こんな酒場が残っているのは奇跡!西新宿の『品川亭』で飲むと誰もがそう思うはずです。創業は1973年頃。初代女将と息子さんで切り盛りする家族経営の酒場です。料理旅館の離れだったという店舗は、いぶし銀という言葉では伝えきれないほどの味があります。
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地下鉄が開通するまでは、陸の孤島だった十二社
今回ご紹介する『品川亭』は西新宿4丁目、かつて十二社と呼ばれていた場所にあります。東京都庁より西側にあり、都営大江戸線が開通するまでは、新宿から徒歩20分かけて行くような場所でした。
部分的に再開発され高層マンションなどが建っていますが、その足元には新宿副都心計画以前からあった、昭和の町並みが残っています。「新宿」と聞いて思い浮かべる繁華街や高層ビル群のイメージとは真逆の静かな場所です。
しかも、目指すお店は大通りの「方南通り」沿いではなく、その横をくねくねと蛇行する「国府道」(甲州街道以前の道)から入った場所にあります。酒場がありそうな雰囲気はまったくありません。
年季の入った木造二階建ての建物が、草木の中に隠れるように建っています。ぼんやりと灯る袖看板が目印です。
外観
時代劇の撮影にそのまま使えそうな店構え。木組みの格子戸には「千福」の文字。酒場の暖簾を数多くぐってきた人でも、この店構えには緊張から背筋が伸びるのではないでしょうか。
内観
勇気をだして店に入ると、拍子抜けするほどアットホームな雰囲気で、女将さんと二代目になる息子さんが優しく迎えてくれます。カウンター席に座る近所から飲みに来ている常連さんも温厚な方で、すぐに緊張はほぐれ、それと同時に店内を埋め尽くす民芸品の数々が気になってきます。
創業時から扱っているという日本酒「千福」。150年続く広島県呉の三宅本店がつくるお酒で、創業者の奥さん「千登(チト)」と母「ふく」からとって「千福」と名付けられたとされています。お酒のマークは内助の功から「おかめ」とされ、この千福おかめを飾ったことが、民芸酒場化のはじまり。
お客さんが旅先で見つけた「おかめ」を持ち寄ってくるうちに今のような雰囲気になったそうです。
土間のようなスペースに、カウンター席が6席と、4人テーブルひとつだけの文字通り”小上がり”というコンパクトな作り。二階もありますが、いまは使っていないとのこと。
このカウンターの腰掛けは、よく見れば酒樽ではありませんか。千福さんが用意してくれたものだそう。
品書き
お酒
- ビール キリンラガー大瓶:770円
- お酒 千福:390円~
- 冷酒:1,760円
- ウイスキー
料理
- 角煮:990円
- 串揚げ:990円
- つくね2本:550円
- なんこつ・たん・はつ:880円
- 煮物:880円
- くさや
- ハタハタ
- 厚揚げ
- たらこ
- たこ刺し・いか刺し
都会で飲んでいることを忘れるひととき
キリンラガービール(770円)
散歩がてら新宿駅のほうから歩いてきました。やっているかなー、空席あるかなーと、など心配していましたが、無事すべり込むことができて一安心。さあ、落ち着いたら飲みたくなるのがビールです。創業当初からキリン一筋だと女将さん。
老舗に似合うキリンラガービールで乾杯!
お新香(500円)
家庭料理の店ではあるのですが、それでも50年やっている店ですから、それはもう特別な味。自家製のお新香は懐かしい美味しさです。箸休めとしてキープしておきたい一品。
煮物
もうひとつ、すぐでる料理から女将さんのおすすめ、創業当初から続く定番の「煮物」をもらいました。にんじんやこんにゃくの細工の丁寧さが嬉しいですし、里芋は形が崩れるので別に煮ているそうです。
たん
塩焼きの豚たん。もつ焼きの店ではないものの、これがジューシーでなかなかのいい味です。ビールだけでなく、千福とも相性が良さそう。
つくね
わさびをたっぷりつけて食べてね!というつくね。熱々のまま一口。つくねの旨味がわさびでより強調され、これは美味しい!
角煮(990円)
2時間近く時間をかけて、丁寧に煮ることで余分な脂分を落とし、トロトロに仕上げるという豚の角煮。『品川亭』の看板メニューです。大きなお椀に大きなブロックが3つ。一人なら「食べきれないかも」と心配になりますが、見た目以上にこってり感はなく、ひとつ食べると、残りも欲しくなるほど。
千福 大徳利(770円)
千福は旨味、甘味、わずかな酸味があるどっしりとした味。余韻はすっきりとしていて、意外と角煮や塩焼きのタンのような肉料理と合います。
冷やしたものは冷酒しかありませんが、普通のお酒もほんのり冷気味。冷たいのを1本、つぎにぬる燗を1本のように温度を変えて楽しみたいですね!
くさや
ぬくもりたっぷりの酒場には、くさやが似合うと思いませんか。ちびりとつまんでは、千福のお燗を一口。お客さんの中には、近くのホテルに宿泊はている外国からの観光客がいらっしゃいましたが、どうもすみません。
ごちそうさま
新宿の老舗酒場はほとんど飲んだことがあるという方も、なかなか『品川亭』までは来る機会は多くないと思います。ここは新宿で飲んでいることを忘れ、どこかの地方都市を旅しているかのような錯覚を感じる酒場です。
レトロな酒場がお好きな方には、ぜひ訪ねて欲しい十二社の隠れ家でした。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 品川亭 |
住所 | 東京都新宿区西新宿4-13-13 |
営業時間 | 営業時間 [月~金] 17:30~23:30 定休日 土曜日、日曜日、祝日 |
創業 | 1973年頃 |