、3時前には常連さんで満席になりました。皆さん、近隣にお住まいの常連さんばかりの様子。
乾杯は瓶ビール「キリンラガー」で
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珍しい聖獣麒麟がカラーでプリントされたビアタンが使用されていることに驚きます。大切に使っていらっしゃるのでしょうね。そんな雰囲気もビールの美味しさを高める要素だと思います。
それでは、キンキンに冷えたラガーで乾杯。
品書き
お酒
瓶ビール(アサヒスーパードライ、キリンラガー)大瓶:600円・小瓶:400円、日本酒(高知の定番銘柄)、焼酎など。
料理
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決まったメニューはなく、ホワイトボードに書かれた料理がその日の献立です。一部は値段の記載はありませんが、どれもとても良心的な価格なのでご安心を。
刺身は、平目、地ダコ、かつお、かつおたたき、ネイリ(カンパチの高知での呼び名)、あおりいか、地ガキ酢など。
魚介料理は、あまだい煮、いか一日干し、さらし鯨、皮鯨すきやき、たち(太刀魚)焼き、あぢフライ、鯨フライなど。
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その他、すじ煮込み:500円、手羽先揚げ3本:500円、ニラトン:600円、串カツ3本:800円、山本天プラ(山本は上町の蒲鉾店の店名):250円、ちりめん大根:300円、焼ソバ:600円など。
10席ほどの店に、溢れんばかりの食材たち
サービスの突き出し
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席数が少ないにも関わらず魚介類の種類が豊富なことに驚かされます。聞けば、高知市の水産市場だけでなく、長年付き合いのある鮮魚店などもまわって仕入れているそう。お客さんたちのお目当ても魚介類のようで、魚が人気の秘訣なのだと思います。
となりの常連さんは鰹の刺身を美味しそうに頬張っています。
山本天プラ(250円)
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戦前から続く上町のかまぼこ屋さんの天プラ。シンプルで、しみじみ美味しい逸品です。
皮鯨すきやき
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高知の郷土料理「くじらのすき焼き」です。江戸時代から鯨を煮物などで食べてきた土佐の人々の食文化を感じる一品。一般的には赤身を使うようですが、女将さんのおすすめは本皮と呼ばれる表皮と皮下脂肪層をつかったより甘く濃厚なもの。
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鯨の独特なコクととろける脂が特徴的です。見ためほど脂肪感は強くありません。鯨の旨味が市染み込んだ白菜や豆腐も秀逸で、これが驚くほどビールや日本酒とよくあいます。
日本酒
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ふくよかな旨味とさらっとした後味、高知のお酒は鯨料理と相性バツグンです。ビアタンに直接注ぐのも、日本酒愛飲家が多い高知の酒場によく似合います。
流れ子
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ホワイトボードの品書きに「流れる」と書いているように読めましたが、これは「流れ子」。アワビより一回り小さく、全国的にはトコブシでおなじみ。室戸など高知や徳島南部で小さなミミガイを流れ子と呼ぶそうです。岩の表面を海水が流れるようにすばやく這うことが由来だそう。なんだかかわいい名前ですね。
高知のネギと一緒に軽く酒蒸しにして出来上がり。
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小さくても歯ごたえと旨味はアワビに負けず劣らず。日本酒が進むこと間違いありません。
郷土料理を土佐の皆さんに囲まれて
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女将さんの人柄が明るく、常連さんたちに親しまれていることがよくわかります。皆さんに高知の酒場事情や食文化を教えて頂き、実に有意義なひとときとなりました。
大衆酒場へ一人で飲みに行くことに慣れている人でもここは敷居が高く感じるかもしれません。それでも、ベテランのお客さんや女将さんにあわせてそっと静かに飲んでいれば、そのうちじわじわと居心地がよく感じてくるはずです。
好きな人にはたまらない店、『おせつ』です。
ごちそうさま。
近くの酒場
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | おせつ |
住所 | 高知県高知市上町4丁目4−19 |
営業時間 | 14:00~21:00(日定休) |
開業年 | 開業から40年以上 |