中井『権八』漫画家が愛用した炉端焼の老舗。名物なめろう肴に榮川を

中井『権八』漫画家が愛用した炉端焼の老舗。名物なめろう肴に榮川を

2022年4月8日

創業は1975年。西武線の中井駅近く、親子二代で営む炉端焼きの酒場『権八』。赤塚不二夫が愛用した酒場として有名で、藤子不二雄Aさんなど著名な漫画家が通ったことでも知られています。酒は榮川、ビールはサッポロ、旬菜揃う名店です。

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今も昔も、漫画家が集まる酒場

西武新宿線で、高田馬場から2駅・3分。細い路地が入り組む中を踏切を鳴らして西武線がゴトゴトと行き交う、懐かしい街並み残る新宿区中落合・中井。駅はリニューアルされましたが、駅前のレトロな商店街は昔のままです。

新旧様々な居酒屋が立ち並び、飲み歩きが好きな人なら一度”ハマる”となかなか抜け出せなさそう。細い路地に赤ちょうちんがたなびく街並みは、ここが高田馬場や角筈と同じ新宿区とは思えないほどです。

そんな中井で長く愛されてきた酒場といえば『炉ばた焼 権八』です。創業は1975年(昭和50年)。

外観

使い込まれた電照看板と、飲兵衛に「おいで、おいで」と手招きするようにたなびく、かわいい絵柄の暖簾が営業中の合図です。

内観

店を建てた大工さんが「こんなに大きな額はみたことない」、と話したという仕入先の鮮魚店などの名前が入る額縁に店の貫禄を感じます。

これぞ絵に描いたような大衆酒場というつくりで、調理場に向いたL字のカウンターと対面の小上がり席という構造です。畳の上で一度くつろいでしまったら閉店まで居座ってしまいそうな居心地の良さに、何人のお客さんが常連になったことでしょう。世代をこえた家族連れのお客さんで賑わいます。

お店を切り盛りするのは、若いうちから板前の修行をして店を開いた初代の大将と息子さんの二代目のふたり。ここにお手伝いさんが一人加わります。

使い込んだ店ですがパリッとした雰囲気があり、板場の大将や息子さんから適度な緊張感が伝わってきます。そんな様子を眺めて過ごすカウンターは特等席で、こちらは「存分にゆったりとしてね」という温かな空気感で満ちています。

一歩板場を出れば温厚な表情になる大将はお客さんに慕わており、大将の人柄も通う理由のひとつなのだとわかります。

漫画のキャラクターたちが唯一無二のムードをつくる

さて、店内には漫画の登場人物がいたるところに描かれており、これが権八という酒場をより一層唯一無二の場所にしています。赤塚不二夫さんが足繁く通った店として有名ですが、現在でも多くの漫画家が飲みに来るそうです。

ひみつのアッコちゃんやバカボンのパパに囲まれ、赤塚不二夫が残していったスーパーニッカのボトルがいまもキープされています。

藤子不二雄A先生、ちばてつや先生、高井研一郎先生、やまさき十三先生、北見けんいち先生と説明つきの宴会写真。皆さんとても楽しそうです。

乾杯は「サッポロ生ビール黒ラベル」で

なにはともあれ、一杯目はぐっと生ビールを喉に当てたい。老舗に輝く北極星、サッポロ生ビール黒ラベルで乾杯!

さて、ここは珍しく銘々盆がセットされます。いまは炉端焼きのスタイルはとられていませんが、銘々盆はその当時の名残でしょう。

お通しをつまみつつ、今夜の献立を選びます。

品書き

お酒

樽生ビールサッポロ黒ラベル):580円、瓶ビールサッポロ黒ラベル)中:580円。

清酒は定番が榮川1合:450円、地酒は八海山久保田立山天狗舞浦霞黒龍:各900円、十四代:1,200円。

サワー類は、グレープサワー:550円、ハイサワー(レモンサワー):450円、ウメサワー:450円、ハイボール:500円など。

黒板メニュー

黒板メニューの一部は日替わりです。取材時は、初かつお刺:730円、いわし刺:550円、あじなめろう:550円、ほや:550円、あさり:550円、自家製イカ塩辛:450円、里芋:400円、五色納豆:730円、にら肉豆腐:730円など。

定番の献立

刺身は、刺身四点盛:1,100円、まぐろ刺:900円より、あじ刺:900円より、いか刺:730円、ほたて刺:900円より、さざえ刺:900円より、など。

炉端の店ですから、魚や貝を焼いた料理が主役ですね。にしん:900円より、かれい:900円より、ホッケ:730円、たかべ:900円より、いさき:900円より、ほうぼう:時価、いしもち:900円より、山女魚岩魚:各550円、ホタテ:900円より、など。

串焼は、ねぎまつくね・はつレバーとり皮首ツル砂肝:各160円、手羽先:400円。

その他ももつ煮込み:450円、肉じゃが:450円、いわしあげポン酢:730円など。

並ぶ食材から今日の酒のお供を選ぶ楽しさ

品書きに料理名が並びますが、権八の注文は食材を見ながら選ぶことも醍醐味のひとつ。魚介類は北茨城大津港や勝浦港から直送されたものだそう。大将自身も釣り好きだといいますから魚料理への期待が高まります。

榮川(1合450円)

一杯目の生ビールで喉の調子は完璧。次いで飲むお酒は、店の定番酒で大将こだわりの銘柄、榮川酒造(福島県耶麻郡磐梯町)の榮川を。特醸酒でしょうか、五味すべてのバランスが秀逸で力強いお酒です。

あじなめろう(550円)

権八の人気料理のひとつ、あじなめろう。塩焼きや刺身に使うまるまると肥えたアジを注文が入ってから手際よくおろし、これでもかというほど包丁でたたいていきます。

一般的ななろめうより遥かに細かくされたアジ。肥えたアジですから脂ものっており、スムースな食感と濃厚なコクがたまりません。

里芋(400円)

こちらも権八の人気メニューのひとつ、さといも。さっと包丁をいれてすぐに提供されるので、主役の合間につまむおつまみにちょうどいいです。言うまでもなく日本酒があいます。

サッポロ黒ラベル中瓶(650円)

居心地がよく、飲み飽きない味わいの清酒・榮川がなめろうとともにあれば、あっという間に数本お銚子を倒してしまいそう。ということで、日本酒からビールに戻して、酔いのペースを整えます。いつもの美味しさ、サッポロ黒ラベル。

焼鳥(各160円)

炉端の店ですから、なにか焼いてもらいたいな、ということで焼鳥を。甘さがしっかり効いたタレは濃厚でいい味付けです。

漫画のキャラクターが散りばめられた店内ですが、赤塚不二夫の人気にあやかった商売では決してありません。むしろ漫画家ゆかりの店として観光気分で食事に来る人には物足りないかも。

ここは大衆酒場。料理へのこだわり、居心地のよさ、大将のもてなしがすばらしく、常連さんで賑わうのもよくわかります。

ほかでは食べられない、こだわりのなめろうを肴に榮川はいかがですか。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名権八
住所東京都新宿区中落合1-13-2
営業時間17:00〜24:00(木定休)
開業年1975年