石巻「六文銭」 酒場は旅の目的地。南三陸の旬の魚介を心ゆくまで味わう夜。

石巻「六文銭」 酒場は旅の目的地。南三陸の旬の魚介を心ゆくまで味わう夜。

旅の目的は人それぞれです。史跡、名勝めぐりや、温泉、ご当地グルメなど様々です。筆者はというと、旅のメインは飲み屋の暖簾をくぐること。「居酒屋は近所にもあるし、鮮魚ならば漁港の食堂や朝市でも食べらのに、それでも飲み屋がメインなの?」と不思議に思われるかもしれません。

料理やお酒はもちろんですが、飲み屋へ向かうまでの道のりや、店の佇まい、女将さんや大将、そして常連さんが醸し出す人情も旅先での酒場の魅力。いく価値を感じる素晴らしい酒場が日本各地にまだまだたくさん存在します。

そんな旅のなかですっかり魅了されてしまったお店が、石巻にあります。石巻は南三陸を代表する港町。金華山沖で水揚げされる鯖をはじめ、数多の海産物がこの町に集まります。また、人口が宮城県第二位の約15万人と比較的大きな町であり、駅周辺の歓楽街はなかなかに立派です。飲み屋街があり、魚が美味しい、そして歴史ある町ときたら、次に来るのは、名酒場。

ご紹介するお店は1978年(昭和53年)創業の「六文銭」です。

 

石巻は、仙台駅からJR仙石東北ラインで約1時間。比較的訪ねやすい三陸の町です。また、ここからJR石巻線、気仙沼線BRTを乗り継ぎ、気仙沼へも公共交通でアクセスが可能です。お酒を片手に、のんびり三陸の旅を楽しむのもまた一興です。

 

石巻は、駅前通りや駅舎など、町のいたる所にマンガのキャラクターがいます。仮面ライダーやサイボーグ009などで知られる宮城県出身のマンガ家、石ノ森章太郎氏の作品などを展示するミュージアムが街のシンボルです。

 

山と仙台湾に囲まれ、旧北上川が市内を縦断する石巻。中心街の散策ならば、徒歩でも十分移動可能です。

 

おまたせしました、六文銭。口開けに到着です。屋号は真田丸とは関係ないとのこと。地元の大手企業の懇親会や、ちょっとしたごちそうを楽しむ集まりで使われる地元では評判のお店。早い時間でないと入れない場合もあるのでご用心。

 

大将がたつ板場に向いたカウンターが飲み屋好きには間違いなく特等席です。冷蔵ケースにはいった豊富な三陸の幸を眺めていい気分。カウンター後ろの小上がりのほか、宴会用の座敷が二階にあります。取材時は口開けこそ静かだったものの、18時には満席に。ほとんどが地元の方のようで、ご盛業の店特有の熱量が実に心地よいです。

 

樽生(500円・以下税別)、ビン(中ビン550円)ともにビールはキリン。キリンビール仙台工場でつくられた、地元生産の一番搾りが楽しめます。大手銘柄も地産地消が魅力的です。では乾杯!

 

何を飲もうか悩ませる、シンプルながらひとつひとつに魅力を感じる日本酒が5種類。一の蔵2合で600円と手頃な価格も嬉しいです。

 

食材は近隣のものにこだわられていて、お通しから気の利いた地のものを頂けました。”ずんだ”でおなじみ、宮城の枝豆。コクがあり塩味ではなく素材の旨味でビールを進ませます。

 

さてさて、どういう献立にしましょうか。石巻を代表する海鮮ブランドの金華サバ(500円)もあります。

 

筆頭の吉次(キチヂ)焼(2,500円)は、東北太平洋側の高級魚。30cmほどある深海魚で、旬の冬に三陸の市場に行くと堂々と赤く輝くキチヂがみられます。本柳かれいに、ホタテ焼きも気になります。加えて、旬の食材が日々かわっていきますので、何があるかは当日のおたのしみです。

 

まずは、悩むことなくお刺身でしょう。浅く〆られたサバは、ハリ、ツヤが非常に美しいです。脂のノリや身質のよさは断面でこの通り。

 

サバは地域や個体によって大きく印象が変化します。高級魚にも負けずとも劣らないバランスの取れた美味しさが旅心を満たしてくれます。

 

三陸は、カキ、ホタテ、アワビ、そしてウニなど、美味しいもの揃い。ウニをちびりとつまめば、思わず心の中で「んー!!」って叫んでしまいます。

 

あわせるお酒は、日高見純米(650円)。石巻の酒蔵、平孝酒造のお酒です。お店から1キロメートルほどしか離れておらず、まさに土地の酒。日本酒の仕込み水も、石巻港・仙台湾の海水も、同じ水の流れにあるもの。水が同じならば、美味しいのは当たり前かもしれません。

 

これもまた東北名物、「まつも」(500円)。東京では高級食材として扱われるまつも。冬から春が旬で、ぬめりと磯の甘さを楽しみます。

 

2合でお願いした一の蔵。美味しい肴があると、徳利が軽くなるのも早いです。※お酒は適量で。

 

主役級の食材が多くと影が薄くなりがちながら、こちらも名産品、石巻のたこ。おろしあえ(350円)でいただきます。

 

品書きにあるもの、ないもの含め、名物だらけの六文銭。何度訪ねても永遠と食べてみたい肴が続きそうです。松島、石巻、女川界隈は穴子も名物。ふっくら炊いたような食感の身は、噛むほどに旨味がでてきます。

1尾揚げて650円という手頃な値段もあって、おかわりしたいくらい。

あぁ、もうだいぶ食べて飲んでしまいました。後ろ髪を引かれる思いで、お会計をして大満足。優しい笑顔の大将や女将さんに見送られ、石巻の夜の探検に繰り出すのでした。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

海鮮料理 居酒屋 六文銭
0225-93-3100
宮城県石巻市立町2-3-10
17:00~22:00(日祝定休)
予算4,500円