1992年(平成4年)に、老舗洋食店やホテルで修行した有本靖さんが創業した居酒屋「ちょうちん」は、まさにこの坂にぴったりな雰囲気のよい名酒場です。
神楽坂の隠れた名居酒屋
外観
坂の繁華街「神楽坂」。料理屋や割烹、小料理屋に最近はオシャレなビストロと、常に食通の注目の的です。居酒屋も落ち着いた雰囲気の名店が多く、東京で大人が飲むのに相応しい街でしょう。
メインストリートの神楽坂(早稲田通り)や石畳の路地のイメージが強いですが観光客も多く、地元の人達が飲むような最近の穴場は早稲田通りと並行する軽子坂です。江戸時代からある由緒ある坂で、お堀の揚場についた荷物を運ぶための道でした。
いまも表通りを支える坂として裏方の雰囲気ですが、一歩引いた落ち着きは大人が集う飲み屋にはちょうどいいかもしれません。
内観
厨房に向いたカウンターは、週末でなくとも開店から1時間もしないうちに満席になる人気ぶり。花板兼焼き場に立つ有本さんを先頭に、よく磨かれた心地よい接客のスタッフの皆さんが忙しくとも笑顔を絶やさず、テキパキと働かれています。常日頃から居酒屋は料理や値段だけでなく、「人」が一番の魅力だと思っていますが、ちょうちんの雰囲気は抜群にいいです。
店の奥はテーブル席。すでに予約で埋まっているのだそう。
品書き
看板料理はおでん(120円から)。夏場でも注文が途切れることのない看板料理で、旨味と余韻の爽やかさが両立した美味しい出汁が日本酒・銀盤の徳利を軽くします。
日替わりの黒板メニューに季節感のある野菜が豊富。刺身三品盛り合わせは必ず頼んで欲しい大定番です。洋食・ホテルでの修行経験を活かしたオムライスやメンチカツは、神楽坂界隈に暮らす地元の人たちのお腹をとりこにしています。常連さんを飽きさせないこだわりがいっぱいです。
飲み物は、なんといっても樽生キリンラガー。有本さんが惚れ込む銘柄で、お客さんからの注文も飲み物で一番多いそう。ハードシードル、ジョニーウォーカーのハイボールもあります。
キリンラガーの樽生と名物のトロタク
人気ゆえ、キリンラガーは20L樽でもすぐ空になるそう。それゆえに鮮度よし。もちろん管路、ジョッキの洗浄も完璧な一杯。ナショナルビールのポテンシャルを引き出す一番のポイントは、やはり店主の想いでしょう。
昔ながらの500mlジョッキというのが嬉しい中生キリンラガー(590円税別)。乾杯!
お通し(370円)は、季節の野菜をつかったプレートです。柔らかく熟したフルーツトマトと生ハム、鮮度のよいシャキシャキなキャベツに、コクがある枝豆。夏野菜がたっぷりで、むしろお通しというものが好きになります。
1,300円の刺身三品盛り合わせ。ずわい蟹むき身、真鯛の昆布締め、とろたく。ノンベエにはたまらない3点セットです。旨味がぎゅっと詰まった真鯛昆布締めが日本酒を欲します。
そして、今日の主役はこのとろたくです。本まぐろだけだと味が濃すぎるからとメバチマグロを混ぜるこだわりで、ねぎとろの概念が覆る美味しさ。一緒に盛られてくる酢飯と海苔で手巻き寿司にして食べるのもよし。
さて、そろそろおでんにしましょうか。定番の顔ぶれですが、お通しや刺身と同様に仕事が施された具材が揃います。
かつお節、煮干し、鶏ガラでとった出汁に一晩寝かしているというおでん。きつね色の卵やちくわぶなど見ているだけでもお酒が進みますが、味の浸透具合はどの具もちょうどよく、どれもはずれない美味しさ。褒めすぎだけど、美味しいものは美味しいのです。
日本酒、焼酎のバリエーションは、神楽坂に飲みに来る人たちの期待を裏切らない顔ぶれ。
イチオシは銀盤の生しぼり(1合750円)。すっきりとした余韻と華やかな香り、おでんの美味しさを引き立てます。
前スネ肉を8時間以上煮込んだという洋食メニューの王様ビーフシチュー。お刺身から始まり、おでんで満足して、ビーフシチューでコレでもかと惚れさせてきます。個人経営の店でこれだけ幅広くバリエーションを持つお店も珍しいですが、店のすべては有本さんの人生そのものなんだと感じます。
ごちそうさま
徳島から18歳で上京し、それから飲食畑一筋に歩む有本さん。浅草の老舗洋食とホテルで鍛えられた食ともてなしに対する全力投球ぶりは、聞かなくても立ち振舞からバシバシと伝わってきます。30歳でちょうちんを開いて26年目。目利きが厳しい神楽坂で魅了し続けるご主人はかっこいい。
二次会コースに飲み放題なども用意されていますので、気になる方はぜひ予約の上訪問してみてください。この記事を読んでいただいた方が、「いい店を見つけた」と思って頂けますように。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビール株式会社東京支社)
ちょうちん
03-3268-5253
東京都新宿区神楽坂3-1
17:00~23:30(土16:30~23:00・日祝定休)
予算3,000円