神保町でカレーといえば必ず名前が挙がる名店「共栄堂」。本の街のランドマーク、ビアホール「ランチョン」の地下に佇む、1924年(大正13年)創業の老舗です。ランチタイムは行列必至ですが、嬉しいことに通し営業!時間をずらせばカレーでビールが楽しめる。これぞ大人の神保町散策の醍醐味です。
ビルの地下に眠る、本の街のもう一つの顔

世界一の古書店街、神保町。出版社も多く、本に関わる人が行き交うこの街は、同時に400軒以上のカレー提供店がひしめく「カレーの聖地」でもあります。その中でも「共栄堂」は、聖地の歴史を築き上げてきた開拓者ともいえる一軒。現存する日本最古のカレー屋さんであり、数多の作家や編集者が贔屓にしてきた名店です。
目指すお店は、同じく神保町の老舗であるビアホール「ランチョン」が入るビルの地下。歴史を感じさせる階段を降りていくと、そこには地上の喧騒が嘘のような、静かでレトロな空間が広がっています。

ランチのピークを過ぎた14時過ぎ。この時間帯を狙って訪ねるのが、ビールを飲みながら過ごしたい私のスタイル。会社員や学生で賑わうお昼とは違い、ゆったりとした時間が流れています。この時間も混んでいますが、列になることもなく、ちょうどいい。
厨房からは複雑で香ばしいスパイスの香りが漂い、この香りだけでビールが欲しくなります。
具材ごとに味が違う、唯一無二のスマトラカレー

地下にありますが、靖国通りに向けて大きく開いた入口から入る日差しで店内は開放的。好きな窓際の席に通してもらえて、まずはビールをお願いします。
瓶ビールは中瓶がキリン一番搾り、小瓶にはサッポロヱビス プレミアムブラック(400円)が用意されています。

今回は一番搾りで乾杯!
メニューは実にシンプル。ポーク、チキン、ビーフといった定番から、少し珍しいタンまで、数種類のスマトラカレーが並びます。特筆すべきは、これらがすべて別々の寸胴で調理され、味のベースが異なるという点。単なる具材違いではない、一皿一皿へのこだわりが感じられます。

今日は海老の気分。運ばれてきた一皿は、カレーの常識を覆すような、艶のある漆黒のソースで満たされています。これは20数種類のスパイスを丹念に焙煎し、小麦粉を一切使わずに野菜を煮溶かすことで生まれる、共栄堂ならではの色。
ソースを一口。いい意味で苦い。

コーヒーのような香ばしさと心地よい苦味。その奥から、凝縮された野菜や肉の旨味、そして時間差でじわりと広がる上品な辛さが追いかけてきます。

サラリとした口当たりながら、その味わいはどこまでも深く立体的。日本のカレーをイメージして訪ねると、予想外の味に驚くと思います。「スマトラ」と冠しているワケです。

そして、主役の海老。大ぶりでプリッとした食感のものがゴロゴロと入っており、噛むほどに甘みが溢れ出します。この海老の旨味が溶け込んだソースが、白飯によく絡むこと。

セットで付いてくるポタージュスープも名脇役。野菜の優しい甘さが、スパイシーなカレーの合間の良い口休めになります。このスープが飲みたくて通っている知り合いの編集者がいます。
複雑なスパイスの刺激と、キリッと冷えたビールの喉越し。本を片手に食事をするのが神保町スタイル、なんて話もありますが、私はビールグラスを片手にカレーと向き合いたい。
ごちそうさま

創業から100年。明治末期の冒険家・伊藤友治郎がインドネシア・スマトラ島で食べたカレーを伝授したというのが、共栄堂の始まり。代々受け継いだという唯一無二のレシピを、現在は三代目が守っています。ただ食事をするだけでなく、神保町という街の歴史や文化に浸れる体験ができるのが共栄堂の魅力です。
神保町駅からすぐ。書店めぐりの合間の遅いランチや、早い時間からの“カレー飲み”にも最適。、ぜひ地下へと続く階段を降りてみてください。
店舗詳細

店名 | スマトラカレー 共栄堂 |
住所 | 東京都千代田区神田神保町1-6 神保町サンビルディング B1 |
営業時間 | 11:00 – 20:00 日定休・祝不定休 |
創業 | 1924年 |