観光客が往来する新京極に、100年以上続いてきた関西寿司の店があります。店名は『乙羽(おとわ)』。棒寿司や箱寿司、いなり寿司が名物。普段遣いできる店で、観光地ながら地元の人の姿が多いです。そんな『乙羽』に、冬になると遠方からわざわざ食べに来るお客さんが増えます。目的は「蒸し寿司」です。
冬の京都は蒸し寿司食べずに帰れない
底冷えする京都の冬。伏見の粕汁、かぶら蒸しに京都おでん、定番の湯豆腐など、この時期に食べたい料理がいくつもあります。そして、忘れてはいけないのは「蒸し寿司」です。全国的に見ても珍しい、ホカホカに仕上げた寿司で、京都の名だたる名店が、冬になると「蒸し寿司あります」と張り出します。
1904年(明治37年)創業の『乙羽』も、蒸し寿司を提供する有名な店です。京極の商店街にあるという好立地にあって、値段は手頃ですし、なによりお昼から夜まで通しで営業しているのが嬉しい。京都で遊ぶときは、時間に縛られず、延々と飲み食い梯子したいですから。
店頭に蒸籠が置かれ、モクモクと蒸気をあげています。パッと見た感じは、持ち帰り寿司の店のようですが、店は奥へと長く伸びており、味わい深いぬくもりある空間で食事やお酒が楽しめます。
私はもっぱら昼飲みで利用
京都、とくに洛中にいると酒処に来ているとは思えません。ですが、京都は日本有数の酒消費地であると同時に、日本で二番目の日本酒製造量を誇る一大生産地でもあります。だから、京都の食堂や酒場は、酒造りの季節である冬に粕汁が並ぶのです。
京都・伏見でつくる月桂冠。お燗でもらいました。これも冬の京都の味です。それでは乾杯!
ちびりと飲んだところで、いよいよ目的の蒸し寿司が運ばれてきました。やや小ぶりのフタがついた伊万里焼の丼ぶりです。丼ぶりごと蒸しているため、器は持てないほど熱くなっています。
蓋をあけると、ふわっと蒸した酢飯と鱧・穴子の香りが顔をつつみました。この瞬間がたまらなく好き。
私は東京の寿司店が密集する中央区に住んでいますが、蒸し寿司を提供する鮨店は見たことがありません。これだけ、東西の往来が盛んになった今も、その土地土地に根付いた料理は広まらないのです。だからこそ、この瞬間のために冬の京都へ行きたくなります。
錦糸卵で覆われた中に箸を入れると、鱧そぼろ、焼き穴子、椎茸、たけのこ、干瓢などがでてきます。具材から、ちらし寿司を蒸したものと想像するかもしれませんが、これが全然別物。酢飯は鱧出汁が入っており、蒸しても尖った印象は皆無で、穴子などの具材と驚くほどに調和しています。
派手すぎず、しみじみと美味しい蒸し寿司。米の風味が心地よい月桂冠。どちらも同じくらい「ぬくい」のですが、これが本当にちょうどいい。体にすっと染み込み、体の芯からほぐしてくれるような気持ちになります。
棒寿司・箱寿司を少しずつ色々食べられる定番献立もおすすめ
蒸し寿司は10月中頃から3月中旬まで。それ以外の季節でも、鱧や鯛、鯖の棒寿司や箱寿司が十分美味しいので、通年でおすすめです。盛り合わせのセットで1,500円ほどなので、旅先の大人のお昼にちょうどよいと思いませんか。肉厚の鱧を甘くほくほくに焼き上げた「はも巻き寿司」も京都ならではの味です。
品書き・データ
- アサヒ・キリンビール中瓶:600円
- 月桂冠上撰:500円
- むしずし:1,500円(10月10日~3月中旬)
- 穴子棒寿司:390円~
- 小鯛の雀:1,600円
- 京の四季:1,900円
- 上方箱巻:1,160円
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 乙羽 |
住所 | 京都府京都市中京区新京極通四条上ル中之町565 |
営業時間 | 営業時間 11:00~20:00(L.O.19:45) 日曜営業 定休日 月曜日 |
創業 | 1904年 |